ハラスメント
#ハラスメント
#パワハラ

監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
社内でパワハラが発生した場合、会社は迷うことなく事実関係を調査し、迅速に対応しなければなりません。
事後対応については初動がとても重要です。
初動の遅れや対応しなくてもよいのではという迷いが、被害者の不信を招き、損害賠償請求される事態へとつながりかねません。
この記事では、実際にパワハラが起きた際に会社がとるべき対応について解説していきます。
企業ごとのパワハラ対応マニュアル作成の参考にして頂けたら幸いです。
目次
企業におけるパワーハラスメント(パワハラ)対応の重要性
パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場内での地位や優位性を利用して、社員に対して業務の適正な範囲を超えた叱責や嫌がらせをする行為と定義づけられています。
具体的には以下の3つの要素を満たす行為をいいます。
1. 優越的な関係を背景とした言動
優越的な関係は上司や先輩だけではありません。
仕事上必要な知識や経験を持つ同僚や部下の協力がなければ業務の円滑な遂行が難しい場合や、同僚や部下からの集団いじめなど、抵抗が難しいような場合は、その同僚らも優位性を持つと評価されます。
2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
仕事とは無関係な叱責や、仕事に関係していても行き過ぎた叱責を指します。
人格否定発言や他の社員の前での執拗な叱責などが挙げられます。
3. 就業環境が害されるもの
その言動により精神的または身体的苦痛を受けるなど、職場環境に仕事をする上で重大な悪影響が生じていることをいいます。
企業に義務付けられたパワハラ防止策
会社には法律上、以下のようなパワハラ防止策を講じることが義務付けられています(労働施策総合推進法30条の2)。
- 会社の基本方針や加害者への対処方針の明確化および社員への周知・啓発
- パワハラ相談窓口の設置と周知
- パワハラの事実確認(関係者へのヒアリングや証拠の収集、事実認定など)
- 加害者や被害者に対する適正な措置の実施
- 再発防止策の実施
- 当事者等のプライバシー保護のための措置の実施
- 相談、協力等を理由に不利益な取扱いを受けない旨の定めと周知・啓発
パワハラ防止策の実際の取り組みは、会社ごとに決定し実行する必要があります。
これらのパワハラ防止策を講じないと、厚生労働大臣から助言や指導、勧告が行われる可能性があります。勧告に従わない場合は会社名が公表され、社会的信用を失うリスクがあります。
また、使用者責任や安全配慮義務違反を理由に、社員から損害賠償請求される可能性もあるため真摯に対応しなければなりません。
ハラスメント防止策について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧下さい。
さらに詳しくハラスメントに関する8つの防止策について解説パワハラ発生時の企業対応の流れ
実際にパワハラが起きたときに会社がとるべき対応の手順は、以下のとおりです。
- 相談窓口での対応
- 適切な事実調査
- パワハラ有無の判断
- 調査報告書の作成
- 被害者への配慮の措置
- 加害者への処分等の措置
- 再発防止に向けた措置
以下で詳しく見ていきましょう。
①相談窓口での対応
パワハラの相談を受けたら、プライバシーは守られることや、相談者の許可なく行為者の調査を行わないこと、相談したことで不利益が生じることはないこと等をしっかり説明しましょう。
その上で、相談窓口担当者は相談者に寄り添いながら、じっくりと傾聴することが必要です。
パワハラの具体的な内容に加えて、相談者の健康被害や今後の要望についても確認しましょう。
相談窓口はハラスメント対応の入り口であるため、相談しやすい体制を整備しておくことも重要です。
電話やメールなど対面以外でも相談できることや、匿名での相談も可能なこと等をあらかじめ周知しておきましょう。
また、窓口だけでは対応が困難な場合に備えて、カウンセラーや弁護士など専門家のバックアップ体制も整えておくことも有効です。
②適切な事実調査
パワハラ被害の相談を受けた場合は、調査担当者を決めた上で、迅速に事実調査を行うことが必要です。
相談窓口担当者がそのまま調査を続ける場合や、調査は調査担当者に引き継ぐ場合などケースバイケースです。
