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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
整理解雇とは、経営不振などを理由に行う人員削減のことです。
新型コロナウイルスの感染拡大時に、業績悪化などから整理解雇を考えた会社も多いのではないでしょうか。
整理解雇は従業員に責任があるわけではありません。
会社の経営上の事情が原因であるため、認められるには通常よりも厳しい要件が設けられています。
一般的には4つの要件を満たす必要があり、手続き面で注意すべきポイントも多いです。
このページでは、整理解雇の4要件を踏まえた実行手順や注意点について解説していきます。
目次
整理解雇の4要件とは?
整理解雇は経営難というひっ迫した事情によるものですが、解雇である以上、無条件で認められるわけではありません。
原則として、以下の4つの要件を満たしていなければ、不当な整理解雇と判断される可能性があります。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避の努力
- 人選の合理性
- 解雇手続の妥当性
ただし、現在では整理解雇の4要件をあくまで4要素ととらえる考え方が主流となっています。
4要件をすべて満たさなくとも、総合的に判断して合理的な理由と社会通念上の相当性が認められれば、整理解雇を認める裁判例が増えています。
4要件確立の根拠となった裁判例は大企業のものであり、中小企業の実態に即しているとはいえません。
また、日本の雇用慣行が崩れつつあり、終身雇用が減り、非正規雇用が増加しています。
これらの事情を踏まえて、4要件から4要素へと緩和されているものと考えられます。
人員削減の必要性
人員削減の必要性が認められるには、経営指標や決算書など数値データを用いて、経営状態の悪化の程度や、人員削減の必要性の高さを証明する必要があります。
ただし、倒産寸前など危機的状況にあることまでは求められず、会社経営上、合理的であれば十分であると考えられています。
実際に会社全体として黒字であっても、不採算部門の経営改善のために人員削減の必要性を認めた裁判例も存在します(仙台地方裁判所 平成14年8月26日判決)。
もっとも、経営状況の悪化が認められたとしても、新規社員の募集、大幅な昇給・賞与の実施など、人員削減と矛盾する行動がある場合には、整理解雇の必要性が否定される可能性があるためご注意ください。
解雇回避の努力
会社は整理解雇を実施する前に、解雇を回避するための経営改善努力を尽くす必要があります。
整理解雇は会社から一方的に行われる解雇であり、従業員への不利益は非常に大きいものです。
解雇を回避するために最大限努力しても、なお経営上の危機を免れない場合にのみ、整理解雇は認められます。
解雇回避努力の例として、以下が挙げられます。
【解雇回避のための取り組み例】
- 配置転換
- 希望退職者の募集
- 非正規社員の削減
- 役員報酬の減額
- 賞与の減額・停止
- 交際費等の経費削減
- 新規採用の停止
- 一時帰休の実施
- 雇用調整助成金の利用
人選の合理性
整理解雇の対象者は誰でもよいわけではありません。会社側の勝手な判断ではなく、以下のように合理的かつ公平な基準をもとに人選することが必要です。
【合理的な基準】
- 勤務態度(欠勤・遅刻回数、協調性など)
- 労務の貢献度(勤続年数、過去の実績、資格の有無など)
- 勤務地、担当業務、雇用形態、年齢、家族構成
一方、以下の基準による人選は認められません。
【不合理な基準】
- 担当者の好き嫌い
- 「不誠実な社員」「非採算部門に属する社員」など曖昧な理由
- 労働組合員の排除
- 性別・国籍・信条・社会的身分による差別
例えば、女性ばかりを対象に解雇した場合は、不当解雇となる可能性が高いです。
他方、能力不足や休職日数の多さなど、会社への貢献度の低い者を解雇対象とすることは適法といえます。
解雇手続の妥当性
整理解雇を行うには、社員への説明会や労働組合との協議を行い、整理解雇の必要性や具体的な内容について誠実に説明・協議することが求められます。
特に、労働組合との間で解雇協議条項を定めている場合は、説明や協議は必須です。
説明会等では、解雇の必要性やその時期、整理解雇の規模や方法について丁寧に説明し、理解を得られるよう努めましょう。
事前の説明等を行わず、抜き打ち的に行った整理解雇が認められることはありません。
また、1度きりの説明や組合からの質問への対応が不十分といったことがあれば、解雇手続の妥当性が認められないだけでなく、不誠実団交など別の問題に発展するリスクがあります。
整理解雇の説明や協議は信義則上の義務であることを前提に対応するようにしましょう。
アルバイトやパートも整理解雇できるのか?
