痴漢は何罪に問われるのか?刑罰や逮捕後の流れ、対処法を解説
痴漢の容疑で逮捕されてしまった場合は、「迷惑防止条例違反」や「不同意わいせつ罪」に問われるおそれがあります。痴漢事件は、その場で取り押さえられて身柄を拘束される現行犯逮捕が主流です。そのため、痴漢事件を起こしてしまった場合は、早急に適切な対応を行う必要があります。
本記事は、痴漢に着目して、痴漢が何罪に問われる可能性があるのか、痴漢の刑罰と併せて詳しく解説していきます。痴漢事件で逮捕された後の流れや対処法についても解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
痴漢は何罪に問われるのか?
痴漢は、行為の態様によって以下の罪に問われる可能性があります。
- 迷惑防止条例違反
- 不同意わいせつ罪(2023年7月13日以降に発生した事件の場合)
- 強制わいせつ罪(2023年7月12日以前に発生した事件の場合)
どのように痴漢をしたのかで問われる罪が異なるため、注意が必要です。
以下では、それぞれの罪について詳しく解説していきます。
迷惑防止条例違反
「衣服の上から相手の身体に触れる行為」は、迷惑防止条例違反に問われる可能性が高いです。迷惑防止条例とは、日本の各都道府県が公共の場での迷惑行為や痴漢行為などの不適切な行動を規制する条例のことをいいます。この条例に違反すると、迷惑防止条例違反が成立し、定められた刑罰が科せられます。刑罰の内容は、各都道府県によって若干異なりますが、ほとんどが東京都の条例と同じです。
<痴漢の刑罰(東京都の迷惑防止条例の場合)>
「6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」
迷惑防止条例違反に問われるのは、一般的に公共の場で行われた軽微な痴漢行為で、具体的には以下のような行為が挙げられます。反対に、悪質または強制的な痴漢行為は、刑法が適用されます。
<対象行為>
- 電車や駅などで、衣服の上から他人の身体に触れる行為
- 路上で背後から他人の身体に触れる行為
不同意わいせつ罪
「衣服の中から相手の身体に触れる行為」は、不同意わいせつ罪に問われる可能性があります。不同意わいせつ罪とは、法改正によって強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪が統合されて新たに施行された犯罪です。文字通り、被害者が同意しない意思を形成、表明、全うできない状態(=不同意)でわいせつ行為をした場合に成立します。不同意わいせつ罪は、迷惑防止条例違反よりも重い刑罰が刑法で定められています。
<不同意わいせつ罪の刑罰>
「6ヶ月以上10年以下の拘禁刑」
痴漢行為が公共の場で行われても、衣服の中から相手の身体に直接触れるなどの態様が悪質である場合は、不同意わいせつ罪に問われる可能性が高いです。その他にも、以下のような行為が処罰の対象となります。
<対象行為>
- 電車内で相手の下着の中に手を入れて性器を触る
- 痴漢行為を計画的に繰り返す
強制わいせつ罪
強制わいせつ罪は、法改正前の2023年7月12日までに起こった悪質性の高い痴漢事件に適用される可能性があります。従来の強制わいせつ罪は、以下のような場合に成立すると定められていました。
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
しかし、「暴行又は脅迫」を用いられていなくても、被害者が拒否できず不本意なわいせつ行為を受けるケースが数多くあったため、不同意わいせつ罪に改正されました。従来の強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪が法改正で不同意わいせつ罪に改められたのは、処罰範囲を拡大・成立要件を明確化し、より柔軟に対応できるようにするためです。
痴漢事件は現行犯逮捕されるケースが多い
痴漢事件は、電車やバスなどの公共の場で発生しやすく、被害者がその場で反応することで現行犯逮捕に至るケースが多く見られます。
電車やバスなどの公共交通機関では、狭い空間・近距離に人が集まるため、被害者本人だけでなく他の乗客も痴漢行為に気付きやすいです。そのため、被害者や目撃者が声を上げ、周りの乗客がそれに反応し、犯人を取り押さえるまたは警察に通報して現行犯逮捕となる場合が多いです。通常の逮捕では、裁判所が発布する逮捕状が必要となりますが、現行犯逮捕の場合は必要ありません。犯人が現に犯行に及んでいる、または犯行直後であれば、捜査機関ではない一般人でも現行犯逮捕(私人逮捕)できます。もっとも、防犯カメラやICカード履歴などから犯人を特定し、後日逮捕となることもあります。
痴漢事件で逮捕された後の流れ
痴漢事件で逮捕された後は、主に以下のような流れで手続きが進みます。
- 逮捕
逮捕後は、警察の取り調べを受けて48時間以内に事件と身柄が検察に引き継がれます(送致)。- 送致
送致後は、検察の取り調べを受けて24時間以内に勾留請求を行うかどうかの判断が下されます。- 勾留
勾留請求が行われ、裁判所が認めると、10日間の勾留(身柄拘束)が実施されます。
※さらに10日間の延長が可能なため、勾留は最大で20日間行えます。- 起訴
勾留満了日までに検察官は、起訴・不起訴の判断を下します。- 刑事裁判
検察官が起訴した場合は、刑事裁判が開かれ、裁判官によって有罪・無罪の判決が下されます。
勾留による身柄拘束が長引けば、仕事や人間関係に悪影響を及ぼす可能性が高まるため、早期段階で弁護士に相談し、防御活動に着手することが求められます。
初犯の場合は執行猶予を獲得できる?