事実調査の進め方は、以下のとおりです。
- 相談者へのヒアリングを行う
- メール、SNSメッセージの履歴、音声の録音データなどパワハラの証拠を収集する
- 相談者の同意を得て、行為者へのヒアリングを行う
- 相談者や行為者の同意を得て、目撃者や関係者へのヒアリングを行う
- 相談者と行為者の言い分が異なる場合は再びヒアリングを行う
相談者からパワハラの内容や経緯などを聞き取り、パワハラの証拠の有無と内容をチェックします。
証拠隠滅を避けるため、行為者へのヒアリング前に証拠を確保しておくことが重要です。
そして、相談者の許可を得た上で行為者にも聴取し、パワハラが真実であるかを確認します。
パワハラについて目撃者や関係者がいる場合は、目撃者らからも聴取し、多面的な事実認定を行うことが必要です。
ヒアリングは客観的な証拠との整合性を意識しながら進めましょう。
両者の主張にずれがある場合は再度両者から聴取します。
ヒアリング内容は書面にして、ヒアリング対象者に誤りがないかチェックしてもらい、サインを得ておきます。
ヒアリングを行う際の注意点
ヒアリングをする場合は、いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのようにしたか(5W1H)を意識しながら、具体的な事実関係を聞き出すことが重要です。 ヒアリングを行う際の注意点として、以下が挙げられます。
- ヒアリング対象者に、ヒアリング内容を口外しないという秘密保持義務を課す
- 虚偽申告や報復は処分の対象となることを伝える
- 相談者の意向を確認する
- 偏見や先入観を払拭して、ヒアリングする
- ヒアリング対象者と中立的な者がヒアリングを担当する
ヒアリングで特に注意すべき点は、「決めつけをしない」ことです。
例えば、「行為者は元々問題社員であるから、多分パワハラをしたのだろう」「優秀な行為者がパワハラなんてするはずない」などと決めつけると、正確な事実調査が困難となり、加害者に過剰な処分を下す、又は穏便な対応をしてしまうリスクがあるからです。
③パワハラ有無の判断
事実調査で得られた内容をもとに、パワハラの有無を判断します。
パワハラには判断基準があり、一般的に以下の3要素すべて満たすものがパワハラに当たると判断されます。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 就業環境が害されるもの
他方、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワハラにはあたりません。
パワハラに該当する6つの類型と言動例
パワハラの有無を判断するためには、パワハラに該当する言動を理解しておく必要があります。
パワーハラスメントは、大きく分けて以下の6類型に分けられます。
類型ごとの言動例を挙げましたのでご確認ください。
言動の類型 | 言動例 |
---|---|
身体的な攻撃 |
●殴る、足蹴りを行う ●相手に物を投げつける |
精神的な攻撃 |
●人格を否定するような言動を行う ●必要以上に長時間にわたって、業務に関する厳しい叱責を繰り返し行う ●他の社員がいる前で、大声で威圧的な叱責を繰り返し行う ●相手の能力を否定し、罵倒するような発言をする |
人間関係からの 切り離し |
●意に沿わない社員に対して仕事を外し、長期間にわたり別室に隔離する ●1人の社員に対し同僚が集団で無視する |
過大な要求 |
●業務とは関係のない私的な雑用を強制的に行わせる ●未経験採用者に対し、適切な指導や教育を行わないまま、到底できるはずのない業績目標を課し、達成できなかったことを厳しく叱責する |
過小な要求 |
●嫌がらせのためにわざと仕事を与えない ●管理職である社員を辞めさせるために、誰でもできる雑務を行わせる |
個の侵害 |
●社員を職場外で継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする ●業務上の必要性がないにもかかわらず、社員の性的指向や性自認、病歴などの機微な個人情報について、社員本人の許可を得ずに、他の社員に暴露する |
ただし、これら6類型はあくまで例示です。
これら以外の行為についても、会社は被害者からの相談に応じ対応することが適切であると考えられています。
パワハラの事実を確認できなかったときの対応
