解雇
#解雇

監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
「繰り返される無断欠勤」「上司の命令を無視する」など、これらの行為は一般的な感覚では、クビになっても当然と思われるような言動であることは間違いありません。
しかし、問題行動があったからといって深く考えずに解雇してしまうと、不当解雇として、会社側に多額の金銭の支払いが命じられることも少なくありません。
解雇はイメージするほど簡単なことではなく、正当に解雇するには、入念な準備が必要です。
そこで、このページでは、会社側に向けて、不当解雇と正当解雇の違いや、不当解雇と判断されるケース、解雇が正当であると認められるためのポイントなどについてご紹介します。
目次
不当解雇と正当な解雇の違いとは
不当解雇とは、労働基準法や労働契約法等の法律や、就業規則のルールに違反する解雇を指します。
この中でも、特に多い不当解雇が、労働契約法16条により無効とされる解雇です。
(労働契約法16条)
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
この条文における、「客観的に合理的な理由」とは、解雇に値する事柄が事実として存在すること、「社会通念上相当である」とは、世間一般の目から見て解雇してもやむを得ないと思える事情があることを意味します。
これらの要件を満たした場合に限り、解雇が認められることになります。
そのため、例えば、単に経営者の好き嫌いで解雇した場合は合理的な理由がなく、また本人に改善の機会を与えずに解雇した場合は相当性に欠けるとして、不当解雇と判断される可能性が高いでしょう。
不当解雇であるか否かの最終判断は裁判所が行います。
なお、このような不当解雇に当たらない、法的に有効な解雇を「正当解雇」といいます。
解雇の正当性について争われた裁判例
ここで、解雇の正当性について争われた裁判例をご紹介します。
【最高裁第二小法廷 平成24年4月27日判決 日本ヒューレット・パッカード事件】
(事案の概要)
システムエンジニアである原告社員は、精神的不調から、同僚から監視されているという被害妄想にとらわれたため、会社側に休職を求めたところ、認められず出勤を促されました。
しかし、原告は嫌がらせが解決しない限り出勤しないと会社に伝え、約40日間にわたり無許可での欠勤を続けたことから、会社は原告を論旨退職処分としました。これを不服とした原告が提訴した事案です。
(裁判所の判断)
裁判所は、以下の理由から、本件の論旨退職処分を無効と判断しました。
- 精神的な不調により欠勤を続けている社員に対しては、①精神科医による健康診断などを実施した上で、②必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、③その後の経過を見るなどの対応を行うべきである。
- しかし、これらを行うことなく、正当な理由のない無断欠勤として、諭旨解雇することは、精神的な不調にある労働者への使用者の対応としては不適切である。
(判例のポイント)
昨今では、本件のように、精神的な不調がうかがわれながらも社員本人に自覚がないケースも少なくありません。本人に病識がないのに受診を命じるのは、プライバシーに関わるため不適切であると考える方もいるかと思います。
しかし、判例の考え方によれば、精神的な不調にある社員に対し、懲戒や解雇等を行うためには、健康診断の受診や治療の推奨、休職といった積極的な対応をとることが必要であると考えられます。
裁判所で不当解雇と判断されたらどうなる?
裁判所で不当解雇と判断された場合は、解雇自体が無効となります。この場合、解雇した後も雇用契約が続いていた取り扱いになるため、社員を復職させた上で、解雇日以降の未払い賃金(バックペイ)を支払わなければなりません。
また、ケースによっては、損害賠償金の支払いが命じられる可能性もあります。さらに、以下の不当解雇を行った場合は、会社に6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があるためご注意ください。
- 産前産後期間中の解雇、業務災害の解雇(労基法19条)
- 解雇予告・解雇予告手当を支払わないで行った解雇(同法20条)
- 労基署に対し労基法違反を申告したことによる解雇(同法104条2項)
裁判所で不当解雇と判断された場合の具体的な対応について次項で解説していきます。
従業員の復職
解雇が無効となるということは、会社が行った解雇ははじめからなかったことになります。
つまり、会社と解雇された社員との雇用契約は終了しておらず、現在でも継続していることになります。
そのため、本人が会社への復帰を望んでいるならば、会社は解雇された社員を職場復職させて、給与の支払いを再開しなければなりません。
雇用期間中の給与の支払い
社員を解雇した後は、当然会社は給与を支払わないですよね。
しかし、不当解雇・無効と判断されると、会社と社員との雇用契約は今でも存続していることになります。
そのため、会社は解雇日以降に未払いとなっていた給与を支払わなければなりません。
この未払い給与を「バックペイ」といいます。裁判が長期にわたり、解雇無効と判断されるまでに時間がかかった場合や、解雇された社員の給与が高いような場合は、多額のバックペイを支払わなければならなくなる可能性があるため注意が必要です。
