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未払い残業代請求の和解金の相場は?金額の決め方と会社側の注意点

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

未払いの残業代請求における和解とは、「労働者が請求している残業代のうちいくらかを会社側が和解金として支払うことで、残業代トラブルを解決済みとする」ということを意味します。

実際、未払い残業代トラブルにおいては、残業代の全額ではなく、ある程度減額した和解金で解決するケースが多くなっています。では、未払い残業代請求における和解金の相場はいくらぐらいになるのでしょうか?
このページでは、

  • 残業代請求の和解金の相場や決め方、
  • 和解における注意点 など

について解説していきますので、ぜひご一読ください。

未払い残業代請求の和解金に相場はない

和解とは、トラブルの当事者がお互いに譲歩して、争いを止めることを約束する契約をいいます。そして、和解するときに支払われるお金を「和解金」といいます。

労働トラブルで和解する場面として、会社と社員間の交渉における和解、労働審判における和解、裁判における和解が挙げられます。残業代請求のケースであれば、社員が請求する残業代のうちいくらかを、会社側が「和解金」として支払うことで、残業代トラブルを解決済みとすることが可能となります。

なお、未払い残業代請求の和解金に相場はありません。社員側がいくら残業代を請求していたかによって、和解金の金額が変わってくるからです。

また、請求される残業代は、給与額や残業時間、勤続年数など個別事情に応じても異なります。残業代の請求額が高額であるほど、和解金も高額となる傾向が多いです。

労働審判の解決金の相場が参考になる

和解金の相場はないといっても、労働審判の解決金額を確認すれば、およそ和解金の相場に近い情報が得られるものと考えられます。労働審判とは、会社と社員間の労働トラブルについて、労働審判委員会が和解(調停)による解決を試みる制度です。

労働審判で和解が成立した場合に支払われるお金を「解決金」と呼びます。この「解決金」は、前述の「和解金」とほぼ同じ意味です。

以下に、労働審判における解決金の支払金額について、労働審判を利用した当事者にアンケート調査した際の回答結果を挙げましたので、ご参照ください(東大社会学研究所・第2回労働審判意識調査)。ただし、以下のデータは、未払い残業代請求以外の労働トラブルも含んだ相場となります。

解決金の支払金額

解決金の中央値は120万円、平均値は195万円となります。解決金の支払い金額は広範囲にわたることから、未払い残業代請求の和解金に相場はないことがわかります。

残業代請求の判例からみる和解金額

残業代請求の和解金の相場については、過去の裁判例を参考にすることもできます。以下で、残業代請求の2つの裁判例をご紹介しますので、ご覧ください。

残業代請求の裁判例①

【神戸地方裁判所姫路支部 平成28年9月29日判決】

(事案の概要)

本件は、菓子販売会社で菓子の配送を行っていた社員が、退職後に未払い残業代を請求した事案です。元社員はタイムカードの打刻時間を証拠として、早出残業などを行っていたのに残業代が支払われていないと主張し提訴しました。

(裁判所の判断)

裁判所は、残業を主張するには、会社の指揮命令下にある労働時間にあたることの具体的な主張・立証が必要であるとした上で、本件では、元社員が業務日誌等を提出していないため、早朝出勤すべき理由が明らかでないことや、運転中に昼食をとることを余儀なくされていたとの社員の主張を裏付ける証拠がないこと等を理由に、元社員が主張する残業時間は過大と判断しました。

そして、元社員に支払うべき残業代は、社員が主張する約412万円の50%である約206万と認めるのが相当と判示しました。

残業代請求の裁判例②

【東京地方裁判所 平成29年10月11日判決 マンボー事件】

(事案の概要)
漫画喫茶を運営する会社は、夜間の電話対応や売上げの集計業務などを行う社員に対し、みなし残業代の説明をしないまま、長時間労働させていました。これを不服として、社員側はみなし残業代の無効と、未払い残業代を求めて提訴した事案です。

(裁判所の判断)
裁判所は、会社は社員に対し、「給与総額30万円のうちどの部分が固定残業代に当たるのか」について説明していないため、会社と社員間でみなし残業代に関する合意をしたとはいえず、さらに月100時間以上の時間外労働も恒常的に義務付けていたことから、公序良俗に反するとして、本件みなし残業代を無効と判断しました。

その上で、会社に対し、2年分の未払い残業代等1200万円、付加金300万円、慰謝料10万円、遅延損害金の支払いを命じました。

残業代請求の和解金額を決める7つの要素

残業代請求の和解金に相場はありませんが、和解金の決定にあたり考慮されやすい要素として、以下7つの要素が挙げられます。

  • 未払い残業代の金額
  • 遅延損害金
  • 付加金
  • 証拠の有無
  • 社会保険料・税金などの源泉徴収
  • 和解金の支払い方法
  • 弁護士依頼の有無

