トラブル
#出社拒否
#従業員
#解雇

監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
従業員が出社を拒否した場合、安易な対応は大きなリスクを伴います。
背景には「仕事をさぼりたい」だけでなく、体調不良やメンタル不調、パワハラなどの職場環境の問題が潜んでいることもあるからです。
一律に業務命令違反として処分すれば、不当解雇や安全配慮義務違反に問われる可能性があるため、理由に応じた適切な対応が不可欠です。
この記事では、出社拒否への正しい対処法について解説します。テレワーク継続を理由とする出社拒否への対応も取り上げていますので、ぜひご覧ください。
目次
出社(出勤)拒否とは
出社拒否とは、何らかの理由で会社に行かない、または会社に行けなくなる状態を指します。
出勤拒否も同じ意味です。
出社拒否は周囲からズル休みと思われがちですが、ただの甘えと言い切ることはできません。
「仕事を放棄したい」など社員側に問題がある場合だけでなく、劣悪な職場環境など会社側に問題がある場合もあります。
出社拒否は懲戒処分の対象になる?
従業員が正当な理由なく出社を拒否した場合、業務命令違反として懲戒処分の対象となります。
懲戒処分には戒告や減給、出勤停止、懲戒解雇などの種類がありますが、いきなり処分することはできません。
まず就業規則に懲戒事由として出社拒否が明記されていることが必要です。そのうえで、本人への事情確認や改善の機会を与えるなど、必要な配慮を行うことが求められます。
たとえば、体調不良や職場環境の問題など正当な理由がある場合は、休職や在宅勤務などの代替策を検討しなければなりません。
一方、合理的な理由がなく、再三の指示にも従わず出社を拒否し続ける場合は、懲戒処分を検討します。その際は、行為の悪質性や業務への影響を踏まえ、社会通念上相当な範囲で行うことが重要です。
懲戒処分を行う際の注意点について知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
さらに詳しく懲戒処分を行う際に注意すべき3つのポイントとは?実施の流れ、判例を含めて解説懲戒処分できるケース
出社拒否で懲戒処分できるケースとして、以下が挙げられます。
- 理由のない出社拒否
- プライベートな用件による出社拒否
- 出社拒否の理由が嘘
特別な理由なく、単に面倒だからという理由で出社拒否する場合は、懲戒処分の対象となります。
また、「家で映画が見たい」「友人と遊びに行きたい」など個人的な理由で出社を拒む場合も同様です。
ただし、病気の家族の看護などやむを得ない場合もあるため、個々の事案ごとに懲戒が認められるか判断する必要があります。
さらに、例えば体調不良を理由に出社拒否していたのに、SNSに旅行中の写真がアップされるなど、出社拒否の理由が嘘であることが発覚した場合も、懲戒処分の対象となります。
会社に嘘をつくこと自体、悪質な行為とみなされるため、懲戒はより認められやすいと考えられます。
懲戒処分できないケース
- 体調不良
- 職場環境に問題がある
- 感染症の罹患に不安がある
うつ病など体調不良が原因で出社できない場合は、懲戒処分をするのは困難です。
会社には安全配慮義務があり、体調不良の社員を無理に出社させる命令そのものが不合理と判断されるからです。
また、長時間労働やパワハラなど職場環境に問題があって出社拒否している場合も、会社側に責任があるため、懲戒を行うのは難しいでしょう。まずは職場環境の改善など、出社拒否の原因を除去する必要があります。
さらに、コロナのような新型の感染症が職場で流行し、社員に重症化リスクのある基礎疾患がある場合、感染を恐れて出社を拒否するのはやむを得ません。
このようなケースで懲戒処分を科すのは不適切であり、在宅勤務や休職などの代替策を検討すべきです。
出社拒否する従業員への対応手順
正当な理由なく出社を拒否する社員に対しては、以下の手順で対応する必要があります。
- 話し合いの機会を持つ
- 説得できない場合は出社命令を出す
- 出社命令に従わないときは懲戒処分を検討する
- 懲戒処分でも出社拒否の場合は退職勧奨を検討する
- 退職勧奨にも応じない場合は解雇を検討する
①話し合いの機会を持つ
出社を拒否する社員に対しては、まずは話し合いの場を設けることが必要です。
