※会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません
※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。

TEL.0120-686-041 お問い合わせ

解雇した元従業員からの団体交渉に応じる義務はある?流れやポイントについて

    解雇

    #元従業員

担当弁護士の写真

監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

解雇した元社員が合同労組やユニオンなどに加入し、解雇の有効性を争ってきたとき、その団体交渉の申し込みに会社は応じる必要があるのでしょうか。

団体交渉を正当な理由なく拒否すると、不当労働行為として会社側がペナルティを受けるおそれがあります。
そのため、団体交渉に応じるべきか否かの判断基準について理解しておくことが重要です。

この記事では、解雇した元社員からの団体交渉に応じる基準や注意点について解説していきます。

解雇した元従業員からの団体交渉に応じる義務はある?

労働組合法7条2号は、会社に対し、「雇用する労働者の代表者との団体交渉を正当な理由なく拒否すること」を禁止しています。解雇した元社員との雇用関係は終了しているため、一見すると「雇用する労働者の代表者」に当たらず、団体交渉に応じる法的義務はないようにも思われます。

しかし、解雇した元社員が解雇や雇止めの有効性について争っているような場合にまで、団体交渉を拒否できるとするのは不適切といえます。

そのため、元社員が解雇や退職条件などを争って団体交渉を求めてきた場合は、会社側は団体交渉に応じる義務があると考えられています。

団体交渉の拒否による不当労働行為

不当労働行為とは、労働組合法で禁止されている、労働組合活動への妨害行為のことです。

会社が正当な理由なく団体交渉を拒否することは、不当労働行為にあたり違法です。

労働組合が会社から不当労働行為をされたと思ったときは、労働委員会に対し救済の申立てをすることができます。
労働委員会による審査の結果、団体交渉拒否が不当労働行為に当たると認定された場合は、是正するよう救済命令が出されます。

救済命令に応じないと、過料や罰金、禁固の対象となります。また、不当労働行為によって労働組合や労働者個人が損害を受けた場合は、損害賠償責任を負う可能性もあります。

解雇後、長期間経過した団体交渉への対応

解雇された社員が解雇後、一般的に見て合理的な期間内に、解雇の撤回などを求めて団体交渉を申し入れてきた場合は、会社は応じる義務があります。

ただし、解雇から10年後など、長い年月が経った後に団体交渉を申し込まれた場合は、もはや「使用者が雇用する労働者」とはいえず、団体交渉を拒否できる可能性があります。

団体交渉に応じるべき「合理的期間」について、裁判例は、解雇から団体交渉申入れまでの期間の長さだけでなく、団体交渉の申入れに至るまでの経緯など、その他の事情も考慮して判断すべきと示しています。

やむを得ない事情で期間が経過した場合

解雇後、長い年月が経過した場合であっても、やむを得ない事情がある場合、会社は団体交渉に応じる義務が課されることがあります。

長期間の経過にやむを得ない事情が認められる代表例として、アスベスト被害が挙げられます。

裁判例では、アスベストにより中皮腫や肺がんを発症したと主張する労働者が、退職してから相当の期間が経過した後に労働組合に加入し、補償を求めて団体交渉を申し入れた事案につき、アスベスト被害の数十年後に発症するという特殊性を踏まえれば、社会通念上、合理的期間内に団体交渉の申入れがされたと判断され、会社は団体交渉に応じるべきと判示しています(大阪高等裁判所 平成21年12月22日判決 住友ゴム工業事件)。

長期間経過後の団体交渉の拒否が認められた裁判例

【昭和60年(行ウ)56号 東京地方裁判所 昭和63年12月22日判決】

(事案の内容)

労働者Xは、転任命令の拒否を理由に電機会社Yより解雇されました。

Xは当時所属していた労働組合Aを通じ、解雇撤回を求めてYと何度も協議しましたが、合意できず終了し、組合を脱退しました。

Xはその後もYと裁判を続け、解雇から7年7ヶ月後に新たな労働組合Bに加入し、それから1年3ヶ月後にYに解雇撤回を求める団体交渉を申し込みました。

しかし、Yは過去に組合Aと協議済みであることや、解雇から9年も経っていること、現在裁判で係争中であることを理由に拒否しました。
そこで、Xは労働委員会に救済命令を申し立てましたが、棄却されたため、裁判を起こした事案です。

