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逆パワハラの対処法は?3つの要件・事例・対策などわかりやすく解説

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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員

職場におけるハラスメントの多くは上司から部下に対するものですが、昨今では逆の立場によるハラスメント事例も増えています。部下から上司へのパワハラについてはまだまだ認知度が低く、正しく対処することは難しいかもしれません。

しかし、ハラスメントである以上、放置すれば会社の責任となり、損害賠償請求の対象となり得ます。企業にとって、逆パワハラは決して無視できない問題です。

このページでは、逆パワハラの要件や事例、対処法や予防策などについて解説していきます。社内の対応状況とあわせてご確認下さい。

逆パワハラとは?

逆パワハラとは、部下から上司へのパワーハラスメントのことです。また、後輩から先輩、非正規社員から正社員といったパターンも逆パワハラといわれます。2020年にパワハラ防止法が適用され、パワハラという言葉が職場に定着するにつれ、昨今では逆パワハラについても関心が集まっています。

逆パワハラは会社の組織運営の土台を破壊しかねない重大な問題であり、上司が周りに相談できずに泣き寝入りしているケースも多いと考えられます。

逆パワハラが成立する3つの要件

パワハラ防止法では、以下の3つの要素すべて満たす行為をパワハラとして定義しています。

  • 優越的な関係を背景とした言動
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
  • 労働者の就業環境が害されるもの

この優越的な関係とは、上司から部下へという形式的な立場に限定されていません。実際のパワーバランスをもとに優越性が判断されます。厚生労働省の指針では、部下による行為であっても、以下のような場合をパワハラであるとして例示しています。

  • 部下による行為で、当該行為をおこなう者が業務上必要な知識や経験を有しており、当該者の協力を得なければ円滑な業務をおこなうことが困難であるもの
  • 部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であるもの

逆パワハラの具体的な事例

部下から上司という上下関係に逆転はあってもパワハラとなります。逆パワハラとして以下のような具体例があります。

具体例
上司への暴言・暴力
  • 部下が上司を軽視した発言・態度をとる
  • 「あの上司は無能だ」「おまえが無能だからだめなんだ」などと暴言を吐く
  • 上司の胸ぐらをつかんで怒鳴る
SNSなど公の場での誹謗中傷
  • SNSなどで「ハラスメント行為を繰り返している」「不正行為をしている」などと誹謗中傷する
業務命令に対する執拗な反発
  • 上司の指示に従わず、部下が理不尽な反論をする
  • 正当な業務指示をパワハラと訴え、謝罪や賠償を要求する
  • 適切に注意指導をした上司の配置転換や解雇を要求する
指示を聞かない・無視する
  • 上司の話や存在を故意に無視する
  • 上司の業務指示を集団的に無視する

上記と同様の言動があったとしても、優越的な関係が背景にない場合は逆パワハラに認定されない可能性もあります。その場合には業務命令違反等として対応することになるでしょう。

逆パワハラが起きてしまう原因とは?

逆パワハラが起こる原因として、以下が考えられます。

  • 上司よりも部下の方が業務に精通している
  • パワハラに関する社内教育が不十分で、逆パワハラを知らない
  • 上司のマネジメント力や指導力不足
  • 上司よりも部下が年上
  • 逆パワハラを査定対象として反映できるシステムの欠如

パワハラ防止法適用以降、上司から部下への言動には厳しい目が向けられるようになりました。指導とパワハラの境目が分からず、部下に何も言えなくなった上司も少なくありません。また、雇用形態の多様化により、上司よりも業務に関する知識や経験が豊富な部下が増えています。

部下に対する適切な管理・指導が行いにくい状況となった結果、部下も上司を軽視するようになり、逆パワハラが引き起こされるものと考えらます。

逆パワハラが発生した場合の正しい対処法

逆パワハラが発覚した場合、原則としては以下のような対応が必要となります。

  • 事実関係を調査して逆パワハラの有無を確認する
  • 注意・指導の記録を残す
  • 被害者である上司に配置転換などの措置を取る
  • 加害者である部下に懲戒処分などの検討・措置を行う
  • 逆パワハラも視野にいれてパワハラ防止措置を講じる

