学校で子供がいじめの被害を受けた場合、加害児童・生徒やその保護者、学校の設置者などに対し、慰謝料を請求できる可能性があります。
慰謝料を請求する方法には、示談交渉や民事調停、民事裁判などがあります。
長期戦になるケースも多くあるため、十分な準備が必要です。
この記事では、いじめの慰謝料について、請求できる相手や慰謝料相場など、詳しく解説していきます。ぜひご参考ください。
目次
学校でのいじめは、民法上の不法行為(民法第709条)に基づく権利侵害行為に該当する可能性があり、慰謝料など損害賠償請求ができる場合があります。
(条文の引用)
◆民法第709条(不法行為による損害賠償請求)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
そもそも、慰謝料とは、他人の行為によって精神的苦痛を負った場合に、その苦痛を慰める目的で支払われる賠償金です。
いじめの被害は心の傷だけでなく、身体にも傷を負う場合があり、いじめの状況によっては慰謝料以外にも損害賠償を請求できる場合があります。
いじめによって慰謝料の請求が認められた裁判例をご紹介します。
事案の概要
本件は、原告が中学校及び高等学校に在学中、被告生徒らからいじめや授業妨害を受けて、転校を余儀なくされたことについて、被告らに慰謝料を求めた事案です。
原告は、中学2年生から約1年間、複数の生徒から集中的に、ものまねを休憩中のみならず授業中も求められる、嫌がっているのにあだ名で呼ばれてからかわれるなどのいじめを受けていました。
争点
裁判所の判断
裁判所は、以下の点を考慮し、被告らが連帯して50万円の慰謝料を支払うよう命じました。
【令和2年(ワ)第133号 令和5年4月19日判決 山口地方裁判所】
いじめの内容によっては、慰謝料以外にも次のような損害賠償金を請求できる場合があります。
いじめの被害を受けた本人の精神的苦痛は計り知れないものです。
状況によっては通院が必要になったり、転校を余儀なくされるケースもあります。
学校でいじめを受けた場合は、加害者側や学校側に慰謝料などの責任を追及できる可能性があります。
いじめ加害者は、被害者に対していじめ(不法行為)に基づく損害賠償責任を負います。そのため、加害者本人に慰謝料を請求することが可能です。
ただし、子供のいじめ問題では次のような問題が生じる可能性があります。
つまり、加害者本人に責任能力が備わっていない場合には、加害者の保護者など「監督義務者」に慰謝料を請求できます。
学校は、児童・生徒が心身ともに安全な状態で安心して学べる環境を整える安全配慮義務を負っています。
したがって、次のような場合では、安全配慮義務違反として慰謝料を請求できる可能性があります。
また、教師がいじめに加担していた場合や、いじめを放置した場合は、学校の設置者も被害者に対して損害賠償責任を負います(国家賠償法第1条1項、民法第715条1項)。
学校の設置者は、国公立・公立学校と私立学校によって異なります。
以下で詳しく見ていきましょう。
公立学校でのいじめは国家賠償法をもとに損害賠償請求をします。
(条文の引用)
◆国家賠償法第1条1項
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
国家賠償責任を負うのは、次のような公立学校を設置した国または公共団体です。
学校内でのいじめに対する損害賠償の請求先
なお、国立・公立の学校は、教師(公務員)の個人責任が否定されており、教師に対する損害賠償請求はできません。
私立学校でのいじめは民法をもとに損害賠償請求をします。
(条文の引用)
◆民法第715条1項
ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りではない。
したがって、私立学校の場合は学校法人など学校設置者に損害賠償を請求します。
また、私立であれば、いじめに加担しまたは監督義務を怠った教師個人に対しても損害賠償請求が可能です(民法第709条)。
いじめの慰謝料はケースバイケースであり、いじめによる損害が少ない場合の慰謝料相場は0~20万円程度となることもあれば、重大な損害を受けた場合は数十万~数百万円程度となることもあります。
いじめの慰謝料は個別事情によって相場が異なるため、算定が容易ではありません。
例えば、怪我をしたケースでは「どのような怪我だったか」「通院に要した期間」などを踏まえて算出し、不登校になった場合では、その期間も考慮する必要があります。
実際に慰謝料を請求する際は、次のような要素を加味して判断されます。
いじめの慰謝料を請求したい場合は、まずは一度弁護士に相談して相場を確認すると良いでしょう。
いじめによって被害児童・生徒が亡くなってしまった場合の慰謝料相場は、2000万~2500万円程度となるでしょう(※本人分と遺族分を含む)。
いじめの被害によって被害児童・生徒が死亡した場合、被害者だけでなく遺族も計り知れない精神的苦痛を負うことになり、遺族にも近親者慰謝料の請求が認められています。
なお、いじめにより死亡事故が発生した場合は、慰謝料だけでなく、次のような費用も損害賠償として請求できることがあります。
いじめにより被害者が亡くなってしまうことは、「いじめ重大事態」に当てはまります。
子供を亡くした精神的ショックに対してしっかりと向き合ってもらうためにも、弁護士へご相談ください。
ここからは、具体的にいじめの加害者や学校側に慰謝料を請求する方法について解説していきます。
慰謝料を請求するための方法と流れは、おおまかに次のようになります。
【事前準備】加害者を特定して証拠を集める