(裁判所の判断)

裁判所は、解雇からの時間の経過やその間の事情によっては、解雇撤回を求める団体交渉の申入れに合理性がないと判断される場合もあり得ると判断基準を示しました。

その上で、本件では、解雇当時Xが所属していた労働組合とすでに協議している事実や、Xは解雇後に仮処分や街頭での支援活動を続けてきたが、解雇から8年10ヶ月間まったく団体交渉していない事実、長期間経過後の団体交渉の申入れにやむを得ないといえる事由がないといった事情を踏まえると、団体交渉の申入れに合理性は認められないとして、団体交渉拒否を認めました。

(判例のポイント)

裁判所は、解雇から8年10ヶ月と長い年月が経っていることや、新たな労働組合への加入から団体交渉の申入れまでが1年3ヶ月も空いていること、以前所属していた労働組合とすでに協議済みであることなどを理由に、団体交渉の拒否に正当な理由が認められると判示しています。

解雇後であっても、基本的に会社は団体交渉に応じる義務があります。

しかし、本判決では、解雇から団体交渉申入れまでの期間の長さや、団体交渉の申入れに至るまでの経緯など、個別の事情を考慮して団体交渉拒否の正当性を評価した点に意義があります。

長期間経過後の団体交渉の拒否が認められなかった裁判例

【昭和58年(行ツ)15号 最高裁判所第三小法廷 昭和61年7月15日判決】

(事案の内容)

労働者XとYは分会を結成して労働組合に加入し、解雇後それぞれ6年10ヶ月と4年5ヶ月経過後に、解雇の撤回を求めて団体交渉を申し入れたところ、両者がだいぶ前に退職していることや、裁判で争っている最中であること等を理由に、会社が団体交渉の申入れを拒んだという事案です。

これを不服とした両者が救済を申し立て、不当労働行為と判断されましたが、会社側は納得いかず裁判を起こしました。

(裁判所の判断)

裁判所は、解雇からXは6年10ヶ月、Yは4年5ヶ月後に団体交渉を申し入れているが、両者は解雇トラブルを漫然と放置していたわけではなく、分会結成・組合加入してから5日後と直ちに団体交渉を申し入れており、その間解雇の撤回を求めて裁判も起こしていたもので、団体交渉申入れが時機的に遅れたとはいえないとして、会社側は団体交渉に誠実に応じるべき義務があると判示しました。

(判例のポイント)

解雇後6年10ヶ月、4年5ヶ月経過後の団体交渉の申入れについて、会社側の拒否を認めなかった判例です。

解雇者らは裁判で解雇の有効性を争ってきただけで、解雇当時所属していた労働組合によって団体交渉が行われた事実はありませんでした。
また、解雇者らは団体交渉申入れの5日前に労働組合を結成しており、組合加入から速やかに団体交渉を申し入れたという事情も存在しました。

これらの事情を踏まえて、裁判所は、団体交渉拒否は不当労働行為にあたると判断したものと考えられます。

解雇した元従業員と団体交渉する際の流れ

解雇した元社員と団体交渉する際の流れは、以下のとおりです。

  • 労働組合から団体交渉の申入れ(団体交渉申入書、要求書、加入通知書などが届く)
  • 初動対応(申入書などの内容精査と対応方法の検討、組合の情報収集など)
  • 予備折衝(交渉日時、場所、出席者数の調整など)
  • 団体交渉に向けた準備(出席者の決定、要求書への回答、想定問答の準備など)
  • 団体交渉当日の交渉
  • 合意または決裂で団体交渉が終了

団体交渉の議題が解雇撤回の場合、正当な解雇理由が認められるかどうかが重要な論点となります。
ただし、解雇の有効性については高度な法的判断が求められるため、専門家である弁護士に相談して判断してもらうことをおすすめします。

団体交渉の具体的な進め方について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

さらに詳しく団体交渉を申し入れられた!