1つずつ解説していきます。

➀事実関係を調査して逆パワハラの有無を確認する

当事者だけでなく第三者を含めてヒアリングを行い、客観的な証拠の収集等で逆パワハラの事実があるのか調査しましょう。

調査は人事担当者や被害者である上司の上司が主体となることが多いと思われますが、社内の目だけでは日頃の印象等も調査内容に反映されてしまう可能性があります。

弁護士に相談し、より客観的な視点から逆パワハラの有無について結論づけることも有効な手段ですので、検討してみましょう。社内調査が困難で外部の手を借りた方が良い場合は、弁護士に調査依頼することも可能です。

また、調査内容は、事実関係を時系列順に整理しておきましょう。調査後の指導や、処分を行う際の根拠資料として活用することになりますので、正式な記録として残すことが大切です。

②注意・指導の記録を残す

逆パワハラと認定できる事実が確認できたら、加害者に対して注意・指導を行いましょう。パワハラの被害者である上司が直接、注意・指導できない場合は、別の役職者が注意・指導を行う必要があります。

加害者に対しては、会社として逆パワハラは許さないという姿勢を見せ、毅然とした態度で行動を改めるよう指導することが重要です。

注意・指導の際には必ず記録に残しておきましょう。指導内容や日時が記録されるメールやチャットの活用が望ましいといえます。指導記録や報告書は書面として残し、その内容は担当指導者だけでなく人事担当者など複数人で共有しておくことが必要です。後日、労働審判や裁判に発展した場合には、改善指導の内容や逆パワハラの態様を示す証拠として役立ちます。

③被害者である上司に配置転換などの措置を取る

加害者に根気強く注意・指導を行っても改善されず、被害者も疲弊しているならば、被害者である上司に配置転換を行うことを検討すべきでしょう。特に被害者と加害者の相性の悪さが逆パワハラの要因となっているのであれば、両者を遠ざけることで解決する可能性もあります。

ただし、パワハラ被害者が望まない部署などに配置転換すると、パワハラ防止法が禁止する「パワハラ相談者への不利益取扱い」に抵触する可能性があります。そのため、配置転換を行うにあたっては、あらかじめ被害者の希望を聴取することが必要です。

④加害者である部下に懲戒処分などの検討・措置を行う

指導に対しても反抗的であったり、勤務態度の改善がみられない場合は、加害者である部下に懲戒処分を検討しなければなりません。行為の悪質性や、その後の指導に対する態度などを含めて処分の程度を決める必要があります。

ただし、パワハラ加害者であっても、労働者であれば労働法の保護を受けます。行為に対して処分内容が重すぎると、違法な懲戒処分として無効になる、または加害者から裁判を起こされるおそれがあります。

まずは戒告やけん責など軽い処分から行い、それでも問題行動を繰り返すようであれば、処分を重くするなどステップを踏んで進めることが必要です。懲戒処分の内容に迷ったら弁護士へご相談ください。

懲戒処分を行う場合の注意すべきポイントについては下記ページよりご確認ください。

さらに詳しく懲戒処分を行う際に注意すべき3つのポイント

⑤逆パワハラも視野にいれてパワハラ防止措置を講じる

逆パワハラは発生後の対応だけでなく、予防することも重要です。会社にはパワハラ防止措置を講じることが法律上義務付けられています。パワハラ防止措置を講じるにあたっては、逆パワハラも視野に入れることが必要です。措置の例として、次が挙げられます。

  • パワハラ研修を通じて、逆パワハラもパワハラの1つであり防止の対象となることを説明する
  • ハラスメント相談窓口では逆パワハラの相談にも対応することを周知する
  • 社内でアンケート調査を行い、逆パワハラについても回答を求める
  • 事実関係を調査した結果、逆パワハラの事実認定ができなかった場合でも、放置せずに対処する

会社が逆パワハラを放置するリスク

逆パワハラの行為者は自分がパワハラをしていると認識していないこともあり、エスカレートするおそれがあります。

逆パワハラが長期化すれば上司のメンタルヘルス不調を招くことになり、最悪の場合は自殺というケースもあり得るでしょう。

このような事態になれば、会社は使用者責任や安全配慮義務違反を問われることになり、被害者やその遺族から損害賠償請求で訴えられるリスクもあります。

また、逆パワハラの放置は、職場環境の悪化に繋がります。そのような環境では、従業員の仕事へのパフォーマンスやモチベーションは低下し、離職者が増える可能性もあります。逆パワハラは、組織秩序の乱れから発生し、放置すれば職場崩壊のリスクがある大きな問題といえます。

逆パワハラを行う社員を辞めさせることはできるか?