損害賠償金(慰謝料)の支払いの可能性について
会社が不当解雇を行った場合、バックペイの支払いだけでなく、それにより精神的苦痛を与えたとして、慰謝料などの損害賠償金の支払いを命じられる可能性があります。
もっとも、不当解雇と判断されて慰謝料の支払いを命じられるのは、バックペイの支払いによっても癒えることのないほど重大な精神的苦痛を負ったと認められる場合に限定されるものと考えられます。
実際、裁判例でも、解雇について第三者に公開し、社員の名誉を著しく毀損したようなケースや、妊娠や産休・育休の取得をきっかけに解雇を行ったケースなどにおいて、慰謝料の支払いを命じています。
不当解雇と判断される7つのケース
不当解雇と判断されるケースとして、以下が挙げられます。
- 能力不足、成績不良を理由とするケース
- 協調性の欠如を理由とするケース
- 頻繁な遅刻や欠勤を理由とするケース
- 業務命令に従わないことを理由とするケース
- 転勤の拒否を理由とするケース
- パワハラ行為を理由とするケース
- 経営難による人員整理を理由とするケース
ケースごとにどのような事由が不当解雇となるのか、見ていきましょう。
能力不足、成績不良を理由とするケース
(不当解雇に当たるケース)
- 新卒や未経験入社の社員について、適切な指導をせずに能力不足を理由に解雇する
- 経験者採用の社員について、不適切な成績評価により解雇する
新卒や未経験入社の社員は、社内の様々な仕事を経験しながらキャリアを形成することが予定されています。
そのため、期待に反して成績不振だったとしても、まずは指導や研修、業務の変更などによって改善の機会を与えることが必要です。
十分な指導をせずに、成績が悪いからといって解雇すると、不当解雇となるおそれがあります。
一方、経験者採用の社員は、職務経験を買われて、役職・業務を特定した即戦力として採用されるケースが多いです。そのため、期待された能力がないことが判明した場合は、指導が十分でなくても、その他一般の社員よりも解雇が認められやすいと判断されます。
もっとも、不適切な成績評価により解雇した場合は、不当解雇にあたるためご注意ください。
協調性の欠如を理由とするケース
(不当解雇に当たるケース)
- 協調性がないことについて、会社が適切な指導や人間関係の調整、配置転換などを行っていない
- トラブルの主な原因が会社側にある
協調性のなさを理由に解雇するには、周りの社員と相性が良くないという状況だけでは不十分です。
さらに、会社の業務にも悪影響を与えていることが必要です。
例えば、上司や同僚に反抗的な態度を取り、業務上の指示にも従わないといったケースが挙げられます。
特に、協調性が必須な業務や、少人数の会社である等の理由で協調性が重要な職場環境である場合は、より解雇が正当と認められやすくなるでしょう。
また、これらの事情に加えて、指導や人間関係の調整、より相性の合う部署を探すための配置転換などを行い、改善のチャンスを与えることも必要です。
これらを行っても改善が見られない場合は、正当な解雇となる可能性が高くなります。
一方、これらの指導等を行わずに解雇した場合は、不当解雇となる可能性があります。
頻繁な遅刻や欠勤を理由とするケース
(不当解雇に当たるケース)
- 遅刻・欠勤の回数や頻度が少ない
- 会社が遅刻・欠勤に対し何も指導せず、いきなり解雇する
- 他の勤怠不良者との処分のバランスがとれていない
- 遅刻・欠勤の理由が会社側にある(パワハラや長時間労働など)
社員が正当な理由なく、頻繁に遅刻や欠勤を繰り返し、会社が注意指導や懲戒処分など、改善の機会を与えたにもかかわらず、改められない場合は、正当な解雇と判断される可能性が高くなります。
一方、これらの事情がないケースでは、不当解雇と判断される可能性が高いといえます。不当解雇か否かの判断にあたっては、遅刻・欠勤の頻度や回数、遅刻・欠勤した理由、反省の有無、普段の勤務状況、他の勤怠不良者に対する処分とのバランスなどが、考慮されます。
業務命令に従わないことを理由とするケース
(不当解雇に当たるケース)
- 業務命令の趣旨を説明し、理解を得る努力を行っておらず、十分な説明をすれば業務命令に応じる可能性がある
- 業務命令自体が不合理である、またはパワハラに当たる可能性が高い
上司等からの正当な業務命令を度々拒否し、指導や懲戒等を行うなど改善のチャンスを与えたにもかかわらず、今後も従わない意向を明らかにするなど、改善が見込めない場合は、正当な解雇と認められる可能性が高くなります。
一方、業務命令が、退職強要や嫌がらせ目的のものであったり、業務に必要のない指示であったりする場合は、業務命令権濫用として不当解雇となる可能性があります。
また、1~2回の業務命令拒否や、まだ社員側に改善の余地がある場合も、不当解雇となる可能性があるため注意が必要です。
転勤の拒否を理由とするケース
(不当解雇に当たるケース)
- 社員に著しい不利益を与える転勤を命じる
- 業務上の必要がなく、退職に追い込むなど不当な目的で転勤を命じる
- 就業規則等に勤務場所や仕事内容を限定して働くことが定められている
転勤の拒否を理由に解雇するには、前提として、社員に転勤を命じる権利があることが、就業規則や雇用契約書に明記されていることが必要です。
