残業代

監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
残業代とは、会社ごとに定められた所定労働時間を超えて働いた場合に支給される賃金をいいます。
残業代は、労基法によりその計算方法が厳しく定められており、これが適切に守られていないと、未払い残業代が発生し、会社と社員間でトラブルになるケースも少なくありません。
そこで、このページでは、残業代とはいったい何なのか、その定義や種類、正しい計算方法などについて解説していきます。
目次
残業代とは
残業代とは、9時から17時など、会社ごとに決められた勤務時間(所定労働時間)を超えた労働に対して払う基本給以外の賃金を指します。
残業代に割増が必要なのは、「1日8時間、週40時間」の法定労働時間を超えて働いた場合と、「22時~5時」の深夜労働を行った場合、「週1回、4週4日以上」の法定休日に労働した場合となります。
なお、労働時間とならないものとして、私用外出や休憩時間、個人の判断による早出などが挙げられます。
例えば、業務上の必要性がないのに、ラッシュを避けるため自主的に早朝に出社した場合は、会社の指揮命令下にないため労働時間とは認められず、残業代支払いの対象となりません。
残業代の種類と割増賃金率
社員に時間外労働や深夜労働、法定休日労働させたときは、割増賃金を支払わなければなりません(労基法37条)。
割増賃金率については、発生する条件ごとに、以下のように定められています。
割増賃金率 | |
---|---|
①時間外労働 | 25%以上(月60時間超:50%以上) |
②深夜労働 | 25%以上 |
③法定休日労働 | 35%以上 |
④時間外労働+深夜労働 | 50%以上 |
⑤法定休日労働+深夜労働 | 60%以上 |
①時間外労働
労基法は、1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて働くことを「時間外労働」と定めています。
社員に時間外労働させた場合は、通常支払う賃金の25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
また、月60時間を超える時間外労働については、50%以上の割増率が適用されます。
割増賃金の計算式は以下のとおりです。
時間外割増賃金=1時間あたりの賃金×時間外労働の時間数×1.25
1時間あたりの賃金(月給制)=月給 ÷ 月の平均所定労働時間
※月の平均所定労働時間=年間所定労働時間÷12
例えば、月給30万円、月の平均所定労働時間が160時間の社員が1時間の時間外労働を行ったとします。
この場合の1時間あたりの賃金は30万円÷160時間=1,875円、割増賃金は1,875円×1.25×1時間=2,344円となります。
②深夜労働
労基法は午後10時から午前5時までに働くことを深夜労働と定めています。
社員に深夜労働させた場合は、25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
ただし、厚生労働大臣の承認により、期間や地域を限定して、午後11時から午前6時までを深夜労働とする場合もあるためご注意ください。
割増賃金の計算式は、以下のとおりです。
深夜割増賃金=1時間あたりの賃金×深夜労働の時間数×1.25
例えば、1時間あたりの賃金1,500円の社員が深夜労働を6時間行ったケースを想定します。
この場合の割増賃金は、1,500円×1.25×6時間=11,250円になります。
なお、満18歳未満の年少者や請求した妊産婦など、深夜手当の支払いとは関係なく深夜労働させられない社員もいるため注意が必要です。
③法定休日労働
労基法は休日を1週間のうち少なくとも1日、または4週間で4日以上与えなくてはならないと定めており、これを法定休日といいます。
そして、法定休日に働くことを休日労働といいます。
休日労働させた場合は、通常の賃金の35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
計算式は次のとおりです。
休日割増賃金=1時間あたりの賃金×休日労働の時間数×1.35
例えば、1時間あたりの賃金1,500円、休日労働を8時間行ったケースを想定します。
この場合の休日手当は、1,500円×1.35×8時間=16,200円になります。
なお、法定外休日の扱いには注意が必要です。
例えば、週休2日の会社で、日曜を「法定休日」と特定したならば、土曜は「法定外休日」となり休日割増賃金は発生しません。
④時間外労働+深夜労働
