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業務上横領の証拠とは?集め方や問題社員への処分について

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

会社内で業務上横領の事件が発生したときに、最も重要になるのが証拠の収集です。

十分な証拠固めができないと、横領されたお金を取り返せなかったり、解雇した場合に不当解雇として訴えられたりするリスクがあります。

また、証拠もない段階で本人に事情確認を行うと、証拠隠滅が行われる可能性もあるため注意が必要です。
この記事では、業務上横領のケースごとの証拠の集め方や、横領した社員への適切な対応方法について解説していきます。

業務上横領とは

業務上横領とは、仕事の一環として預かっているお金や物を、不正に自分のものにしたり処分したりする行為です。典型例として、経理担当者が架空の請求書を作成して会社のお金を着服するケースが挙げられます。

業務上横領罪が成立した場合は、10年以下の懲役が科せられます(刑法253条。被害額が大きければ、それだけ刑が重くなる可能性は高まります。

業務上横領罪の時効は7年です。また、民事上の損害賠償請求の時効は、被害者が被害の事実と犯人を知ったときから3年、横領されたときから20年のいずれか早い方です。

業務上横領の立証は、監視カメラの映像、帳簿、メールのやりとりなど客観的な証拠が必須であり、自白のみでは不十分と判断される可能性があります。

業務上横領罪は少額でも成立する?

業務上横領罪の対象は、「業務上自己の占有する他人の物を横領した者」であり、「他人の物」を横領したかどうかが判断基準となります。たとえ1円でも社員が会社の財産を懐に入れれば、業務上横領罪が成立します。

ただし、被害額が少額であるケースでは、会社側が本人と示談交渉し、被害額が全額弁済されることで事件化させないことが多いです。

もっとも、はじめは少額でも長期にわたり横領を続けているうちに被害額が大きくなったり、社内で不正行為が横行したりするなどのリスクが生じます。業務上横領の被害に気がついたら、すぐに証拠を集め、適切に対応する必要があります。

業務上横領を立証する証拠の具体例

社員による横領が発覚した場合、まずは証拠を集めることが必要です。
証拠がないと解雇が無効となる、横領されたお金を返してもらえない、刑事告訴が受理されないなどの問題が発生します。

業務上横領を証明する証拠の例は、以下のとおりです。

  • 不正送金の記録
  • 監視カメラの映像
  • レジの操作履歴
  • 転売状況がわかるネット上の画面
  • 横領に関係する内容が書かれたメール
  • 本人の自白、関係者の証言など

刑事裁判では、「誰が」「どこで」「いつ」「何を」「どのような方法で」横領したのかを証明できる客観的な証拠の提出が求められます。本人の自白だけでは足りませんので、できる限り多くの証拠を集めましょう。

業務上横領のケース別の証拠の集め方

業務上横領の典型的なケースとして以下が挙げられます。

  • 経理担当者による会社預金の私的利用
  • 取引先より集金した現金の着服
  • レジ担当者による売上金の横領
  • 会社の商品や備品の持ち帰り
  • 会社の商品の転売

これらのケース別の具体的な証拠の集め方について、以下で見ていきましょう。

経理担当者による会社預金の私的利用

例えば、経理担当者が架空の経費を計上して、会社預金から自己の口座や協力者の口座に送金し着服するケースが挙げられます。

不正な送金が疑われる場合は、口座の入出金記録や会計帳簿、取引履歴、請求書、領収書などを確認し、不正な送金がないかチェックします。
特に振込先が不正な個人名義の口座である場合や、送金のタイミングが不自然な場合は、横領の証拠として有力となります。

また、帳尻を合わせるため帳簿を改ざんしている可能性もあるため、通帳と帳簿の照合も求められます。
さらに、架空・偽装の契約書や注文書、見積書等がないかも調査しなければなりません。

不正な送金については、業務上横領罪ではなく電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)が成立することが多いです。

取引先より集金した現金の着服

社員が取引先から集金した現金をそのまま持ち帰ったケースです。

会計帳簿上では未入金となっているため、会社から取引先に請求書を発行してしまい、「すでに支払った」と苦情が入り、横領が発覚することが多いです。

このような場合は、取引先に謝罪し、発行した領収書をただちに回収することが証拠確保のうえで重要です。取引先に社内の不正行為が漏れるのをおそれて対応が遅くなると、領収書を横領した社員によって破棄されてしまう可能性があります。