人員整理にあたっては、原則としてパートやアルバイト等の非正規従業員から行うべきというのが通例です。
正社員から先に整理解雇することは原則として許されないと判示した裁判例もあります。
しかし、パートやアルバイトであれば簡単に整理解雇できるというわけではありません。
この場合にも整理解雇の4要件を満たす必要があります。
また、その業務内容や契約更新の回数、実質的に無期の労働契約となっていないかを確認した上で、整理解雇の対象とすることに問題がないか判断するようにしましょう。
整理解雇を実施する手順
- 整理解雇以外の人員削減を行う
- 解雇基準を策定する
- 解雇対象者を選定する
- 従業員や労働組合に説明する
- 整理解雇を通知する
- 整理解雇を実行する
整理解雇は以下の手順で行います。
①整理解雇以外の人員削減を行う
希望退職者の募集や派遣社員の削減、契約社員やパートの雇止め、新規採用の中止など、整理解雇以外の人員削減努力をすることが必要です。
②解雇基準を策定する
整理解雇の基準を定めます。
具体的には、解雇対象の人数や対象者の範囲、解雇の除外事由、解雇日、退職金の取扱いなどの事項を検討します。
③解雇対象者を選定する
解雇基準を踏まえて、整理解雇する社員を選定します。
勤務態度や労務の貢献度合いなど客観的事実で判断して人選することが必要です。
④従業員や労働組合への説明
従業員や労働組合に対し、経営指標や会計資料などのデータを提示し、整理解雇せざるを得ない状況を説明します。
⑤整理解雇の通知
整理解雇の実施を社内に発表し、対象者にも解雇を予告します。
トラブル防止のため、解雇予告通知書を交付しましょう。
社員から希望があれば、解雇理由証明書も発行します。
⑥整理解雇の実行
解雇実施日に解雇辞令を交付しましょう。
直接渡せない場合は、書留など証拠が残る形で郵送します。
整理解雇をする際に注意すべきポイント
整理解雇を行うにあたって、以下の3点に注意が必要です。
- 30日前の解雇予告・解雇予告手当の支払い
- 整理解雇時の退職金の支払い
- 整理解雇は会社都合退職となる
うっかり忘れやすい内容ですが、曖昧にしておくと後からトラブルに発展する可能性があります。
以下で各内容について詳しく解説していきます。
30日前の解雇予告・解雇予告手当の支払い
整理解雇の実施にあたっては、30日以上前に対象者へ解雇予告を行う必要があります。
もし、予告が間に合わないのであれば、不足する日数分の解雇予告手当を支払うことが求められます。
解雇予告や解雇予告手当の支払を行わなければ、不当解雇となるおそれがあります。
整理解雇を検討する場合には、解雇予告手当についても予算として計上しておくようにしましょう。
解雇予告についての詳細は下記ページよりご確認ください。
さらに詳しく解雇予告とは?整理解雇時の退職金の支払い
整理解雇であっても、就業規則や退職金規程などに退職金の定めがあれば、規則に従って支払う必要があります。
この場合、会社都合による解雇であることから、通常よりも上乗せして退職金を支払う対応が多くなっています。
法的に上乗せが規定されているわけではありませんが、従業員へ不利益を強いる以上、できる限りの優遇措置を講じるのが望ましいとされています。
上乗せする金額等は、会社の事情等を踏まえて設定することになりますが、対応としては以下のような例が一般的です。
- 対象者全員に一定額を上乗せする
- 対象者全員に退職金の一定割合を上乗せする
- 年齢や勤続年数に応じて上乗せする
整理解雇は会社都合退職となる
整理解雇は会社側の経営状態の悪化等が原因ですので、退職の際は会社都合退職となります。
退職理由が会社都合なのか本人都合なのかによって、雇用保険の受給内容も変わってきます。
円満に整理解雇を進めるためにも、離職票の作成は速やかに行いましょう。
また、離職理由については会社都合による解雇である旨を適切に記載し、従業員に不利益が発生しないよう配慮することが大切です。
整理解雇が違法となった場合のリスクや罰則
整理解雇が違法な対応で行われれば、労働基準法に違反する不当解雇として、「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科されるおそれがあります。
さらに、従業員から不当解雇として、バックペイや慰謝料などの損害賠償請求をされれば、会社に金銭的ダメージが生じるリスクもあります。
会社再建のために行う整理解雇が、不適切な対応によって新たなトラブルの元となれば本末転倒です。
整理解雇はハードルが高いため、まずは退職勧奨を行うという選択肢もあります。
違法な整理解雇や退職勧奨とならないよう、準備や手続には弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
整理解雇が有効であると認められた裁判例
事件の概要(令和元年(ネ)第2359号・令和3年12月22日・東京高等裁判所・控訴審)
グアムに本社をおく国際旅客事業会社Yは成田ベースの閉鎖に伴い整理解雇を実施しました。
整理解雇の対象となった従業員Xらは、FA(客室乗務員)として勤務しており、成田ベースに所属していました。
