団体交渉
#子会社

監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
子会社の社員が加入する労働組合が、親会社に対して団体交渉を申し入れてくることがあります。
子会社の社員からの団体交渉に応じる法的義務は基本的にありません。
しかし、親会社が子会社の労働条件を決定できる立場にある場合は、団体交渉に応じる義務が課せられる可能性があります。
そこで、この記事では、
- 子会社の社員からの団体交渉に応じる必要性
- 団体交渉を求められた場合の適切な対応方法 など
について解説します。
目次
子会社の従業員からの団体交渉に応じる義務はある?
子会社から団体交渉を申し込まれたとしても、原則として応じる必要はありません。
労働組合法7条2号が禁止しているのは、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むこと」です。
親会社と子会社はそれぞれ独立した企業であり、子会社の社員は、あくまで子会社との間でしか雇用関係はありません。
そのため、親会社には子会社の社員の労働条件を決める権限がなく、基本的に団体交渉に応じる義務は負いません。
ただし、親会社が子会社の社員の労働条件を決めているなど、通常の親子会社よりも密接な関係がある場合には、例外的に団体交渉に応じる義務を負うことがあります。
親会社の「使用者性」
団体交渉に応じる義務を負う使用者の範囲について、判例は以下のとおり判断しています。
- 雇用主以外の事業主でも、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にある場合は、その限りにおいて労組法上の使用者に当たる(最高裁判所 平成7年2月28日判決 朝日放送事件)
つまり、直接の雇用関係がなくとも、親会社が子会社と同視できる程度に、子会社の社員の労働条件を決定できる立場にあれば、その範囲の事項については、親会社も団体交渉に応じる必要があると考えられます。
そのため、子会社の社員から団体交渉を求められても、雇用関係がないという理由のみで断ることは避けるべきです。
①親会社の使用者性が肯定された事例
【平成20年(不)第53号 東京都労働委員会 平成24年8月28日命令】
(事案の内容)
親会社Xは、会社分割により家庭用ミシンの販売部門を譲渡する形で、子会社Yを設立しました。
その後、子会社Yで働く社員Aは、子会社Yの経営不振による解散に伴い解雇されたため、労働組合を通じて雇用保障を求めて、親会社Xに団体交渉を申し入れました。
しかし、親会社Xは団体交渉を行う当事者ではないとして団体交渉を拒否したため、労働組合が労働委員会に救済を申し立てた事案です。
(労働委員会の判断)
労働委員会は以下を理由に、親会社は労組法上の使用者に該当するため、団体交渉に応じる義務があると判断しました。
- 親会社として株式所有、役員の派遣、受注関係等を通じて子会社の経営を支配し、子会社の労働者の基本的な労働条件について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配している場合は、親会社も労組法上の使用者に当たる。
- 親会社Xは、子会社Yを全面的に経営上支配していたこと、会社分割自体が会社としての責任を負わずに不採算部門の社員の雇用を解消する目的で行われた疑いがあること、希望退職者への退職金の支払いについて資金支援を行っていたこと等からすると、株主の地位を越えて、子会社Yの社員の基本的な労働条件を支配していたといえる。
(命令のポイント)
会社分割により不採算部門を子会社に分割した後に、経営不審を理由に会社解散し、希望退職に応じなかった社員を解雇したという事案です。
裁判所は、親会社は労組法上の使用者に当たるため、雇用保障を議題とする団体交渉に応じる必要があると示しています。
会社分割により不採算部門の切り離しを行ったとしても、親会社は子会社への責任を免れないと判断した点で意義のある命令となっています。
②親会社の使用者性が否定された裁判例
【平成21年(行ウ)第295号 東京地方裁判所 平成23年5月12日判決】
(事案の内容)
X社は電子部品の製造会社であるY社の株式の約53%を取得し、Y社の親会社になりました。
その後、Y社は労働組合の同意なく、Y社の全体にかかわる事業を他社に譲渡したり、組合員に配置転換を命じたりしたため、これらに抗議し、X社とY社に団体交渉を申し込み、Y社は応じましたが、X社は拒絶しました。その後、Y社の持株会社としてZ社が設立され、X社はY社の株式を手放し、Z社の株式を約68%取得しました。
組合は、X社、Y社、Z社に対し、Y社の工場の存続・発展のための経営計画や工場労働者の雇用確保等の対策を明確にするよう団体交渉を申し入れましたが、Y社とZ社から拒絶された事案です。
(裁判所の判断)
裁判所は以下を理由に、親会社X社と持株会社Z社は労組法上の使用者に当たらず、団体交渉に応じる義務はないと判断しました。
- X社は資本関係及び出身の役員を通じ、また、Z社は資本関係及び兼務する役員を通じてY社の経営に一定の支配力を有し、営業取引上優位な立場を有していた。