時間外労働が22時~5時の深夜時間帯に及んだときは、時間外割増25%+深夜割増25%=50%以上の割増賃金を支払う必要があります。
割増賃金の計算式は以下のとおりです。
時間外かつ深夜労働の割増賃金=1時間あたりの賃金×時間外労働が深夜の時間帯に及んだ時間×1.5(時間外1.25+深夜0.25)
例えば、1時間あたりの賃金が1,500円、時間外労働が2時間だけ深夜の時間帯に及んだケースを想定します。
この場合の割増賃金は、1,500円×2時間×1.5=4,500円となります。
⑤法定休日労働+深夜労働
法定休日に深夜労働させたときは、休日割増35%+深夜割増25%=60%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
割増賃金の計算式は次のとおりです。
休日深夜労働の割増賃金=1時間あたりの賃金×法定休日に深夜労働した時間数×1.6(休日1.35+深夜0.25)
例えば、1時間あたりの賃金が1,500円で、法定休日に2時間深夜労働した場合の割増賃金は、
1,500円×2時間×1.6=4,800円となります。
なお、法定休日は暦日(0時~24時)で判断されるため、例えば法定休日(日曜)から月曜にまたがる勤務をした場合は、日付をまたいだ時点で、通常の労働日となるため、休日手当の支払い義務はなくなります。
例)法定休日(日曜)に、19時から5時まで(休憩1時間)働いた場合
- 19時~22時:(休日手当)35%
- 22時~24時:(休日手当+深夜手当)60%
- 0時~4時:(深夜手当)25%
残業代の計算方法
残業代は、基本的に以下の計算式を使って求めます。
残業代(割増賃金)=残業をした社員の1時間あたりの賃金×割増率×残業時間
残業代の計算は、まず1時間あたりの賃金を求めるところから開始します。
その金額に一定の割増率と残業時間をかけたものが、残業代となります。
支払方法ごとの1時間あたりの賃金の求め方は、以下のとおりです。
【時給の場合】
1時間あたりの賃金=時給
【日給の場合】
1時間あたりの賃金=日給÷1日の所定労働時間
【出来高給の場合】
1時間あたりの賃金=賃金計算期間における出来高給の総額÷当該賃金計算期間における総労働時間
【月給の場合】
1時間あたりの賃金=月給÷1ヶ月の平均所定労働時間
※1ヶ月の平均所定労働時間=(1年の日数-年間休日数)×1日の所定労働時間÷12
残業代の計算のベースとなる賃金には、基本給だけでなく、役職手当や資格手当、精皆勤手当といった諸手当も含まれます。
ただし、社員の個人的な事情に応じて付与される、通勤手当や住宅手当などの手当については、残業代の計算から除外することが可能です。
残業代の計算方法について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
さらに詳しく残業代の正しい計算方法とは?残業代に関する注意点
残業代の計算は1分単位で行う
残業代は1分単位で計算することが、労働基準法で定められています。
顧客への対応や残務処理が長引いて、数分だけ残業するようなことがあるかもしれません。
たとえ数分でも、法定労働時間を超える労働を行ったならば、残業代を支払わなければなりません。
例えば、パートの残業代を15分単位で勤怠管理し、14分以下は切り捨てて残業代を支給しないといった運用は違法になるため注意が必要です。
ただし、例外として、1ヶ月分の残業時間の合計時間について、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げるといった運用は認められています。
残業させる場合は36協定の締結が必要
法定労働時間を超える時間外労働や休日労働をさせるためには、労使間で36協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
36協定を結ばずに時間外労働や休日出勤させたり、36協定が制限する上限時間を超えて働かせたりした場合は法律違反となり、刑事罰の対象となります。
もっとも、36協定の締結は「時間外労働させても会社として刑事罰が科されなくなる」という免罰的効果を持つにすぎません。
実際に残業を命じるには、労働協約や就業規則、雇用契約書などに「業務上の必要性がある場合に36協定の範囲内で時間外労働を命じることができる」ことを明確に定めておくことが必要です。
残業できる時間には上限規制がある
「36協定を結びさえすれば、無制限に残業できる」と思われるかもしれませんが、それは誤解です。
36協定を結べば残業できる時間は増えますが、上限があります。
36協定を結んだ場合の残業時間の上限は、以下のとおりです。
(原則)
- 時間外労働:月45時間、年360時間以内