以下でそれぞれ詳しく見ていきましょう。

①未払い残業代の金額

残業代請求における和解金は、未払い残業代の金額をベースとして決められます。そのため、未払い残業代の金額がいくらであるかは、和解金を決定する上で重要な要素となります。 未払い残業代の金額が高いほど、和解金の額も高くなることが多いです。 残業代の金額は、以下の計算式で求められます。

●残業代=1時間あたりの賃金×割増率×残業時間

上の式で算出した残業代から、すでに社員に支払った残業代を控除した金額が、未払い残業代の金額となります。 なお、社員が訴える未払い残業代と、会社側が訴える未払い残業代の金額に誤差がある場合もあるため、どちらの金額をベースにするかによっても、和解金の額は変動します。

②遅延損害金

遅延損害金とは、支払い期限に遅れてしまった場合に、損害賠償として支払うべきお金をいいます。未払い残業代があるということは、残業代を本来の支払日に支払っていないことになるため、ペナルティとして、遅延損害金の支払いが必要になります(民法404条)。

社員が在職中に残業代請求した場合の遅延損害金の利率は、現在年3%となっています。ただしこの法定利率は今後定期的に見直される予定です。

また、退職後の残業代請求については、年14.6%と高い利率が適用されます。 会社と社員間の交渉による和解では遅延損害金を含めないのが通例ですが、裁判での和解になれば、一定割合の遅延損害金が和解金に含まれるケースが多いです。そのため、遅延損害金も和解金の金額を決める要素のひとつとなります。

③付加金

付加金とは、労働基準法で義務づけられた残業代などを支払わない会社への制裁として課せられる金銭をいいます。付加金の金額は、未払い残業代の金額や期間、理由などの事情を考慮し、未払い残業代と同一額を上限として裁判所が決定します。

なお、付加金は、未払い残業代がある場合に常に認められるわけではありません。付加金の支払いは、裁判において判決に至った際に、裁判所の判断で決められるものです。そのため、交渉で和解した場合や、労働審判で解決した場合、裁判中に和解した場合などでは、付加金は支払われません。

もっとも、判決で付加金が課せられる可能性が高いケースであれば、会社側から付加金の分を追加したより高額の和解金を提案することも多いです。そのため、付加金の有無も和解金を決める要素となります。

④証拠の有無

未払い残業代の金額については、社員側が証拠により立証する必要があります。裁判を通じて未払い残業代を請求する場合は、証拠による立証ができない部分については、裁判所が残業代を認めないのが通例です。

もちろん、和解になった場合も、証拠により立証できない部分については、それを除外した金額での和解になります。

そのため、未払い残業代の請求を裏付ける証拠の有無は、和解金の金額を決める大切な要素となります。社員側で十分な証拠が収集されていなければ、和解金も低額となる傾向にあります。未払い残業代の立証に有効な証拠の例として、以下が挙げられます。

  • タイムカード
  • PCの使用時間の記録・ログイン時間の記録
  • 勤怠管理システムの記録
  • ビジネスチャットやメールの送信履歴
  • 業務日報や営業報告のメール
  • 給与明細
  • ミーティングの議事録など

⑤社会保険料・税金などの源泉徴収

残業代が適正に支払われる場合は、社会保険料や所得税などを源泉徴収するのが通例です。一方、残業代の「和解金」からは源泉徴収しないのが通常です。

そのため、和解金の金額を決定するにあたり、本来源泉徴収されたはずの金額が考慮されることがあります。なお、「和解金」名目で支払ったとしても、すべてが非課税になるわけではありません。

「和解金」という名目でも、実際には未払い残業代の支払いを内容としている場合は、「和解金」が賃金としての性質を有していると考えられるため、給与所得として、源泉所得税を納付する必要があります。

一方、「解決金」という名目であるものの、その実態が精神的苦痛への慰謝料などである場合は、非課税となり、源泉徴収も必要ないことになります。

⑥和解金の支払い方法

残業代請求の和解金の支払い方法として、一括払いや分割払いが挙げられます。もっとも、和解金の支払いが分割払いになると、社員から途中で支払いが滞るのではないかと懸念される可能性があります。

そのため、社員側が和解金の金額を譲歩する代わりとして、会社側が一括で和解金を支払うといったケースもよく見られます。つまり、支払い方法をどのような形式にするかによって、和解金の金額が変わってきます。

⑦弁護士依頼の有無

和解金の額に影響する要素として、社員側が弁護士に依頼しているかどうかが挙げられます。未払い残業代請求について争うには、労働法に関する知識が必要とされるため、社員の多くが弁護士に依頼することが通例です。弁護士を付けることで、和解金の引き上げに成功するというケースも少なくありません。

そのため、会社側もこれに対抗し、労働法務に精通した交渉力のある弁護士を立てることが望ましいといえます。弁護士に任せれば、社員の勤務実態を把握した上で、適正な未払い残業代を算出してもらえますし、妥当な和解金額についてもアドバイスしてもらうことが可能です。

残業代請求を和解で解決すべきケースとは?