入手した領収書や当日の社員の行動がわかる書類(業務日報やメール履歴)などを調査し、領収書の筆跡もチェックするなどして、横領した社員を特定しましょう。

会社の商品の持ち帰り

会社の店舗で販売している商品を、社員が精算せずに持ち帰ってしまうケースがあります。

この場合は、店内や倉庫から商品を勝手に持ち出している姿を撮影した防犯カメラ映像と、精算していないことが分かるレジの防犯カメラ映像が重要な証拠となります。

ただし、1回の持ち帰りだけでは「うっかり代金を支払うのを忘れた」と言い逃れされる可能性があるため、複数回の持ち帰り映像を記録する必要があります。

また、レジの処理履歴や帳簿などを確認することで、商品の未清算や在庫の減少なども確認できます。
なお、同僚から事情聴取する方法もありますが、共犯者の可能性もあるため人選は慎重に行う必要があります。

会社の商品の転売

会社の商品を、社員が無断でネットオークションやフリマアプリなどで転売するケースがあります。

この場合は、本人が転売している証拠だけでなく、本人が転売した商品が会社の商品である証拠を確保する必要があります。
本人から「自分で買った商品を転売している」と言い訳される可能性があるからです。

会社で紛失している商品に品番がある場合は、実際に会社側が転売の疑われる商品を購入することで、品番が一致するかチェックすることができます。
購入時は、ネットオークション等の画面を保存し、転売の証拠として残しておきましょう。

購入後に同じ商品だと発覚した場合は、本人への事実確認の際にオークションサイト等へのログインを求めて、販売履歴を提出させます。
証拠隠滅防止のため、予告なく本人を呼び出して事情聴取すべきでしょう。

業務上横領の証拠がない場合はどうなる?

業務上横領については証拠を確保できないと、会社は以下のリスクを受ける可能性があります。

  • 被害額の返還請求が認められない
    証拠がないと民事裁判で横領された被害額の返還を求めても、敗訴するリスクがあります。
    実際、証拠不十分で会社側が敗訴し、被害額を回収できないケースは少なくありません。
  • 刑事告訴が受理されない
    重大事件でない限り、証拠は警察ではなく被害者側で集める必要があります。証拠不十分だと刑事裁判にかけられないため、刑事告訴しても受理されず刑事責任を追及できない可能性があります。
  • 懲戒解雇しても無効になる
    横領をした可能性が高い社員でも、十分な証拠がないまま懲戒解雇すると、裁判で不当解雇と判断されて、高額の金銭の支払いが命じられるおそれがあります。

証拠がない場合にしてはいけないこと

業務上横領の証拠がない場合にしてはいけない行為として、以下が挙げられます。

  • 加害者本人に事情確認する
    犯行を否定されたらそれ以上追及できなくなりますし、真犯人であった場合は証拠隠滅に走る可能性があります。
  • 自白を強要する
    犯人と決めつけて本人の意思に反して自白させれば、名誉棄損等を理由に損害賠償請求されるだけでなく、脅迫罪や強要罪に当たる可能性もあります。
  • いきなり懲戒解雇する
    証拠なく懲戒解雇すると裁判で不当解雇と判断されて、復職や解雇期間中の給与の支払いを命じられるおそれがあります。
  • 多数の社員に協力を求める
    誰構わず協力を求めると、共犯者が紛れこんでいて、証拠隠滅を行うリスクがあります。事情聴取する際は信頼できる社員を選びましょう。

業務上横領をした社員への対応・処分

社内調査の結果、社員による横領が発覚し証拠も確保できたら、会社として放置することなく、

  • 損害賠償請求
  • 懲戒処分
  • 刑事告訴

という3つの対応を行うことが考えられます。
以下で具体的な内容について見ていきましょう。

損害賠償請求

業務上横領による被害額については、社員に対して損害賠償請求することが可能です。

まずは話し合いによる返還請求を行い、応じない場合は裁判などの法的手段をとることになります。
身元保証人がいる場合は、そちらに請求できるかどうかの検討も必要です。

事情聴取の結果、本人が横領を認めた場合は、まず支払誓約書の提出を求める必要があります。
横領した事実や横領した金額についての返済・損害賠償を約束する旨を書かせます。誓約書は裁判に進んだ場合にも有力な証拠となります。

また、返済が滞った場合に強制執行できるよう、返済額や支払時期を定めた書面を作成し公正証書にしておくことも必要です。

懲戒処分

業務上の横領は、会社との信頼関係を裏切る行為であるため、懲戒解雇を検討することが一般的です。ただし、懲戒解雇は最も重い懲戒処分であり、次の転職に不利になるなど社員への影響は大きいため、法律で厳しく制限されています。