(繁忙期など臨時的な理由で特別条項を結んだ場合)
- 時間外労働:年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計:月100時間未満、2~6ヶ月平均がすべて80時間以内
- 時間外労働の⽉45時間超え:年6回まで
特別条項の有無に関係なく、1年を通して時間外労働と休日労働の合計を月100時間未満、2〜6ヶ月平均をすべて80時間以内にする必要があるため注意が必要です。
2019年4月から大企業、2020年4月から中小企業にも、これらの上限規制が適用されました。
残業時間の上限規制に違反すると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
未払い残業代が発生した場合の企業リスク
未払い残業代を放置すると、会社は以下のリスクを受ける可能性があります。
●労基署への通報、刑事罰の対象
未払い残業代を放置すると、社員が労基署に通報する可能性があります。
通報されると調査が入り、是正勧告や指導がなされます。
指摘点を改善しない場合や悪質と判断された場合は、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課される可能性があります。
●未払い残業代等の支払い
残業代は最大3年分遡って支払う必要があり、遅延損害金(在職中は年3%、退職後は年14.6%)も発生します。
また、裁判になると、未払い残業代の額を上限とした付加金や慰謝料などの支払いも命じられる場合があります。
●モチベーション・企業イメージの低下
未払い残業代があると、適正に評価されないとして社員のモチベーションが低下し、さらに労基署から調査を受けた事実やSNSの告発などにより、企業イメージも低下するおそれがあります。
残業代に関する裁判例
事案の概要
【平27(ワ)16310号 東京地方裁判所 平成29年10月6日判決 コナミスポーツクラブ事件】
本件は、会員制スポーツクラブで支店長として働いていた原告が、労基法41条2号でいう「管理監督者」として残業代が支払われていなかったことを違法として、被告であるスポーツクラブ側を提訴した事案です。
裁判所の判断
裁判所は、以下を理由に、原告は管理監督者に当たらないと判断し、時間外手当の支払いを命じました。
- 労基法41条2号の管理監督者の該当性については、①経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任を与えられているか、②自身の裁量で労働時間を管理できるか、③その地位に相応しい待遇がなされているか、という点から判断すべきである。
- 支店で提供する商品・サービス内容の決定、営業時間の変更については、原則として直営施設運営事業部が行っており、支店長の判断で決められず、これらのうち多額の出損を伴う重要事項につき経営会議への参加も要求されていなかった。
- 原告を含め複数の支店長は、人員不足により管理業務だけでなく、フロント業務やインストラクター業務など一般社員と同様の業務にも日常的に携わり、恒常的に残業を余儀なくされていた。
- 役職手当の支給のみで、支店長に対し管理監督者としての地位にふさわしい待遇がされているとはいい難い。
判例のポイント
本件のポイントは、管理監督者の該当性については、支店長という役職名だけでなく、勤務実態で判断すべきと裁判所が判示した点にあります。
実際、支店長や部長などの管理職に対し、残業代を支払っていない企業は少なくないでしょう。
労基法上、確かに管理監督者に対し、深夜手当を除き、残業代を支給する必要はありません。
しかし、この「管理監督者」と、世間一般的に考えられている「管理職」とは意味が異なります。
管理職=管理監督者と混同すると、ある日突然、高額の残業代を請求されるという不測の事態に陥りかねません。
どのような者が管理監督者に該当するのか、その判断基準を適切に理解しておく必要があります。
残業代に関するQ&A
フレックスタイム制の場合でも割増賃金は発生しますか?
フレックスタイム制の場合でも、割増賃金が発生することがあり注意が必要です。
フレックスタイム制とは、会社が定めた清算期間(1ヶ月~3ヶ月)の総労働時間の枠内で、社員が始業・終業時間を自由に決められる制度です。
社員が1日の勤務時間を自由に選べるため、基本的には8時間の法定労働時間を超えて働いたとしても、割増賃金は発生しません。
ただし、清算期間における実際の労働時間数が、法定労働時間の総枠を超えてしまっているケースでは、その超えた分につき割増賃金を支払う必要があります。
テレワーク制の場合でも残業代の支払いは必要ですか?