- しかし、X社とZ社の支配は企業グループの経営戦略的な観点から、親会社や持株会社が子会社に行う管理監督の域を超えるものではなく、日常的な労働条件や事業再建等に伴う労働条件等について雇用主と同視できる程度に決定できる立場にあったとはいえない。
(判例のポイント)
裁判所は、子会社に対する一定の支配力や影響力があることを認めつつも、親会社と持株会社は子会社の社員の労働条件を決定するまでの立場になかったとして、労組法上の使用者に当たらないと判断しています。
会社としては、子会社の社員からの団体交渉の申入れであっても、直ちに拒否するのではなく、自社の影響力・支配力を十分に精査して対応することが重要です。
子会社の従業員から団体交渉を申入れられた場合の進め方
子会社から団体交渉を申し入れられた場合の進め方は、以下のとおりです。
- 団体交渉申入書を確認し、団体交渉の議題を精査する
- 親会社の子会社への支配力や影響力を調査する
- 回答書を作成する
- 団体交渉の日時や場所を決める
- 団体交渉に向けた事前準備をする(出席者の決定、想定問答の準備など)
- 団体交渉当日の交渉
- 合意または決裂で団体交渉が終了
子会社から団体交渉を申し入れられた場合は、親会社として、子会社との雇用関係や関与の度合いを検討する必要があります。
自社だけでは判断が困難な場合は、弁護士にご相談ください。
団体交渉の具体的な進め方については、以下の記事をご参考ください。
さらに詳しく団体交渉の進め方や注意点子会社の従業員からの団体交渉について弁護士に相談するメリット
子会社からの団体交渉を弁護士に任せることで、以下のようなメリットを受けることができます。
- 子会社からの団体交渉に応じるべきか否か、どこまでの要求に応じるべきか判断してもらえる
- 団体交渉の経験を踏まえた交渉戦略の立案ができる
- 団体交渉に同席してもらい、代理人として交渉に立ち会ってもらえる
- 労働協約や合意書など書面の精査や作成を任せられる
- 不当労働行為を回避してもらえる
- 弁護士が味方につくことで冷静な話し合いができる
- 交渉中止や和解の落としどころを判断してもらえる
- 労働審判や裁判に進んだ場合も円滑に対応できる
子会社の従業員から団体交渉を求められた場合の適切な対応
子会社の社員から団体交渉を求められた場合、親会社としてはどのように対応するのが適切でしょうか。
次項で詳しく見ていきましょう。
なお、団体交渉を申し入れられた際の初動対応については、以下の記事をご覧ください。
さらに詳しく団体交渉の申し入れを受けた際の会社の初動対応雇用関係がないというだけで拒絶しない
基本的に親会社は子会社の社員と雇用契約を結んでいないため、子会社の社員からの団体交渉に応じる必要はありません。
ただし、親会社が子会社の社員の労働条件等を事実上決定しているなど、通常の親子会社を超える密接な関係があれば、子会社との団体交渉に応じる義務が課せられる場合があります。
そのため、単に直接の雇用関係がないという理由だけで、団体交渉を拒否するのは避けるべきです。
団体交渉の議題を確認し、実質的に親会社が決定している事項が含まれているならば、その範囲内で団体交渉に誠実に応じる必要があります。
団体交渉事項を十分に精査する
子会社の社員から団体交渉を求められた場合は、まずは労働組合から送付された「団体交渉申入書」や「要求書」などの書面を熟読し、十分に内容を精査しましょう。
親会社として団体交渉に応じる義務を負うかどうかを見極めるためにも、どのような内容が団体交渉の議題となっているかをチェックする必要があるためです。
親会社の決定権の有無・影響力の程度を調査する
子会社の従業員から交渉を求められた議題について、親会社として具体的にどのように関わってきたかを調査しましょう。
具体的に決定していたのか否か、報告だけ受けていたのか、実質的に誰に決定権限があったのかなど、決定権の有無や影響力の程度を調べます。
また、資本や役職人事など労務に関する方針について強い支配関係がある場合には、労組法上の使用者と判断される可能性があります。
そのため、持株割合や、役員や管理職の中に親会社から派遣されている者はいないか等も調査する必要があります。
調査の結果、親会社が雇用主である子会社と同視できると判断されたならば、子会社の従業員からの団体交渉に誠実に応じるべきでしょう。
子会社の従業員からの団体交渉の対応でお悩みの際は弁護士にご相談下さい。
子会社の従業員から団体交渉を申し入れられた場合、直接の雇用主ではないとして門前払いしてしまう会社もあるかと思います。
しかし、雇用関係がなくとも、通常の親子会社の関係を超える密接な関係があるならば、団体交渉に応じる義務が課される場合があります。
子会社の従業員からの団体交渉を安易に拒否すると、不当労働行為としてペナルティを受けるおそれがあるため、慎重な検討が必要です。
団体交渉に応じるべきか否か、どの程度まで応じるべきか等の判断は専門性が高く容易ではありません。
子会社の従業員からの団体交渉の対応でお悩みの場合は、団体交渉を得意とする弁護士にご相談ください。
この記事の監修

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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