懲戒解雇の有効性は、被害額や横領の回数・期間、横領した社員の地位や勤怠状況、過去の懲戒事例との比較など様々な事情を踏まえて判断されます。

横領された金額が低額な場合や、証拠が不十分である場合に懲戒解雇を行うと、不当解雇と判断されるおそれがあります。解雇に伴うリスクは大きいため、状況によっては、退職勧奨による合意退職や普通解雇などを検討する必要があるでしょう。

刑事告訴

横領の被害額の大きさや、横領発覚後の社員の対応によっては、刑事告訴を行って刑事上の責任を追及することも考えられます。刑事告訴をした場合は、弁償の有無が刑事処分の結果に大きく影響するため、弁償を受けられる可能性も高まります。

刑事告訴する場合は、警察署に対して告訴状を提出します。告訴が受理されれば、捜査機関が犯人の取り調べなど捜査し、検察官が起訴して刑事裁判にかけるか否か判断します。

検察官の判断を左右するのは、証拠の有無や被害金額、弁償の有無などです。起訴されると刑事裁判が行われ、有罪か無罪か、実刑か執行猶予かが決定されます。
もっとも、社員が逮捕・起訴されると、報道等で横領の事実が社外に広まる可能性があるため、告訴には慎重な検討が求められます。

業務上横領の証拠の有効性に関する裁判例

事件の概要

(平成30年(ワ)第3828号 横浜地方裁判所 令和元年10月10日判決 ロピア事件)

スーパーマーケットYの社員Xが、商品の精肉をレジで精算せずに持ち帰ったことを理由として、YはXを懲戒解雇しました。これを不服としたXが不当解雇として裁判を起こした事案です。
Xによる精肉持ち帰りを目撃した同僚からの報告を受けて、会社が店内の防犯カメラを確認したところ、社員が会計せずに精肉6点(3000円相当)を持ち帰る様子が写っていました。そのため、持ち帰り行為の2日後に社員に事情聴取して警察に通報し、のちに懲戒解雇したという事情がありました。

裁判所の判断

裁判所は以下を理由に、本件の懲戒解雇を無効と判断し、さらに名誉棄損に対する慰謝料として77万円の支払いを命じました。

  • 本件持ち帰り行為は、Xが精肉商品を未精算のまま店外へ持ち出した1回の行為であり、その様子自体、精算を忘れて商品を持ち出してしまったとのXの説明と矛盾するものではなく、故意による持ち帰りであることを示す証拠はないため、懲戒解雇は無効である。
  • Yは全店舗に対して、Xの実名を挙げて「窃盗事案が起きました」「計画性が高く、情状酌量の余地も認められない」「本事案は刑事事件になります」などと掲示しているが、これらの行為はXの社会的評価を低下させるものであり、名誉毀損に当たる。

ポイント・解説

裁判所は、単に会計を忘れていただけの可能性もあるとして、不当解雇と判断しています。

本件では、会社側は持ち帰り行為があった2日後に、横領が疑われる社員に事情聴取を行っています。

しかし、防犯カメラで1回だけ持ち帰りの映像が確認されただけでは、社員から「うっかり会計するのを忘れていた」と主張される可能性があり、横領の証拠としては不十分です。

持ち帰り1回の発見だけで横領と決めつけるのではなく、しばらく様子を見て、持ち帰りが複数回繰り返されていることを防犯カメラで確認した上で、本人から横領の事情確認を行うべきであったと考えられます。証拠の集め方が不十分であると、被害者である会社側がペナルティを受ける可能性があるためご注意ください。

業務上横領の証拠の集め方や本人への事情聴取については弁護士にご相談ください

横領発覚時に最も重要になるのが、横領を証明する客観的な証拠の確保です。

十分な証拠の確保と本人からの自供を得ることが、損害賠償請求や懲戒解雇、刑事告訴などを円滑に進めるための土台になります。十分な証拠固めができずに犯人と決めつけて処分すれば、冤罪として名誉棄損と訴えられるおそれもあるため注意が必要です。

業務上横領について自社だけで対応するのはリスクが高いため、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。弁護士であれば、証拠の集め方や証拠がない場合の対応、本人への事情聴取や処分等についてアドバイスすることが可能です。また、裁判や刑事告訴となった場合も万全にサポートできるため、ぜひご相談ください。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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