解雇した元従業員からの団体交渉に応じる際のポイント

解雇した元社員からの団体交渉に応じる場合のポイントとして、以下が挙げられます。

  • 解雇の撤回や不当な要求には屈しない
  • 正当な解雇理由を説明する
  • 金銭での解決の可能性を見極める

解雇の撤回や不当な要求には屈しない

解雇した元社員から団体交渉を申し入れた場合、基本的に会社には誠実に交渉するべき義務があります。

しかし、誠実交渉義務は、無理やり譲歩して労働者の要求に応じる義務までは含みません。
あくまでも団体交渉のテーブルに着き、誠実な交渉を行う義務しか定められていません。

そのため、会社側において正当な理由があると判断して解雇したのであれば、解雇の撤回や不当な要求に応じる必要はありません。

労働組合に対して、要求に応じられない根拠を示して説明することで十分です。
話し合いの結果、合意できなかった場合に交渉を打ち切ったとしても、誠実交渉義務違反にはあたらないと判断されます。

正当な解雇理由を説明する

会社として解雇を撤回しないという結論に至った場合は、団体交渉の場で根拠となる資料を示して、正当な解雇理由を十分に説明する必要があります。

日本では解雇が認められるハードルが高く、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められなければ解雇は無効となります(労契法16条)。

単に気に入らないなど曖昧な理由では解雇できず、解雇するにはそれ相応の理由が求められます。

正当な解雇であることを証明するには、成績不振や勤怠不良、勤務態度の悪さなどを証明する資料、これまでの改善指導歴といった客観的な証拠を示すことが重要となります。

金銭での解決の可能性を見極める

会社は労働者の不当な要求に応じる必要はありません。

ただし、団体交渉が難航して裁判へと発展した場合、会社としても期日対応や裁判費用など大きな負担がかかることになります。

そのため、裁判へと進んだ場合のデメリットを考慮し、団体交渉の段階で金銭解決ができるかどうか見極めることも大切です。

労働者が解雇撤回を求めていたとしても、実際には退職を前提に金銭解決を求めている場合もあります。団体交渉を通じて、労働組合の本心を探りましょう。

できれば弁護士に相談し、和解の落としどころについて法的アドバイスを受けることをおすすめします。

解雇した元従業員との団体交渉が決裂したらどうなるのか?

団体交渉で合意できず決裂した場合は、団体交渉を申し入れた解雇者が次にどのような手段をとってくるか、あらかじめ想定しておく必要があります。

具体的には、次のような手段がとることが多いです。

  • 街頭でのデモ活動やストライキ、ビラ配り
  • 労働委員会への不当労働行為の審査申立て
  • 労働委員会の個別労働紛争のあっせん手続き
  • 労働局へのあっせん申請
  • 労働基準監督署への通報
  • 労働審判の申立て
  • 裁判の提起

団体交渉が決裂する見込みとなった場合は、労働者側がこれらの手段をとってきた場合の対応方法について、あらかじめ弁護士に相談して検討しておくのが良いでしょう。

解雇に関する団体交渉は弁護士にお任せください。

団体交渉を自社だけで対応すると、気づかぬうちに団体交渉のルールに違反し、交渉で不利な状況となったり、裁判に発展し高額の支払いを命じられるおそれがあります。
また、安易に合意した結果、会社経営にも悪影響を与えかねません。

会社に有利に交渉を進めるためにも、解雇に関する団体交渉を求められた場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に任せれば、団体交渉の事務連絡や同席を依頼できる、迅速な対応方法や解決策を提示してもらえる、裁判対応も可能など様々なメリットを受けることができます。

弁護士法人ALGには団体交渉を得意とする弁護士が多数在籍しており、団体交渉の全面的なサポートが可能ですので、ぜひご相談ください。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

プロフィールを見る

企業の様々な労務問題 弁護士へお任せください

企業側労務に関するご相談 初回1時間 来所・ zoom相談無料

会社・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受付けておりません

※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。


受付時間平日 09:00~19:00 / 土日祝 09:00~18:00
  • ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
  • ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
  • ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
  • ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
初回1時間 来所・zoom相談無料
TEL.0120-686-041

※会社・経営者側専門となりますので労働者側のご相談は受付けておりません。
※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。