その上で、転勤命令が業務上避けられず、不当な目的もなく、社員に与える不利益が通常程度であることが求められます。
さらに、単身赴任手当や社宅の提供など、十分な配慮を尽くすことも重要です。
これらを行ったにもかかわらず、転勤を拒否された場合は、正当な解雇となる可能性が高いといえます。
一方、これらの要件を満たさない場合は、不当解雇となるリスクが高いでしょう。
実際、子供が重度なアトピーで育児負担が大きいケースや、家族が要介護認定を受けているケースで、転勤命令拒否による解雇を無効とした裁判例が存在します。
パワハラ行為を理由とするケース
(不当解雇に当たるケース)
- パワハラについて過去に指導を受けたことがない社員を、最初のパワハラ発覚後にいきなり解雇する
- パワハラではなく正当な指導と認められる
- 内部調査を行ったが、最終的にパワハラがあったかどうか不明である
パワハラを理由とする解雇については、パワハラの内容や程度、パワハラによって生じた被害従業員の結果、パワハラについて過去の指導の有無等が、正当な解雇となるための要素と考えられます。
つまり、パワハラを止めるよう注意指導し、場合によっては、懲戒(降格や減給など)を行うなど改善の機会を与えたという事情が必要になります。
仮に、会社がパワハラを知りながら、何も指導せずに放置していたり、最初のパワハラ判明後にいきなり解雇したりする場合や、パワハラにより重大な結果が生じていないにもかかわらずいきなり解雇するような場合は、不当解雇となる可能性があるためご注意ください。
経営難による人員整理を理由とするケース
(不当解雇に当たるケース)
- 人員削減を理由に解雇しながら、一方で新規採用をしている
- 社員や労働組合との協議を十分に行わずに解雇する
経営難に陥ったことによる人員整理を理由とする解雇の正当性は、以下の4点を考慮して判断されることになります。
- 人員整理の経営上の必要性
- 解雇回避努力義務の履行(新規採用の中止、派遣社員やパート等の削減、希望退職募集、配置転換、賃金の引き下げなど)
- 人選の合理性(好き嫌いではなく、勤務成績など合理的な基準で解雇対象者を選んだこと)
- 手続きの妥当性(解雇対象者や労働組合と十分に協議を行ったこと)
上記の要件を満たした場合は、正当な解雇と認められる可能性は高くなります。一方、社員をリストラする一方で、同時に求人広告を出していたり、特定の従業員を狙い撃ちして解雇したりするケースでは、不当解雇となる可能性が高いと考えられます。
解雇が正当であると認められるためのポイント
解雇が正当であると認められるためには、まず就業規則に解雇事由を明記しておき、このようなケースに当たると解雇の対象となり得ることを、社員に周知しておくことが必要です。
その上で、適正な手続きを経て解雇することが求められます。
解雇事由を就業規則に定める必要性
労働基準法は、就業規則に解雇事由を定めなければならないことを義務付けています。そのため、就業規則に解雇事由をはっきりと明記しておくことが必要です。
なお、懲戒解雇を行う場合は、就業規則に定めがない懲戒事由により、解雇することはできません。
一方、普通解雇は、就業規則に定めがない事由でも可能ですが、ケガや病気による労働能力の喪失など、雇用契約上の債務不履行以外の理由では解雇が難しく、ただでさえハードルの高い解雇がより困難となります。
また、社員の解雇への事前の予測可能性を高めるためにも、就業規則に解雇事由を明記しておくのが望ましいでしょう。
解雇予告・解雇予告手当などの適正な手続きを行う
解雇に正当な理由が認められた場合であっても、適正な手続きを経なければ、不当解雇と判断されるおそれがあります。まず、適正な手続きとして重要なのが、解雇予告・解雇予告手当の支払いです。
解雇する場合は、少なくとも30日前までに解雇予告をするか、平均賃金30日分の賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。
解雇予告期間が30日に満たないのであれば、その日数分だけ解雇予告手当を支払うことで代えることもできます。
また、その他の適正手続きとして、社員に対し注意指導、配置転換、懲戒処分といった改善の機会を与えること、弁明の機会を与えること、退職勧奨を行うこと、解雇理由書や解雇通知書を作成するといった手続きを行うことも重要です。
解雇の正当性について不安なことがあれば弁護士にご相談ください
解雇を行うには一定のルールがあり、ルールに違反した場合は「不当解雇」となります。不当に解雇してしまった場合は、会社の責任が非常に重くなるため、深く考えずに解雇することは大変危険です。
解雇が正当であるかどうかは、具体的にどのような経緯で解雇を言い渡したのか、就業規則や雇用契約書の内容、具体的な本人とのやり取りなどを、総合的に判断する必要があります。
正当な解雇にあたるかどうかは、法的な知識がなければ、判断するのが難しいものです。
「正当に解雇できるのか?」と疑問に思われた場合は、お早めに弁護士に相談いただくことをお勧めします。
この記事の監修

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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