社員としっかり話し合いをおこない、出社を拒否する理由を確認するようにしましょう。出社拒否に正当な理由があるならば、会社としてもその問題を解消する必要があります。
例えば、休職者が復職するときは、復職後の業務負担の軽減など必要な配慮を約束し、出社するよう説得することが求められます。
また、ハラスメントにより出社を拒否しているならば、事実関係の調査や被害者へのケア、加害者への処分を行い、出社に向けた協議を進めるべきです。
さらに、業務内容が過重であることや、人間関係のトラブルが原因で出社を拒否している場合は、業務の見直しや配置転換など、根本的な問題解決に取り組むことが重要です。
②説得できない場合は出社命令を出す
職場環境の改善や必要な配慮を尽くしても出社拒否が続く場合は、正式な出社命令を出す必要があります。
この際は、口頭での指示は避け、必ず書面やメールなど記録が残る方法で命令を行うことが重要です。記録を残すことで、「言った・言わない」のトラブルを防ぎ、万が一労働審判や裁判に発展した場合にも有力な証拠となります。
また、出社命令の内容は具体的であることが求められます。出社日や時間、業務上の必要性を明確に記載し、従業員に理解を促すことがポイントです。
③出社命令に従わないときは懲戒処分を検討する
出社拒否の原因を解消し、必要な配慮を行ったにもかかわらず、従業員が出社命令を拒否し続ける場合は、懲戒処分を検討する必要があります。
ただし、処分を行うには、就業規則に「出社拒否(業務命令違反)」が懲戒事由として明記されていることが前提です。
懲戒処分の種類として、軽い順から、戒告・けん責・訓戒(文書で厳重注意する処分)、減給、出勤停止、降格などが挙げられます。
出社拒否の場合は、まずは戒告やけん責など軽い処分から行い、反省と態度の改善を求めるべきでしょう。それでも出社を拒否する場合は、より重い減給処分を行うなどステップを踏んで進めることが大切です。
④懲戒処分でも出社しない場合は退職勧奨を検討する
懲戒処分を行っても、出社拒否を続ける場合は、退職勧奨を検討することになります。
退職勧奨とは、会社側が退職してほしいと考える社員に退職をすすめることです。
今すぐ解雇したいというお気持ちは分かりますが、解雇が認められるためには高いハードルがあり、裁判で会社側が敗訴して不当解雇と判断されると、多額の金銭の支払いを命じられるリスクがあります。
裁判で負けるリスクや裁判に伴う負担を考えると、あくまで解雇は最終手段と位置付けて、まずは退職勧奨を行い、合意による退職を説得するのが良いでしょう。
もっとも、退職勧奨に応じるかどうかは、社員の自由な意思に任せられます。
強引に退職を迫ると、違法な退職強要となるおそれがあるため、面談時は会社の考えを一方的に押しつけたり、高圧的に退職を迫ったりしてはいけません。
⑤退職勧奨にも応じない場合は解雇を検討する
出社拒否する社員が退職勧奨にも応じない場合は、最終的に解雇を検討することになります。
ただし、労働契約法16条では、解雇権の濫用は禁止されており、合理的な理由がなければ社員の解雇はできません。
解雇するには、会社として何度も出社を要請したり、懲戒で反省や改善を求めたりしたにもかかわらず、それでも出社に応じなかったという状況が求められます。
解雇を検討する場合には、会社として講じるべき措置をすべて講じたかを、改めて見直す必要があります。正当に解雇できるか判断に悩む場合は、労働法務に強い弁護士にご相談ください。
退職勧奨に応じてもらえない場合の対処法について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
【理由別】出社拒否する従業員への対応方法と注意点
出社拒否については、その理由によって会社がとるべき対応が変わります。
以下の5つのケースごとに、対応方法を見ていきましょう。
- うつ病など体調不良による出社拒否
- 復職時のトラブルによる出社拒否
- パワハラやセクハラによる出社拒否
- 家族の介護・看護などによる出社拒否
- テレワーク・在宅勤務の継続を理由とした出社拒否
うつ病など体調不良による出社拒否
うつ病などの体調不良を理由として仕事を休みたいと申し出があった場合、原則的に会社は応じなければなりません。
