監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
赤ちゃんは、通常、出産の際に体を回転させながら産道を通って生まれてきます。
しかし、何らかの理由でこの回転がうまくいかず、出産がスムーズに進まないことがあります。このような状態は「回旋異常」と呼ばれ、分娩異常の一つです。
回旋異常が起こると、分娩に時間がかかるだけでなく、吸引分娩や帝王切開などの医療処置が必要になるケースもあります。
この記事では、赤ちゃんの回旋異常について、原因や検査方法、対処法等について解説します。
目次
回旋異常とは、赤ちゃんが頭の向きをうまく変えられず、出産が進まなくなってしまうことです。
出産の段階に応じて、回旋異常には次のように様々な種類があります。
胎勢の異常
赤ちゃんが顎を引いており、骨盤の入り口に後頭部から入るのが正常とされます。しかし、前頭部から入ってしまう「前頭位」、額から入ってしまう「額位」、顔から入ってしまう「顔位」となってしまうこと等があります。
顔の向きの異常
赤ちゃんは回旋して、分娩の直前では、顔が母親の背中側を向くのが正常とされます。しかし、顔が母親のお腹側を向いてしまう「後方後頭位」となってしまうこと等があります。
児頭の骨盤への進入の異常
母親の骨盤の入り口は横長になっており、出口は縦長になっていますが、赤ちゃんの頭が入り口で縦向きになってしまう「高在縦定位」や、出口で横向きになってしまう「低在横定位」が発生すること等があります。
赤ちゃんの頭の血腫については、以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。
回旋異常の原因として、胎児側の原因と、母体側の原因が挙げられます。
【胎児側の原因】
その他にも、特に原因なく胎児が動き、間違った体勢になることなどが原因として挙げられます。
【母体側の原因】
その他にも、出産時における直腸・膀胱の充満などが原因として考えられます。
赤ちゃんの回旋異常があると、頭が骨盤内にうまくはまらず、分娩が進みにくくなります。
その結果、微弱陣痛や分娩が長引く「遷延分娩」、分娩が途中で止まる「分娩停止」などが起こるケースがあります。
これらの症状が見られると、吸引分娩や鉗子分娩、帝王切開などの医療的な処置が必要になる可能性が高まります。
回旋異常が疑われる場合、まず内診や超音波検査によって、赤ちゃんの頭の向きや首の角度を確認します。
これにより、胎児が正しい姿勢で産道に入っているかを判断します。
さらに、母体の骨盤が狭すぎないかを調べるために、必要に応じて骨盤のX線検査が行われることもあります。
これらの検査結果をもとに、分娩の進行状況や安全性を総合的に判断し、適切な出産方法を選択することが重要です。
回旋異常が発生しても、骨盤に十分な広さがあれば経腟分娩できる可能性があります。
また、母親が四つん這いの姿勢になると、赤ちゃんの身体が回旋して後方後頭位が改善されるケースがあるなど、回旋異常がなくなることもあります。
さらに、陣痛促進剤の投与や、母親の苦痛を和らげるために硬膜外麻酔を行う場合等もあります。
それでも出産に至らないときには、母子ともに命の危険があるため、以下のような処置を行うことがあります。
会陰切開
会陰切開とは、膣と肛門の間の部分を切開する方法です。会陰切開する目的として、出産しやすくすることや赤ちゃんの負担を減らすこと、会陰が裂ける「会陰裂傷」を防止すること等が挙げられます。
吸引分娩
吸引分娩とは、赤ちゃんの頭に吸引カップを装着して引っ張り出す方法です。
鉗子分娩
鉗子分娩とは、赤ちゃんの頭を鉗子というトングのような器具で挟み、引っ張り出す方法です。
帝王切開
帝王切開とは、母親の下腹部を切開して赤ちゃんを取り出す出産方法です。児頭が十分に下がらない場合などに行われます。
回旋異常に対する処置では、医療過誤が発生する可能性があります。
回旋異常への処置で発生しやすいと考えられる医療過誤として、主に以下のようなものが考えられます。
これらの判断ミスや処置の不適切さが原因で、母子に重大な影響が及ぶ可能性があるため、医療機関には慎重な対応が求められます。
出産時に赤ちゃんの体がうまく回転できない「回旋異常」は、分娩が進まなくなる原因となり、医療的な対応が求められる場面もあります。
今回は、回旋異常に関する医療過誤が争われた裁判例をご紹介します。
【事件番号 平24(ワ)212号、山口地方裁判所 平成27年7月8日判決】
(事案の概要)
この裁判では、赤ちゃんの頭がうまく下降せず、吸引分娩・鉗子分娩・胎児圧出法など複数の処置を試みても出産できなかったため、他院に転送されて帝王切開が行われました。しかし、赤ちゃんは頭部の出血により死亡してしまいました。
(裁判で争われたポイント)
医院側は「午後1時に全開大」と主張しましたが、記録がなく、裁判所は「午後2時」と認定しました。
医院側は「低位」と主張しましたが、診療録の記載不足や供述の矛盾から、実際は「高位」であったと判断されました。
医院側は吸引2回・鉗子1回と主張しましたが、カルテの訂正跡などから、吸引2回・鉗子3回と認定されました。
(裁判所の判断と結論)
裁判所は、医師が児頭の位置を十分に確認せずに処置を行った過失があると認定し、赤ちゃんの死亡との因果関係を認めました。その結果、死亡逸失利益・慰謝料・弁護士費用などを含め、約5,429万円の損害賠償請求が認容されました。
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