学校で子供がいじめを受けた場合、加害児童・生徒やその保護者、学校、教師などに損害賠償を請求できる場合があります。
ただし、いじめを受けた子供の苦しみは計り知れないものであり、ケアをしながら損害賠償を請求するのは保護者の負担が大きくなってしまうため、弁護士への相談をおすすめしています。
この記事では、いじめで損害賠償を請求すべきケースや請求できる相手、何が請求できるのかなど、いじめの損害賠償請求について詳しく解説しています。ぜひご参考ください。
目次
学校でいじめの被害に遭った場合、加害者側や学校側に損害賠償を請求できる可能性があります。
なぜなら、いじめは、民法上の不法行為(民法第709条)に基づく権利侵害行為に該当する可能性があるからです。
法的観点からも、いじめは許される行為ではありません。
いじめの被害を受けた場合は、あきらめず損害賠償請求を検討し、弁護士にご相談ください。
次のようないじめは、いじめ防止対策推進法に定義される重大事態に当たるため、損害賠償請求をすべきでしょう。
もっとも、どのようないじめであっても、被害を受けた児童・生徒が精神的苦痛を感じていれば損害賠償(慰謝料)を請求できます。
いじめ重大事態の具体例
①児童・生徒が自殺を図った場合(軽傷で済んだ場合も含む)
②児童・生徒が心身に重大な被害を負った場合
(例)
③児童・生徒の金品などに重大な被害が生じた場合
(例)
④いじめによって長期の欠席や転校を余儀なくされた場合
受けたいじめが傷害、恐喝、器物損壊など犯罪に当たる場合は、警察に被害届を出したり、刑事告訴をすることも検討しましょう。
いじめを受けた児童・生徒の精神的ショックは大きなものとなるでしょう。
いじめの被害は、次のような相手に損害賠償を請求できる可能性があります。
では、それぞれどのように損害賠償を請求するのか、詳しく見ていきましょう。
民法第709条により、いじめの損害賠償責任は加害者本人が負うのが基本です。
ただし、加害者本人が自分の行った行為の責任について理解できていない場合には、責任能力がないと判断され、加害者本人には損害賠償を請求できません(民法第712条)。
「責任能力」があるかどうかについて、明確な定めはありませんが、おおむね10歳~12歳で備わるものと考えられています。
いじめの加害者に責任能力が備わっていないと判断される場合は、加害者の保護者に対して監督義務者の責任に基づく損害賠償を請求できます(民法第714条1項)。
もっとも、例え加害者本人に責任能力が備わっていたとしても、未成年である以上、損害賠償を自分で支払うのは困難であることが多いため、結果的に加害者の保護者が損害賠償を支払うことになるでしょう。
学校は、児童・生徒が心身ともに安心かつ健全な学校生活を送れるよう、安全配慮義務を追っています。
そのため、教師がいじめに加担した場合や、いじめを知りながら放置した場合には、学校の設置者に安全配慮義務違反として損害賠償の請求が可能です。
ただし、学校側に損害賠償を求める場合は、公立学校と私立学校で請求先が異なるため注意が必要です。
公立学校 ➡学校の設置者(国・都道府県・地方自治体など)
※教師(公務員)の個人責任が否定されているため、教師に対する損害賠償請求はできません
私立学校 ➡学校法人、教師 など
「損害賠償」と一口に言っても、どのようなものを請求できるかについては、いじめの状況など、個別事情によって異なりますが、主に次のような項目を請求できる場合があります。
では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
慰謝料とは、精神的苦痛に対する補償です。
加害者によるいじめにより精神的苦痛を被った場合には、その賠償として加害者やその保護者に慰謝料を請求できます。
また、「学校に相談しても対応してくれなかった」「十分な再発防止策講じず、いじめが悪化した」というような場合には、学校側に対しても慰謝料の請求が可能です。
いじめの慰謝料は個別事情によって相場が異なるため、算定が容易ではありません。
実際に慰謝料を請求する際は、いじめの様態や頻度、加害者等と被害者の関係などから判断されます。
いじめの具体的な慰謝料相場については、一度弁護士へ相談されることをおすすめします。
暴力によるいじめで怪我を負った場合や、精神に不調をきたし通院の必要がある場合には、治療費を加害者側や学校側に損害賠償として請求できます。
また、いじめによって負った怪我が後遺症として残った場合には逸失利益(※)の請求も可能であり、損害賠償金が高額になるケースもあります。
(※)怪我や後遺症が生じなかった場合、本来得られるはずだった収入
その他にも、怪我や通院に関係する費用として、次のような項目を請求できる可能性があります。
悪質ないじめの結果、同じ学校に通うことが難しくなり、転校や転居を余儀なくされるケースもあるでしょう。
こうした転校・転居に要した費用についても損害賠償として請求できる場合があります。
ただし、転居・転校費用が認められるには、「いじめによって転校を余儀なくされた」という、いじめと転校との間の相当因果関係を証明する必要があります。
そのため、相手がいじめを認めず裁判などに発展した場合は、第三者から見ていじめがあったと分かる証拠が必要となるでしょう。
いじめ被害による損害賠償請求は、弁護士へ依頼される方も多いでしょう。
弁護士への依頼に要する弁護士費用は、どのような方法で解決に至ったかによって、相手に費用の一部を請求できる場合があります。
示談交渉により損害賠償請求をして受け取った場合
示談交渉で解決した場合は、基本的に弁護士費用を相手に請求できません。
これは、示談交渉は当事者の合意によるものであり、弁護士に依頼するかどうかは被害者の自由意思によるものであるためです。
民事訴訟で損害賠償請求をし、勝訴した場合
訴訟は専門知識を要するため、弁護士への依頼が一般的と考えられています。
そのため、裁判所は、認定した金額の1割を加害者が負担すべき弁護士費用として認めてくれます。
いじめの損害賠償の相場はケースバイケースであり、いじめの内容や証拠の有無、怪我の程度など、個別事情を考慮して決めることになります。
例えば、いじめによる損害が少ない場合では、慰謝料の相場は0~20万円程度となるでしょう。