なお、いじめが犯罪行為に該当する悪質ないじめの場合は、刑事告訴も検討できます。
まず、事前準備として加害者を特定する必要があります。
子供にいじめの状況や加害者について聞いたり、学校に調査を依頼してみましょう。
その際、子供を責めず味方であることを伝えること、学校へは冷静に話をすることに注意しましょう。
加害者が特定できたら、次のようないじめの証拠を揃えます。
証拠を集めるときは、加害者にバレないようにすることが大切です。
加害者にいじめの証拠を集めていることを知られてしまうと、故意に証拠を隠されてしまうおそれがあります。
証拠がない場合は、学校や弁護士に相談しましょう。
加害者側や学校側に対して、法的責任を追及するために内容証明郵便を送付します。
内容証明郵便は、郵便局が「いつ・誰が・誰に・どのような内容」を送ったかを証明する特別な郵便です。
内容証明郵便を出すことで、慰謝料請求を行ったという明確な証拠になり、「言った・言わない」のトラブルを避けることができます。
内容証明郵便にはいじめを直ちに止めることや、いじめによって受けた損害の賠償(慰謝料)などについて記載します。
弁護士名義で内容証明郵便を送ることで心理的プレッシャーを与えることができ、加害者側が早期に対応する可能性が高まります。
ただし、内容証明郵便には法的効力はありません。加害者側が内容証明郵便の内容に従わなかったとしても、法的責任を問えるわけではないことに留意しましょう。
加害者側が内容証明郵便に応じれば、話し合いの場が設けられ示談交渉が始まります。
示談交渉では、慰謝料の金額や支払い方法、今後のいじめ防止対策などについて話し合います。
慰謝料の具体的な金額については、いじめの態様など個別事情に応じて、過去の判例などを参考にするケースが多いです。
示談交渉の内容について双方が合意できれば、その内容を示談書や和解合意書などの書面にまとめて締結します。
後から「言った・言わない」のトラブルや、慰謝料が支払われない場合に備えて、書面は必ず作成するようにしましょう。
示談交渉で折り合いが付かない場合は、裁判所に民事調停を申し立てます。
民事調停は、当事者間に調停委員が介入し、話し合いによって合意を目指す手続きです。
調停委員が当事者双方から交互に主張を聞き取り、双方が納得できる解決策を探りながら合意を目指します。
調停が成立すれば、その内容をまとめた調停調書が作成されます。
被害者側が有利に調停を進めるためには、「加害者から受けたいじめが悪質であり不法行為に該当する」と調停委員に分かってもらい、味方につけることがポイントです。
そのためには、法的な観点から説得力のある主張をする必要があるため、弁護士に依頼して代理人として主張してもらうことをおすすめします。
民事調停が不成立となった場合は、最終的に裁判を起こして強制的に解決を図ります。
裁判では、当事者間の主張やその主張を裏付ける証拠などを踏まえて裁判官が判決を下します。
具体的には、証拠をもとに以下のような事実があることを立証していきます。
裁判で慰謝料請求が認められるためには、いじめを裏付ける証拠をもとに、法的観点から主張を行うことが必要不可欠です。
専門的な手続きや対応が求められるため、弁護士にご相談ください。
いじめの被害については迅速な対応が子供の健全な学校生活につながります。
そのため、いじめの早期解決や再発防止のためにも、弁護士にご相談ください。
いじめ被害について弁護士に依頼することは、以下のようなメリットがあります。
子供のいじめを知った際には、1日でも早く誰かに相談することが大切です。
おひとりで悩まず、まずは一度弁護士にご相談ください。
いじめの弁護士相談については、以下のページでも詳しく解説しています。ご参考ください。
いじめ被害は弁護士に相談すべき?
いじめを受けた被害児童・生徒は、加害者側や学校側に慰謝料を請求できます。
しかし、いじめの慰謝料はその態様によって相場が異なるため、適正な金額を請求することは難しいでしょう。
また、被害者側が直接加害者側や学校側と争うことは、感情的になってしまい話し合いが進まないだけでなく、話が拗れてしまうおそれがあります。
いじめの慰謝料請求については、私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
学校問題に詳しい弁護士が、ご相談者様に寄り添い丁寧にヒアリングし、適切な慰謝料を請求します。
また、加害者側や学校側との交渉を任せられるため、スムーズな解決が期待できるでしょう。
大切なお子様が安心して学校生活を送れるようにするためにも、お早めに弁護士への相談をご検討ください。
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※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。 ※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。
監修 : 弁護士 谷川 聖治 / 弁護士法人ALG&Associates執行役員
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:41560)
愛知県弁護士会所属。私たちは、弁護士82名、スタッフ171名(司法書士1名を含む)を擁し(※2021年6月末現在)、東京、札幌、宇都宮、埼玉、千葉、横浜、名古屋、神戸、姫路、大阪、広島、福岡、タイの13拠点を構え、全国のお客様のリーガルニーズに迅速に応対することを可能としております。
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