解雇の対象となったのは、日本語スピーカーや日本の労働組合に加入するFAであったことから、Xらは整理解雇の動機が国籍差別や組合差別であり、不当解雇にあたるとして訴訟を提起しました。
一審では、整理解雇を有効と判断されたため、Xらは控訴しました。
裁判所の判断
裁判所は整理解雇の4要件の成否について以下の通り、判示しています。
- 人員削減の必要性
成田ベースの旅客数が減少し、FA業務が大きく減少したため、FAらの人件費が高コスト要因となっていました。
この事実から成田ベースのFAを解雇することはやむを得ず、十分な必要性があると判断しています。- 解雇回避の努力措置
FAの年収水準を維持した地上職への配置転換の提案や、特別退職金を加算した早期退職パッケージを用意するなど、相当程度の解雇回避措置を講じていたと認定しました。- 人選の合理性
成田ベースのFAは職種限定合意があり、グアムベースへの配転可能性がなく、配置転換に応じない者全員を対象として選定していました。
選定についても合理性があると認められています。- 解雇手続の妥当性
組合との団体交渉について、交渉に不誠実な点はなく、事情説明についても不相当と認めることはできないとしています。
以上の点から、本件整理解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないということはできないとして、一審の判断を維持し、整理解雇は有効と判断されました。
ポイント・解説
本事案では、労働組合に対し成田ベースの閉鎖・廃止に至る諸事情を説明し、配置転換などの雇用維持についても提案、説明を行っています。
団体交渉については複数回行い、組合側の譲歩が一切無かったため、やむを得ず団体交渉の打ち切りを決断しており、その経緯についても認められています。
整理解雇は会社都合によるものであるため、従業員側に不満は発生しやすいといえます。
本事案のように、どの程度会社が丁寧な説明と協議を行ったのかは記録として残しておくべきでしょう。
希望退職募集なくとも整理解雇が有効と認められた裁判例
事件の概要(令和2年(ワ)第19834号 東京地方裁判所 令和5年5月29日判決)
船内での新型コロナ集団感染事件の影響でクルーズ船が運航できず、人員削減が必要になったため、Y社が退職勧奨を拒否したXを含む7人の社員を整理解雇した事案です。
Y社は社員67人のうち24人を整理解雇の対象とし、解雇対象ではない社員や役員の給与の一律20%減額を決定しました。
この解雇を不服としたXがY社を提訴しました。
裁判所の判断
裁判所は以下を理由に、整理解雇を有効と判断しました。
- 整理解雇の有効性は①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③人選の合理性、④手続の妥当性を総合考慮し、客観的合理的な理由と社会的相当性を満たすかで判断すべきである。
- 本件解雇時には、クルーズ船の運航再開の見通しは全く立っておらず、今後1年程は売上げを得られない可能性が高く、親会社も営業損失が拡大し人件費を50%以上削減するよう要請していたため、人員削減の高度の必要性が認められる。
- 希望退職者の募集などをせずに解雇しているが、社員数が少ないため、希望退職者の募集により重要な役目を果たす社員が退職するリスクがあり、これらの事実をもって解雇回避努力が不十分であったとはいえない。
- 担当業務の重要性や年次評価、新業務への適応力等を評価し対象者を選んでいるため、人選に合理性がある。
- 団体交渉で資料を交付して財務状況を説明し、人選や希望退職者の未募集の理由等について回答しているため、手続きに妥当性がある。
ポイント・解説
裁判所は整理解雇に先立ち、希望退職者の募集や雇用調整助成金の受給を行わなくても、適切な理由があるならば、整理解雇は無効とならないと判示しています。
以前は、整理解雇の4要件は厳格に満たされていなければ、有効とならないという考え方がメインでしたが、現在では、この裁判例のように4要件を総合考慮して有効性を判断する方法が主流となっています。
裁判所は、X社の人員削減の必要性を高度と判断し、その分求められる解雇回避努力の程度を緩和して判断したものと考えられます。
整理解雇の有効性については高度な法的判断が求められるため、弁護士に相談するなどして慎重に検討することが必要です。
整理解雇を検討される際は、企業労務に詳しい弁護士にご相談ください
整理解雇は通常の解雇とは違い、4つの要件を満たすことが求められ、認定されるハードルは高いです。
ただし、4要件を完璧にクリアしなくても、解雇が認められる可能性もあります。
過去の裁判例を参考にしながら会社側の対応を検討していくべきでしょう。
整理解雇の実行には専門家である弁護士のサポートが必要不可欠です。
弁護士法人ALGでは、企業労務を得意とする弁護士が多数在籍していますので、貴社のお悩みに応じて丁寧なサポートが可能です。全国展開・電話対応なども行っていますので、整理解雇を検討される場合は、まずはお気軽にご相談ください。
この記事の監修

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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