会社には社員への安全配慮義務があります(労契法5条)。体調不良の社員に出社を強制したり、仕事の引継ぎや繁忙を理由に休む時期を先延ばしたりすることは、安全配慮義務違反にあたる可能性が高いためです。
ただし、社員から診断書を提出してもらい、体調不良が正しいものであるか確認することは可能です。
病名に加えて、勤務の可否を書いた診断書の提出を求めましょう。
診断書で長期的な療養が求められている場合は、休職を命じるのが適切です。
社員が診断書の提出をしない場合は、出社拒否を聞き入れる必要はありません。このケースでは、解雇を含めて今後の処分を検討する必要があります。
出社拒否症の場合
出社拒否症とは、出社することに対して体が拒否反応を起こしてしまう病気をいいます。
出勤日の朝になると、急に不安や緊張が高まって動悸がおきたり、通勤電車に乗ると息苦しくなったり、会社に近づくとめまいがするといった症状が出ることが通例です。
出社拒否症は病気であるため、本人に責任はありません。強制的に出社させると病状が悪化するおそれがあるため、通院や休職を勧める、働き方の変更や部署異動を行うなど一定の配慮が求められます。
復職時のトラブルによる出社拒否
病気やメンタル不調で休職していた社員が復職する際、復職条件をめぐって会社と意見が対立し、出社拒否に発展するケースがあります。
この場合、企業はまず安全配慮義務を果たしているか確認することが重要です。
会社は従業員の健康を守る義務を負っており、復職時には主治医や産業医、本人の意見を踏まえ、病状に応じた勤務条件の調整を行う必要があります。
求められる配慮として、以下があげられます。
- 人事異動
- 軽作業や定型業務、安全な業務への転換
- 短時間勤務
- 出張制限、転勤についての配慮
- フレックスタイム制度の制限・適用
- 残業や深夜業務の禁止
- 試し出社
- テレワーク勤務
会社が復職に向けて必要な配慮を尽くしても従業員が出勤を拒否する場合は、出社拒否が認められないことを説明し、出社以外に選択肢がない理由を明確に伝えることが重要です。
それでも拒否が続く場合は、最終的に解雇を検討することも選択肢の一つとなります。
ただし、解雇は重大な処分のため、法的要件を満たし、適切な手続きを踏む必要があります。
パワハラやセクハラによる出社拒否
ハラスメント(パワハラやセクハラ等)を理由とした出社拒否の場合は、出社拒否が正当かどうか判断すべきです。
ハラスメントがあると確認できた場合は、正当な出社拒否と判断されるため、速やかにその原因を取り除く必要があります。
そもそも会社にはハラスメント防止策を講じる義務があるため(均等法11条ほか)、何ら問題を改善せずに、出社を強制することはできません。
事実関係を調査した上で、被害者への配慮、行為者への処分、職場環境の改善、再発防止策など適切な対応が求められます。
ハラスメント対策を講じた後も出勤を拒否し、説得も無視する場合は、懲戒や解雇を検討する必要があるでしょう。
ハラスメント対応や防止策について知りたい方は、以下の各ページをご覧ください。
さらに詳しくパワハラが発生した場合の企業がとるべき対応について さらに詳しくハラスメントに関する防止策家族の介護・看護などによる出社拒否
家族の介護や看護による出社拒否はやむを得ない事情であり、無断欠勤と同一視できません。
企業が十分な配慮をせず懲戒や解雇を行えば、不当解雇と判断されるリスクがあります。
ただし、必要な対応を尽くしたにもかかわらず、正当な理由なく出社を拒み続ける場合は、懲戒処分を検討できることもあります。
処分には就業規則での明記と、社会通念上相当な範囲での段階的対応が必要です。
なお、企業には育児・介護休業法に基づく介護休業(通算93日、最大3回分割)や介護休暇(年5日、2人以上なら10日)を整備する義務があり、短時間勤務やテレワークなど柔軟な働き方を認める努力義務も課されています。
こうした制度を周知し、従業員と協力して仕事と介護の両立を支援することが重要です。
テレワーク・在宅勤務の継続を理由とした出社拒否
会社は原則として、従業員の勤務場所を決定する権限を持っています。そのため、会社が出社を命じた場合、従業員は基本的にこれに従う必要があります。
そのため、いくら社員がテレワークを希望しても基本的に正当な理由にはならず、懲戒処分も検討できます。
ただし、テレワークを希望する社員側の事情を確認する必要があります。
