解雇
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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
無断欠勤など問題行動を起こす契約社員を、期間途中で解雇したいとお考えの経営者の方がいらっしゃるかもしれません。契約社員は正社員よりも社員としての権利が弱いように思われがちですが、実はそうではありません。
実際には法律でその権利が厚く保護されており、契約社員やパートなど有期雇用労働者の解雇については、正社員の解雇以上に高いハードルが課せられています。
この記事では、有期雇用労働者の途中解雇が認められるための要件や注意点について解説します。
目次
有期雇用契約者を契約期間途中に解雇できる?
有期労働契約は、会社と社員で合意して契約期間を決めた契約であるため、原則として契約期間途中で、会社から労働契約を解除(解雇)することはできません。
これは、「やむを得ない事由」がある場合は例外として、法律が「契約した期間内は働ける」という社員の雇用継続への期待を保護しているためです。
解雇が認められる「やむを得ない事由」とは
会社側は「やむを得ない事由」がある場合でなければ、有期雇用労働者を契約期間途中で解雇することはできません。
この「やむを得ない事由」とは、正社員など期間の定めのない社員の解雇において求められる、「客観的に合理的で、社会通念上相当と認められる場合」よりもさらに限定的で、厳しい事由であると判断されています。
契約期間の終了を待たずに、今すぐ解雇せざるを得ないような重大な事由をいい、著しい業務上の支障や、懲戒解雇になってもおかしくないような重大な規律違反、天災地変、雇用の継続を困難とする経営難などが挙げられます。
【やむを得ない事由の例】
- 病気やケガ、家族の介護等による就労不能
- 重大な経歴詐称
- 会社の社会的信用を毀損する重大な犯罪行為
- 悪質なハラスメント
- 横領など職務上の不正行為
- 勤務態度が極端に悪い(顧客や社員に暴言を繰り返し、注意指導を無視する、無断欠勤しながら副業していたなど)
- 地震により工場が倒壊し、事業継続が困難
- 経営状況が悪化し、人員削減が必要など
能力不足や無断欠勤は「やむを得ない事由」になるか
能力不足については、契約期間の満了時に雇用契約を打ち切れば十分と判断されることが多く、期間途中の解雇が認められる「やむを得ない事由」と認定されることはまれです。
裁判例でも、契約社員のバス運転手が軽微な事故を年6回起こしたため、能力不足を理由に解雇された事案につき、運転手の適格性を疑わせるほどの過失があるとはいえないとして、不当解雇と判断されています(大阪地方裁判所 平成25年6月20日判決)。
また、無断欠勤についても、数回程度であれば解雇は難しいでしょう。解雇が認められるには、正当な理由なく1ヶ月以上無断欠勤していたり、無断欠勤した日に副業していたりするなど相当悪質な事情が求められます。
有期労働者の解雇は、解雇が当然と思える事案でも不当解雇と判断されることが多いです。
まずは十分に改善指導を行い、改善が見られない場合は懲戒処分等を行うにとどめて、雇用期間の終了を待って雇止めするのが妥当でしょう。
【雇止め】契約期間満了時に更新しないことも可能?
契約期間満了時に更新しないことは可能ですが、雇止めには一定の制限がかけられています。
雇止めとは、有期雇用労働者との労働契約を、期間満了により打ち切ることです。
雇止めは、労働者保護のため、「客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でない場合は雇止めが認められない」という雇止め法理によって規制されています(労契法19条)。
具体的には、以下の2つのいずれかに該当するときに、世間一般から見て雇止めになっても仕方ないと思える事情がないときは雇止めが無効となり、社員が更新を求めれば会社は契約の更新を強制されます。
- 何度も有期労働契約の更新が繰り返されて雇用期間が長期に及ぶ場合
- 労働契約の満了時に契約更新がされると期待するような合理的な理由がある場合
上記の要件を満たすかどうかは、雇用の臨時性・常用性、更新回数、通算雇用期間、契約内容、雇用継続を期待させる使用者の言動の有無などから判断されます。
有期雇用契約の解雇(契約終了)手続きにおける注意点
有期雇用契約の解雇(契約終了)手続きにおける注意点として、以下が挙げられます。
- 解雇予告・解雇予告手当の義務
- 解雇理由の書面による交付
解雇予告・解雇予告手当の義務
やむを得ない事由により有期雇用労働者を途中解雇する場合は、30日前までに解雇を予告するか、予告しない場合は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。 また、予告期間が30日に足りない場合は、30日に不足する日数分の予告手当の支払いが必要です。
なお、雇止めをする際も、以下のいずれかに該当する場合は、原則として契約満了日の30日前までに雇止め予告をしなくてはなりません。ただし、契約更新しないことを雇用契約書等ですでに明示している場合は除きます。
- 有期労働契約が3回以上更新されている場合
- 入社から1年を超えて継続勤務している場合
- 1年を超える契約期間の有期労働契約を結んでいる場合
雇止めについては、解雇予告手当のように、予告手当を支払うべきルールはありません。 しかし、次の勤務先を探す期間を確保するためにも、できる限り30日前までに雇止め予告を行い、できない場合は解雇予告手当相当の予告手当を支払うべきでしょう。
解雇予告についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
さらに詳しく解雇予告とは?企業が従業員を解雇する際の手続き解雇予告が不要となるケース
以下のいずれかに該当する場合は、解雇予告や解雇予告手当の支払いをすることなく解雇することが可能です。
- 地震など天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能な場合
- 労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合(横領や窃盗、傷害、経歴詐称など相当悪質な行為を理由に解雇する場合)
- 日雇い社員の場合
- 2ヶ月以内の期間を定めて雇用している社員の場合
- 季節的業務に4ヶ月以内の期間を定めて雇用している社員の場合
- 入社してから14日以内の試用期間中の社員の場合
ただし、「1」「2」に該当する場合は、解雇予告除外認定申請書を管轄の労働基準監督署に提出した上で、認定を受ける必要があります。
解雇理由の書面による交付
労働者は解雇予告を受けた後に、解雇の理由が記載された「解雇理由証明書」を会社側に請求することができます。解雇日までの間に解雇理由証明書の交付を請求されたら、会社側は遅滞なくこれを交付しなければなりません。
ただし、本人から請求が無ければ交付する必要まではありません。解雇理由証明書には、以下の項目を記載します。
- 解雇予告した社員名
- 解雇予告日
- 解雇日
- 解雇理由
解雇理由は就業規則の適用条項まで含めて、具体的に記載します。 なお、解雇予告後に、その社員がその解雇以外の理由で退職した場合は、解雇理由証明書を発行する必要はありません。例えば、解雇予告後に社員から辞めるとの申し出があり、自己都合退職したようなケースが挙げられます。
また、雇止め予告を受けた社員から、「雇止め理由書」を請求された場合も、遅滞なく交付しなければなりません。
解雇の手続きについて詳しく知りたい方は、以下の記事も合わせてご覧ください。
さらに詳しく問題社員を解雇するときの進め方・手順は?正当な解雇理由などを解説有期雇用労働者の解雇が不当と判断されるとどうなる?