注意や指導を続けても改善しない従業員には、会社から退職してもらうことを検討する必要があります。ただし、直ちに懲戒解雇することは難しいといえます。解雇には客観的に合理的な理由が必要であり、社会通念上も妥当な判断だと認められる必要があります。

もし、強引に懲戒解雇を行い、裁判で不当解雇・無効と判断されれば、解雇期間中に発生した未払い賃金(バックペイ)等の金銭的負担が生じてしまいます。そのため、解雇に先立ち、まずは退職勧奨による合意退職を行うことをおすすめします。

退職勧奨は、話し合いによる雇用契約の解消です。従業員が退職に向けての意向や要望を伝えられるため、円満解決を目指せます。ただし、説得が強引であれば退職強要になる可能性があるため、退職勧奨の進め方には十分注意する必要があります。

逆パワハラについて解雇が有効とされた裁判例

事件の概要

ソフトウェア開発を行うY社に勤務していたXは、セクハラを受けたと主張し、Y社対応後も、セクハラ騒動への嫌がらせであるとして業務命令を拒否していました。

さらに、上司であるCとDらに口頭やメール等で中傷を行い、感情的な暴言を吐きました。その後、Xはうつ病を理由として休職しましたが、休職期間に入ってからも上記上司らに対する誹謗中傷行為等を止めようとしませんでした。

Xは、上司Cを含む複数名に対し、おびただしい回数の電話及びメール送信を行っています。メール等を通じて、執拗にセクハラ加害者の実名での懲戒処分の公開、保険金の肩代わりなどを要求し続け、Cらの業務を著しく妨害しました。

Y社はXを解雇するにあたって、退職勧奨を行いましたがXが応じなかったため、休職期間満了を待って普通解雇としました。これに対し、Xは不当解雇として訴えました。

裁判所の判断

(平成21年(ワ)第38676号・平成22年11月26日・東京地方裁判所・第一審・アクティス事件)

裁判所は本事案の解雇を有効と判断しました。正当な業務命令をセクハラ騒動への嫌がらせであるとして拒否したXに対し、Y社は何度も説得するなど改善を試みています。Xは説得には応じず、業務を放棄する行動をとる結果となりました。

また、セクハラ対応等で気に入らない点があるたび、上司や部下、同僚等に対して夥しい数の電子メールを送信し、暴言を吐くなどの行為は業務妨害にあたります。これらの行為によってY社との信頼関係はもとより、上司や同僚、部下との関係も、もはや回復不可能なまでに根本から失われたと裁判所は判示しました。

Y社は、Xの再就職活動を考慮して普通解雇としていますが、裁判所は懲戒解雇も相当と述べています。

ポイント・解説

本件のような部下から上司への暴言や、業務を妨害する迷惑行為は逆パワハラにあたります。

裁判所は、Y社が改善を求めて何度も説得を試みたこと、就業規則上のパワハラや懲戒処分に関する規定に従って対処したこと、退職勧奨を試みたこと、労働基準監督署等へ相談した上で、普通解雇を選択したなどの事実を評価し、解雇を有効と判断したものと考えられます。また、Y社は説得の経緯やXの迷惑行為を記録しており、これらは裁判で証拠として採用されています。

解雇が有効と認められるには、解雇事由に該当する事実のエビデンスはもとより、解雇判断の経緯についても証拠として残しておくことが重要です。

逆パワハラは事案によっては懲戒処分等を検討せざるを得ない問題です。処分を巡ってトラブルとなることも想定されるため、専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