感染症の流行など緊急事態宣言が出されているような場合は、感染を懸念してテレワークを希望することに正当性があるため、懲戒を行うのは困難です。
他方、緊急事態宣言がなく、会社が感染予防策を徹底している場合は、出社拒否は認められないでしょう。
また、入社後の勤務実態を踏まえて、勤務地を原則として社員の自宅とすることが雇用契約の内容になっていた場合は、出社命令が無効となる場合もあるため注意が必要です(東京地方裁判所 令和4年11月16日判決)。
出社拒否における解雇の正当性について争われた判例
事案の内容
【平成25年(ワ)第33632号 東京地方裁判所 平成28年1月26日判決】
愛知県内にあるY社の航空機製作所で働いていた社員Xが、統合失調症を理由に休職した後、主治医から勤務上問題がないレベルまで回復しているとの見解が出されたため、会社に復職を申請しました。
その際、復職には同居家族のサポートが必要であるため、現在の居住地である埼玉県内の実家から通勤できる場所での復職を求めたのに対し、Y社から原職場での復職を命じられたため出社を拒んだところ、解雇されました。
これに納得のいかないXが不当解雇としてY社を訴えた事案です。
裁判所の判断
裁判所は、以下を理由に、Y社が原職場での復職を命じたことは正当として、解雇を有効と判断しました。
- Y社はXの復職後に短時間勤務を行い、出勤率や勤務状況等から通常勤務の可否を判断する予定だったため、当初の勤務は、心身への負担をかけないため、周囲の理解や支援を得るため、従前の勤務状況との比較のためにも、原職場への復職が望ましいと考えられる。
- Xは復職には同居家族による生活支援が必須として、現住所から通勤可能な勤務場所を求めているが、仕事内容や勤務時間等の就業上の配慮はともかく、Xの食事や洗濯、金銭管理等の生活支援をどうするかは本来的に家族内部で解決すべき課題である。
- Xは原職場に技能職として採用され、他の事業所に配置転換することは想定されていなかった。
- Xは再三にわたる復職命令を拒んでおり、重大な業務命令違反が認められる。
判例のポイント
復職後の配属先が希望にあわず出社拒否に至った事例です。
本件では、原職場での復職を命じたことは有効と判断されています職場を変更すると新しい環境に慣れるために負担がかかるため、復職においては原職への復帰が原則となっています。
ただし、社員の健康状態によっては原職に復帰させることが安全配慮義務に違反する可能性もあります。原職の仕事内容や仕事量、勤務地等から社員の心身への負担が大きく、健康状態が悪化するおそれがある場合は、主治医や産業医、本人、上司等の意見を聴取し、現実的に異動できる職場の有無なども踏まえて、原職以外での復帰を検討する必要があります。
出社拒否の対応について不安なことがあれば弁護士にご相談ください
出社拒否といってもその理由は千差万別で、個々の社員によって事情は異なります。
まずは社員から出社拒否の理由を聞き出し、個別に問題の解決を図らなければなりません。
正当な理由がない場合は、懲戒処分の対象となりますが、懲戒処分の有効性は出社拒否の理由に応じて判定が変わるため注意が必要です。
労働法務に精通する弁護士であれば、出社拒否する社員への対応方法、懲戒・解雇の有効性の判断、退職勧奨や解雇言い渡し時の立ち合い、解雇後のトラブル対応など、様々な面で力になることができます。
出社拒否の対応について何かご不安なことがある場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。
この記事の監修

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
企業の様々な労務問題は 弁護士へお任せください
会社・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受付けておりません
※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。
受付時間:平日 09:00~19:00 / 土日祝 09:00~18:00
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
- ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。