正当な理由がないのに有期雇用労働者を安易に解雇してしまうと、不満を抱いた社員から不当解雇として訴えられるおそれがあります。裁判などで不当解雇と評価されると、会社に以下のようなリスクが生じます。
- 解雇が無効となる
- 社員を復職させた上で、解雇日から復職日までの未払い賃金(バックペイ)の支払いが必要となる
- 社員から慰謝料などの損害賠償金を請求される
- 他の社員にも波及し、一斉に多額の金銭の支払いが必要となる
- SNS等で内部告発され、企業イメージが悪化する
これらのリスクを避けるためにも、有期雇用労働者を期間途中に解雇しようとする場合には、正当に解雇できるのか、又は契約期間の満了まで待って雇止めするべきなのか慎重に検討するべきです。判断に悩む場合は労働問題に強い弁護士にご相談ください。
有期雇用契約の解雇が不当とみなされた裁判例
事件の概要(令和2年(ヨ)第43号 仙台地方裁判所 令和2年8月21日判決)
本件は、X社(タクシー会社)が新型コロナの影響により債務超過が膨らんだことを理由に、有期雇用労働者であるタクシー運転手4名を整理解雇したところ、これを不服とした運転手らが整理解雇は無効であるとして、会社側を訴えた事案です。
裁判所の判断
裁判所は、本件解雇は有期雇用労働者の整理解雇であるため「やむを得ない事由」が必要であり、これを判断する際は、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人員選択の合理性、④手続きの相当性を考慮して判断すべきと基準を示した上で、以下のとおり、本件につき当てはめを行いました。
- 人員削減の必要性
X社はコロナ禍で売上が激減していたが、運転手の休業や臨時休車措置、銀行融資等を活用すれば、 当面の資金繰りは可能であったため、人員削減に高度の必要性があったとはいえない。
- 解雇回避措置の相当性
X社は一部の運転手の休業等の解雇回避措置を講じてはいるが、雇用調整助成金や臨時休車措置が利用できたにもかかわらず、これを利用していないため、解雇回避措置の相当性も相当に低い。
- 人員選択の合理性
X社は夜勤しか乗車できない社員や顧客からのクレームが多い社員等を人員選択の基準とした旨主張するが、本件の運転手らがこの基準に該当することを証明する明らかな証拠がないため、人員選択の合理性は低い。
- 手続きの相当性
X社は団体交渉において本件解雇通知を交付等しているが、その記載内容はコロナ感染防止等、整理解雇との関連性に欠ける記載が多く、整理解雇に際して十分な説明をしたとはいえず、手続きの相当性も低い。
裁判所は、①~④の事情、特に雇用調整助成金を利用していないことに加えて、本件解雇が有期労働者の契約期間途中の解雇であることを総合的に考慮し、本件解雇は「やむを得ない事由」に当たらず、無効と判示しました。
ポイント・解説
コロナ禍であっても、解雇回避努力が足りない等を理由に整理解雇が認められなかった裁判例です。
本件のように、契約社員など有期雇用労働者の途中解雇については、裁判所も労働者側に有利な判決を出すことが多いです。会社側としては、経営状況が悪化すると真っ先に契約社員やパートを解雇し、人件費を削減しようと思われるかもしれません。
しかし、不当解雇リスクを避けるためにも、有期雇用労働者の期間途中の解雇については慎重に判断しなければなりません。解雇ではなく予備的な雇止めや、退職勧奨による合意退職も視野に入れる必要があるでしょう。
有期労働契約の解雇・契約終了については、労務問題に強い弁護士にご相談ください
期間の定めのある有期労働者の期間途中の解雇は、正社員の解雇以上に高いハードルが課せられているため、解雇無効となるリスクが高く、慎重に検討する必要があります。
解雇の有効性については高度な法的判断が必要とされるため、「この社員を正当に解雇できるのか?」と疑問を持たれた場合は、労務問題に強い弁護士に相談することをお勧めします。弁護士法人ALGには企業側の労働法務に精通する弁護士が多く在籍しています。
問題社員の個別事情に応じて、期間途中の解雇を有効に行えるのか、あるいは契約期間の満了を待って雇止めとするべきか等の判断について具体的にアドバイスすることが可能です。ぜひ私たちにご相談ください。
この記事の監修

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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