パワハラの事実を確認できなかった場合にとるべき対応として、以下が挙げられます。
- 相談者への対応
相談者にフィードバックを行い、結論だけでなくパワハラとして認定されなかった理由の要旨も説明します。相談者の心身に負担がかかっている場合は、相手方と引き離すための配置転換や、産業保健スタッフによる面談の実施等を行います。
- 相手方への対応
パワハラが確認できなかった場合でも、相手方の言動に改善すべき点がある場合は、注意指導を行いましょう。
また、調査終了後も相談者と共に業務を続けることは強い心理的負荷となるおそれがあるため、相手方の希望を聴取したうえで相談者との執務場所の引き離しや配置転換等の措置を検討することも必要です。- 再発防止策
本件の原因を分析して再発防止策を講じることや、就業規則や会社の体制(窓口設置や研修など)を整備することが必要です。
④調査報告書の作成
パワハラの有無について判断した後は、必要に応じて、調査報告書を作成します。
取締役会等にパワハラ発生を報告する場合や、加害者への懲戒処分を決める場合、再発防止策を講じる場合の資料として有用です。
調査報告書には、主に以下の事項を記載します。
- パワハラ調査委員会の構成メンバー
- 調査を行った期間や調査対象者、調査方法
- 調査対象事項
- 被害者からのパワハラ被害訴えの経緯と内容
- パワハラに対する加害者側の主張
- 内部調査により認定した事実関係
- パワハラの該当性の判断
- パワハラ再発防止策 など
⑤被害者への配慮の措置
パワハラが事実と判断された場合は、被害者に対し、以下のような配慮措置を講じることが必要です。
- 関係改善へのサポート
被害者と加害者との関係改善を援助します。また、被害者が望んでいる場合は加害者に謝罪を促します。加害者が謝罪を拒否している場合は、会社からの指導や懲戒を下す旨を被害者に説明し、被害者の感情に配慮します。
- 配置転換
被害者と加害者を引き離すため、部署異動などの配置転換を検討します。ただし、この配置転換が法律で禁止される被害者への不利益取扱いとの誤解を生じさせぬよう、被害者の希望を聴取することが必要です。
- 利益の回復、メンタル不調への配慮
被害者の労働条件上の不利益の回復、職場環境の改善、管理監督者や産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、休暇の付与等の措置を講じます。
⑥加害者への処分等の措置
パワハラを行った加害者に対して、以下のような措置を講じる必要があります。
- 懲戒処分
パワハラを懲戒処分の対象とすることが就業規則に定められている場合は、その規定を実際に運用します。ただし、パワハラ加害者であっても労働法の保護を受けるため、行き過ぎた処分は違法な懲戒処分として、裁判で無効となる場合があります。
懲戒処分に関する過去の裁判例で示された基準を参考に、パワハラの内容、加害者の懲戒処分歴や反省の程度、常習性、被害の程度などを考慮して、重すぎず軽すぎない処分を選択することが必要です。判断できない場合は弁護士にご相談ください。- 関係改善への援助など
加害者と被害者の関係回復の援助、加害者への再発防止指示、人事異動、ハラスメント防止研修の実施などを検討します。
⑦再発防止に向けた措置
パワハラが起きてしまった場合は、全社員に向けて再発を防止するための措置を講じることが必要です。改めてパワハラに関する方針を周知し、パワハラ研修による啓発や原因分析を行うことが必要です。 再発防止策の例として、以下が挙げられます。
- パワハラを禁止し、パワハラをした場合は厳正に処分することを周知する
- 社内会議で情報共有し、管理職にも注意喚起する
- 全社員を対象にパワハラ研修やアンケート調査、個人面談の実施
- 加害者への再発防止研修・面談の実施
- 会社のルールや相談窓口の整備、研修などの見直し
- 管理職登用条件の明確化(パワハラをしない社員を昇格の条件とするなど)
- 職場環境の改善(人事評価制度の再設計、長時間労働対策、社内コミュニケーションの強化など)
パワーハラスメントにおける企業の対応が争点となった裁判例
事案の概要
【平成24年(ネ)3520号、3786号 大阪高等裁判所 平成25年10月9日判決 アークレイファクトリー事件】
派遣社員Xは、派遣先Yの正社員である上司らからパワハラを受けたため、派遣先Yでの派遣労働をやめざるを得なくなったと主張し、派遣先Yの上司らの不法行為および派遣先Yの使用者責任に基づく損害賠償として、慰謝料などの支払いを求めた事案です。