逆パワハラを防ぐために会社がとるべき対策

パワハラ防止法(労働施策総合推進法)の適用により、すべての会社にパワハラ防止対策が義務づけられました。厚生労働大臣の指針には、以下の措置が定められています。

【パワハラ防止対策の内容】

  • 事業主の方針の明確化及びその周知・啓発
  • 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  • 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
  • 合わせて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止等)

これらを踏まえ、逆パワハラを防止するための具体的な対策として、以下が挙げられます。

  • 就業規則の整備・従業員への周知
  • 相談窓口の設置
  • 社内研修の実施
  • マネジメント研修の実施

1つずつ確認していきましょう。

ハラスメント防止策についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

さらに詳しくハラスメントに関する8つの防止策

就業規則の整備・従業員への周知

「事業主の方針の明確化及びその周知・啓発」について、就業規則で、「パワハラ」に対する会社の対応方針定め、逆パワハラも「パワハラ」と変わりないことを従業員へ周知しましょう。

その上で行為者に対しては厳正に対処する、などの会社の姿勢を明確にしておくことが大切です。通常のハラスメントと同じく、逆パワハラの内容についても具体的に周知・啓発しておくと、従業員の理解が進むでしょう。

懲戒規定には、パワハラ禁止規定を設け、行為者に対する処分内容等を記載します。説明会を開催し、会社がハラスメント対策として、逆パワハラも同様に対策を行っていることを知ってもらうと良いでしょう。

相談窓口の設置

ハラスメントの相談窓口を設置している会社であれば、「上司・管理職も逆パワハラを受けた場合は、ハラスメント窓口に相談してもよい」ということを社内に周知しておくべきでしょう。

ハラスメント相談窓口が設置されていない会社は、現在は相談窓口の設置が義務化されていますので、ハラスメント窓口を設置し、逆パワハラについても対応するようにしましょう。

なお、相談窓口は、社内に設けるだけでなく、外部に設ける方法もあります。社内の相談窓口は周囲の目もあって相談しにくいという側面もあるため、弁護士など外部窓口の活用も一考するべきでしょう。

社内研修の実施

ハラスメントは、一般社員だけではなく、役職についた上司・管理職にもかかわる問題です。

役職に就いたからといって、「逆パワハラを受けるのは本人の資質の問題で、管理能力がないからだ」と決めつけ、会社が放置することはあってはなりません。また、パワハラによるメンタル不調など、万が一のことがあった場合には、会社の安全配慮義務違反が追及されるおそれもあります。

そのため、社内でのハラスメント教育は重要であり、ハラスメント研修は役職や社歴にかかわらず全社員を対象に行うべきといえます。

特に「ハラスメントは上司から部下へ行われるもの」という固定観念が影響していることもあります。逆パワハラを正しく認識する機会を作ることで防止につなげられるでしょう。

マネジメント研修の実施

上司や管理職が部下の指導の仕方を理解していない場合には、逆パワハラを助長させるきっかけになり得ます。管理職を対象としてマネジメント研修を行い、指導能力の向上をはかりましょう。

管理職にマネジメントスキルを身につけてもらい、適切にリーダーシップを発揮することができれば、部下からの信頼も厚くなります。上司と部下の上下関係が適切であれば、逆パワハラは生じにくいと考えられます。組織として良好な関係性構築を目指しましょう。

逆パワハラの対処法については労働問題に強い弁護士法人ALGにご相談ください

部下から上司への行き過ぎた言動は立派なパワハラです。まだまだパワハラは上司から部下へのもの、という認識が一般的ですので、正しい知識を職場で周知することが必要です。

逆パワハラを放置すれば会社の組織としての秩序が崩壊してしまう可能性があります。また、逆パワハラの放置によってメンタル疾患やその他事故等に繋がれば会社の責任となります。

会社には逆パワハラを防止する対策を行う義務がありますので、防止対策や、対処法についてお困りであれば弁護士へご相談ください。

弁護士法人ALGでは、労務に精通した弁護士が多数在籍していますので、日々の事前対策から問題発生時の対処まで幅広く対応することができます。会社それぞれの状況に合わせた柔軟な対応が可能ですので、まずはお気軽にお問い合わせください。

この記事の監修

担当弁護士の写真

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

保有資格
弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)

執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。

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