一方、大きな怪我を負ったり、転校を余儀なくされたり、重大な損害を負った場合は、数十万~数百万円の慰謝料が認められる可能性もあります。
いじめの損害賠償請求で考慮される要素
どのくらいの損害賠償金を請求できるか、具体的な金額については、一度弁護士に相談されることをおすすめします。
小学校の清掃中に、原告の同級生であるAが原告を雑巾でたたいたところ、雑巾が原告の右目に入り、原告が右眼の隅角離断等の傷害を負ったことにつき、原告がAとAの両親(被告ら)に対し損害賠償を求めた事案です。
争点原告は、本件以前にもAから日常的に暴力を受けており、被告らの、Aの親権者としての子供への監督義務は、学校での生活関係を含む子供の生活全般に及ぶので、親権者である被告らの監督責任は免責されないと主張しました。
これに対し、被告らは、夫婦で協力して家庭内でのしつけを行っており、Aはこれまで学校における生活態度も良好であり、他の第三者に対しても暴力を振るうなどの問題は一度も起こしたことはなく、被告らには本件事故を予測することは不可能であった。
よって、監督義務違反はないと反論しました。
裁判所は、以下の点を考慮して、被告らに損害賠償として153万8122円の支払いを命じました。
【平成14年(ワ)第20276号 平成16年5月18日 東京地方裁判所 判決】
被告が設置する市内の中学校に在学していた原告が、在学中にいじめを受け、神経症、心因性難聴などが生じたことに関し、学校側に安全配慮義務違反があったとして、学校の設置者であり教職員の雇用者である被告に対して損害賠償を求めた事案です。
争点裁判所は、以下の点から学校側に安全配慮義務違反があったことを認め、損害賠償として124万5042円の支払いを命じました。
【平成19年(ワ)第4220号 平成21年6月5日 横浜地方裁判所 判決】
いじめの損害賠償を請求する主な流れは以下のとおりです。
では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
まずは、加害者側や学校側に対して、損害賠償額をいくら請求するか検討します。
いじめによって負った精神的苦痛(慰謝料)や、物を壊された場合にはその代金、怪我をした場合には治療費や通院費、後遺症が残った場合には逸失利益などを含めて「損害賠償額」を計算します。
ただし、どの項目をどのくらい請求すれば良いのかといった判断は難しいため、弁護士への相談をおすすめします。
請求する損害賠償額が決まったら、相手に内容証明郵便を送付して賠償額を請求します。
このとき、いじめを証明する証拠を一緒に送付するとよいでしょう。
相手が内容証明郵便に応じれば、示談交渉が開始されます。示談交渉は、通常、加害者側と被害者側で行われますが、必ずしも対面で行わなければならないわけではありません。
また、示談交渉は損害賠償額の交渉だけでなく、相手に謝罪を求めることも可能です。
相手がいじめを認め、損害賠償額の支払いを承諾したら、示談成立となります。このとき、後から「言った・言わない」の争いを避けるためにも、取り決めた内容を記載した示談書や合意書などの書面を作成しておきましょう。
示談交渉で折り合いがつかない場合は、最終的に民事訴訟を提起することになります。
民事訴訟とは、当事者間の主張やその主張を裏付ける証拠をもとに、裁判官が判決を下す手続きです。
具体的には、以下のような事実があることを、証拠によって立証する必要があります。
いじめの損害賠償請求に関する民事訴訟は、解決までに1年を超えるようなケースも少なくありません。
法的観点と専門知識を要する手続きですので、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
いじめの被害については、迅速な対応が求められます。そのため、いじめの損害賠償請求については、いじめ問題に強い弁護士へ相談しましょう。
いじめの損害賠償請求について、弁護士に相談・依頼するメリットには、以下のようなものがあります。
このほかにも、個別事情に応じて様々なサポートが可能です。
いじめの問題はおひとりで悩まず、まずは弁護士にご相談ください。
民事訴訟において、加害者側や学校側に損害賠償の支払いを認定してもらうためには、いじめを裏付ける客観的な証拠が必要です。
証拠がなければ、不法行為(いじめ)や不法行為と損害の因果関係を認めてもらえないおそれもあります。
損害賠償請求の前に、できる限りの証拠を集めておきましょう。
いじめの証拠例
いじめに関する損害賠償請求権には、次のような時効があります。
いじめの損害賠償請求をお考えの場合は、時効が完成する前に早めの行動が大切です。
大切なお子様が学校でいじめの被害に遭われている場合には、加害者側や学校側に損害賠償を請求することができます。
ただし、いじめの損害賠償額は、個別事情によって相場も大きく変動します。
そのため、「いくら請求すればいいのか」「どのように請求すればいいのか」と迷われることも多いでしょう。
いじめ問題の損害賠償請求については、私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
学校問題に詳しい弁護士がご相談者様に寄り添い、損害賠償請求についてサポートしていきます。
適切な損害賠償額を算出するだけでなく、示談交渉や民事訴訟の対応を任せることができ、早期解決が期待できます。
いじめの被害について、損害賠償請求をお考えの場合は、まずは私たちにお話をお聞かせください。
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監修 : 弁護士 谷川 聖治 / 弁護士法人ALG&Associates執行役員
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愛知県弁護士会所属。私たちは、弁護士82名、スタッフ171名(司法書士1名を含む)を擁し(※2021年6月末現在)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。
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