裁判所の判断
裁判所は、派遣先Yの上司らによるパワハラがあったとして、上司らの不法行為責任と派遣先Yの使用者責任を認めました。
- 監督者である上司らは、部下への言動において、その人格を軽蔑することなく、特に派遣社員という、直接的な雇用関係がなく、派遣先の上司からの発言に対し容易に反論できない者に対しては、安易な言動を控えるべきである。
- Xの仕事上のミスに対する上司からの「殺すぞ」「あほ」「車をかち割ったろか」といった叱責は、これらの配慮を極めて欠き、弱い立場にあるXの人格をいたぶる言動と推認され、社会通念上許容される限度を超えるため、パワハラに該当する。
- パワハラをしていた社員らは業務上の指導の際に使う言葉遣いや指導方法について、派遣先Yの上司から注意や指導、教育を受けたことはなかったと認めており、派遣先Yが社員らの選任・監督につき注意を怠ったと認められるから、派遣先Yは使用者責任を負う。
判例のポイント
本件のポイントは、派遣先の社員から派遣社員に対するパワハラについて、派遣先に損害賠償責任があると認定された点にあります。
本判決では、パワハラに当たるかどうかの判断において、派遣社員Xと派遣先の上司らの人間関係が、一方的に優位である点が特に重視されました。
パワハラは被害者の属性(派遣社員など)に応じ、より厳しく判断され得ることに注意しなければなりません。派遣社員を受け入れる派遣先としては、管理する立場の社員に対し、派遣社員やパート・アルバイト等に対する接し方を十分に指導・教育するべきでしょう。
パワーハラスメントの対応に関するQ&A
パワハラの実態を調査するための社内アンケートは問題ないでしょうか?
パワハラの社内アンケートを行うことは問題ありません。
パワハラの被害実態を早期に把握し、パワハラ防止策やパワハラ研修などの取り組みに役立てることができます。
アンケートではパワハラの被害経験や見聞きした経験、現在の状況などを確認します。
アンケート方法としては、書面や電子ファイルでの実施だけでなく、オンラインでも回答可能とするなど複数の選択肢を用意しておくのが望ましいでしょう。より正確な実態把握や回収率向上のため、匿名で行うことも有効です。
パワハラについて、被害者と加害者の主張が一致しない場合に会社はどのような対応を取るべきでしょうか?
被害者と加害者の主張が一致しない場合は、その一致しない点について再度双方からヒアリングを行うことが必要です。また、関係者にもヒアリングを行い、事実確認を行いましょう。
その上で、どちらの言い分に信用性があるかを、以下の点を判断要素として、判断することになります。
パワハラ発覚後に企業が行ってはいけない対応は何ですか?
パワハラ発覚後に会社がやってはいけない対応として、以下が挙げられます。
誤った対応をとると、社員から訴えられて損害賠償請求されるリスクもあるため、以下の点に注意し適切に対応しなければなりません。
- 被害者を否定、叱責する
- 加害者の言い分を無視する
- 相談を放置する
- パワハラ相談や協力等したことを理由に被害者を不利益に取扱う
- パワハラを軽視する
- 過去の同様の事件と比べてバランスを欠く処分を行う
- パワハラの証拠を隠す、捏造する
パワーハラスメントの企業対応については弁護士にご相談ください
パワハラが発生した場合の対応は、裁判リスクを伴う重要な手続であるため、慎重な判断が求められます。
ヒアリング対象者が調査に非協力的であったり、パワハラの有無の判断が困難であったりするような場合は、調査段階から、ハラスメント問題を得意とする弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士法人ALGには、企業側のハラスメント対応の経験豊富な弁護士が多く所属しています。
法的・経験的知識を活用し、正確なパワハラ調査と事実認定のサポートをすることが可能です。
パワハラ問題は初動を誤ると調査がおろそかになり、2次被害を生む可能性もありますので、パワハラ対応でお困りの場合は、ぜひお早めにご相談下さい。
この記事の監修

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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