残業代請求を和解で解決すべきケースとして、以下が挙げられます。

  • 裁判等にかかるコストや時間を抑えたい場合
  • 早期の解決を望んでいる場合
  • 社員との関係悪化を避けたい場合
  • 明らかに会社側に非がある場合
  • 未払い残業代の証拠がそろっており、会社側に不利な状況である場合

未払残業代の請求を受けた際に、なるべく費用や時間を抑えて、早期の解決を図りたいなら、社員と交渉して和解で解決すべきでしょう。

また、会社側に明らかに非があるようなケースでは、これ以上争っても意味がありません。むしろ、会社が無意味に争うことにより、裁判を起こされて、残業代だけでなく、遅延損害金や付加金の支払いも命じられるリスクがあるため要注意です。

ただし、残業代の未払いが存在しないなど、反論の余地がある場合は、しっかりと争うべきでしょう。

和解する場合の会社側のメリット・デメリット

未払い残業代請求について和解する場合の、会社側のメリット・デメリットとして、以下が挙げられます。

    (メリット)

  • 残業代トラブルを早期に解決できる
  • 労働審判や裁判に進むよりも、時間・労力・費用を抑えられる可能性がある
  • 法律上のルールに従った正確な残業代でなくても、合意できる場合がある
  • (デメリット)

  • 会社側に不利益な和解内容になるおそれがある
  • 他の社員からも残業代請求されるリスクがある

交渉における和解は話し合いによる解決なので裁判費用などは必要ありません。また、互いに譲歩し合うため、和解金の金額も社員側の請求額よりある程度減額される可能性もあります。

ただし、会社側に不利な和解内容となる可能性もあるため、メリットとデメリットを比較し、和解で解決するべきか、それとも費用をかけてでも裁判等で争っていくか検討することが必要です。

未払い残業代請求を和解で解決するときの注意点

未払い残業代請求を和解で解決するときの会社側の注意点として、以下が挙げられます。

①合意書を作成する

②法的なアドバイスを受ける

合意書を作成する

未払い残業代を請求され、会社と社員との協議の結果、和解金を支払うことになった場合は、社員側と合意書を取り交わしておくことが必要です。

なお、合意書には必ず「守秘義務条項」を設けておかなければなりません。合意書に守秘義務条項があれば、社員側に守秘義務を課すことができるため、他の社員からの残業代請求や、情報漏えいによる企業イメージの悪化などを防ぐことが可能です。

次に、合意書に「清算条項」を設けることも求められます。

清算条項とは、会社と社員間の一切の債権・債務を、合意書を結ぶことですべて消滅させるための条項です。清算条項があれば、合意書の締結よりも前に行われた残業については、すべて支払い済みとすることが可能です。

そのため、解決金の金額以上に未払い残業代が生じていたことが後で発覚したとしても、これ以上の追加請求を回避することができます。

法的なアドバイスを受ける

未払い残業代請求を和解で解決する場合、法的な紛争に発展するリスクを回避するためにも、弁護士の意見を仰ぐことが有用です。 弁護士に対応を任せれば、以下のようなことが可能となります。

  • 会社ごとの個別事情に応じて、和解すべきか否かを判断できる
  • 妥当な和解金額を計算できる
  • 和解内容が労働基準法などの法律に違反していないか確認できる

交渉で決めた和解金の額が適切な額であるかどうか、法律に違反していないかなどを会社自身で判断するのは容易ではありません。また、社員側と残業時間の認識に差があって、交渉がうまく進展しない場合もあるかと思います。

この点、弁護士であれば、これらすべてをカバーし、会社側に有利な和解内容となるようサポートすることが可能です。

労働者からの未払い残業代請求について、和解による早期解決を目指すなら弁護士にご相談下さい。

労働者からの未払い残業代請求については、早めに和解に応じることで、裁判にかかるコストや時間、労力を抑えることが可能です。

ただし、和解金の金額にこれという相場がないため、社員側と決めた和解内容や和解金額が、会社にとって有利なものであるかどうかを判断するのは困難です。

未払い残業代を請求されて、和解するべきか?この和解金額でいいのか?判断に悩まれた場合は、弁護士に相談して、法的アドバイスを受けることをおすすめします。

会社側の労働法務に精通する弁護士法人ALGが、未払い残業代請求への対応について全面的にサポートいたします。ぜひお問い合わせください。

この記事の監修

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弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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