テレワークの場合でも、残業代の支払いは必要です。
テレワークであっても、通常の勤務と同じく労働基準法が適用されます。
そのため、法定労働時間を超えた場合は、残業代(割増賃金)を支払う義務があります。
また、深夜労働や休日出勤についても残業代の支払いが求められます。
これらの支払いを怠ると、刑事罰の対象となるため注意が必要です。
テレワークでは勤務状況を把握するのが困難であるため、知らずうちに残業が発生していることが多いです。
未払い残業代を防ぐには、パソコンの使用時間の確認や勤怠管理システムの導入など、労働時間を正確に把握するシステムの整備が必要です。
テレワークの残業代について詳しく知りたい方は、以下の記事をご一読ください。
さらに詳しくテレワークでの残業代はどうなる?変形労働時間制・裁量労働制・年俸制の残業代はどのように考えたらいいですか?
残業代の扱いは、次のとおりです。
●変形労働時間制
変形労働時間制とは、所定労働時間を繁忙期に長くし、閑散期に短くすることで、全体として法定労働時間を超えないよう調整する制度です。
日・週・対象期間ごとに時間外労働を算出し、合計して割増賃金を支払います。
●裁量労働制
裁量労働制とは実際の労働時間に関係なく、労使で契約したみなし時間分が給与として支払われる制度です。
ただし、みなし時間が法定労働時間(8時間)を超える場合や、法定休日、深夜に労働させた場合は割増賃金が発生します。
●年俸制
年俸制とは1年単位の給与額を決めて、毎月分割して支払う制度です。
年俸制でも時間外労働や法定休日、深夜に労働させた場合は、割増賃金の支払いが必要です。
固定残業代(みなし残業代)とは何ですか?
固定残業代(みなし残業代)とは、実際の残業時間に関係なく、一定時間分の時間外手当を毎月定額で支払う制度です。
例えば、15時間の時間外労働を想定した固定残業の場合、時間外労働が15時間までは時間外手当がプラスで支払われることはありません。
ただし、15時間を超えた分については時間外手当を支払わなければなりません。
また、固定残業代を計算する際には、休日労働や深夜労働の割増賃金も考慮する必要があります。
固定残業代を適正に運用するには、就業規則や雇用契約書等に、みなし残業の時間数や、基本給と残業代の金額、みなし残業時間を超えた分は別途残業代を支払うこと等を明記しなければなりません。
管理監督者にも残業代の支払い義務はありますか?
管理監督者は、労働基準法で定められた労働時間・休憩・休日の制限を受けないため、基本的に残業代は支払われません。
ただし、深夜労働に対する割増賃金は支払う必要があります。
管理監督者とは、労働条件の決定や労務管理において、経営者と一体的な立場にある者をいいます。
役職名にかかわらず、実際の職務内容や責任の重さ、与えられる権限、勤務態様、待遇など実態で判断されます。
管理監督者であっても、経営に関与しない「名ばかり管理職」である場合は残業代の支払い義務が発生するため注意が必要です。
管理監督者の該当性の判断については高い専門性が求められるため、弁護士などの専門家にご相談ください。
残業代に関するご不明な点等は弁護士にご相談ください
昨今の労働者の権利意識の高まりとともに、社員から残業代を請求されるケースは増加傾向にあります。
さらに、未払い残業代は、2020年の民法改正により、時効が2年から3年になったことで、その請求額が大きく増えることも想定されます。
そのため、会社として残業代のルールを正確に把握した上で、就業規則の整備や残業時間管理などを徹底し、未払い残業代の発生を防止していくことが重要です。
弁護士法人ALGは企業側の労働問題に対する豊富な解決実績を有し、残業代を支払うべきかの判断や未払い残業代の発生予防策、実際に発生した場合の対応など、様々な面でお力になることが可能です。
残業代について何かご不明な点がある場合は、ぜひ一度お問い合わせください。
この記事の監修

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
企業の様々な労務問題は 弁護士へお任せください
会社・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受付けておりません
※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。
受付時間:平日 09:00~19:00 / 土日祝 09:00~18:00
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
- ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。