痴漢が初犯で、犯行態様が軽微である場合は、執行猶予を獲得できる可能性があります。
執行猶予とは、刑事裁判で有罪判決を受けた被告人に対して、刑罰の執行が一定期間猶予される制度です。決められた執行猶予期間中、再犯や違法行為を行わないなどの条件を守れた場合は、刑罰の執行が免除されます。
また、被害者と示談が成立している場合は、不起訴処分や執行猶予付き判決を獲得できる可能性が高まります。ただし、被害者との示談交渉は非常に困難であり、交渉の場を設けること自体が難しい場合もあります。被害者の多くは、加害者である被疑者または被告人に対して「処罰してほしい」と強く思っているため、被害者の心情に寄り添った示談交渉が必要になります。そのため、被害者の示談交渉は、法律の専門家である弁護士にお願いするべきといえます。
再犯の場合は刑罰が重くなる?
痴漢が再犯の場合は、初犯と比べて刑罰が重くなりやすい傾向にあります。
痴漢行為が初犯で、比較的軽微なものである場合は、迷惑防止条例違反に問われる可能性が高いですが、東京都の条例を例に挙げると、通常の刑罰は以下となります。
【通常の場合】
「6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」
この点、痴漢行為が常習であったと判断されると、「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」が科せられます。
痴漢事件で適用されやすい迷惑防止条例違反だけでなく、刑法の不同意わいせつ罪でも同様に通常よりも重い刑罰が科せられる可能性が高いです。不同意わいせつ罪の刑罰は、「6ヶ月以上10年以下の拘禁刑」ですので、最長10年の拘禁刑が科せられるおそれがあります。
略式手続による罰金刑でも前科はつく?
略式手続による罰金刑であっても、有罪判決が下されたことに変わりはありませんので、前科がつきます。
略式手続とは、軽微な犯罪に対して、公開の裁判を行わずに書面審理のみで罰金や科料を科す手続きで、罰金刑が科せられる事件の多くでこの手続きが取られます。略式手続は、検察官が略式起訴した場合に行われます。略式起訴は、「100万円以下の罰金もしくは科料」の刑罰が相当とする事件のみで行うことができ、裁判官は検察官から提出された書面で審理します。裁判官から略式命令で罰金刑が科せられた場合は、その命令に従わなければなりません。命令に従わず、罰金を支払わなかった場合には、労役場留置が言い渡され、罰金刑の金額に達するまで強制労働を余儀なくされます。
逮捕後72時間以内の弁護活動が運命を左右します
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逮捕直後から勾留決定までは弁護士のみが面会・接見できます。ご家族でも面会できません。
痴漢事件を起こしてしまった場合の対処法
痴漢事件を起こしてしまった場合の対処法には、主に以下の方法が挙げられます。
- 弁護士に依頼する
- 被害者と示談交渉する
痴漢事件は現行犯逮捕されるケースが多いため、“初動”が刑事処分の判断に大きく影響します。逮捕直後から適切な対応ができれば、早期釈放や不起訴処分の獲得に近づけます。 各対処法を以下で詳しく解説していきます。
弁護士に依頼する
痴漢事件の弁護を弁護士に依頼すると、早期釈放や不起訴処分の獲得に大きく近づけます。 弁護士への依頼で得られるメリットには、具体的に以下のような点が挙げられます。
- 自首する場合は、途中まで同行してもらえる
- 逮捕直後から接見(面会)できるため、早期段階から弁護方針を構築できる
- 検察官や裁判官に対して、有利な事情を主張・立証できる
- 不当な逮捕や勾留を阻止してもらえる
- 起訴後も勾留される場合は、保釈請求の手続きをしてもらえる など
逮捕によって長期間勾留されると、仕事や人間関係に深刻な影響を及ぼすおそれがあります。場合によっては、職場での解雇や家庭内での離婚といった重大な結果につながることもあります。そのため、逮捕直後から迅速かつ適切に対応することが非常に重要です。
こうした状況では、弁護士に依頼することで、逮捕直後から接見(面会)を受けることができ、早い段階で弁護方針を立てて早期釈放を目指すことが可能になります。また、疑問や不安がある場合でも、弁護士にすぐ相談できる体制が整うため、精神的な負担を大きく軽減することにもつながります。
被害者と示談交渉する
痴漢事件や傷害事件などの被害者が存在する刑事事件では、被害者との示談成立が刑事処分の判断に大きな影響を与えます。当事者同士の和解を意味する「示談」は、刑事事件において被害者が加害者を許す行為に値します。そのため、示談が成立すれば刑事処分の決定の際に早期釈放や不起訴処分と判断されやすく、また、犯行態様が悪質な事件であっても、執行猶予付き判決が下される可能性が高まります。
被害者との示談を成立するには、被害者に対して深く謝罪し、金銭を支払う必要があります。痴漢事件における示談金の相場は、一般的に10万~50万円程度とされています。ただし、犯行態様が悪質な場合には、50万~100万円程度と相場が跳ね上がります。また、被害者との示談交渉は容易ではないため、成立させたい場合には、法律の専門家である弁護士の力が不可欠です。
痴漢で逮捕された・逮捕されそうな場合は、早急に弁護士にご相談ください
痴漢事件を起こした場合は、迷惑防止条例違反または不同意わいせつ罪に問われ、犯行態様が悪質だと重い刑罰が科せられるおそれがあります。痴漢事件の多くは、犯行に気付いた被害者や目撃者が「犯人の身柄を拘束する(私人逮捕)」「警察に通報する」などにより現行犯逮捕されます。
現行犯逮捕されると、たとえ無罪であっても一旦警察署まで連行されてしまうおそれがあるため、適切な対応が求められます。この点、弁護士は、どのような状況下でも適切に対応できるため、早期段階から先を見据えた弁護活動が行えます。
特に刑事事件を得意とする弁護士であれば、これまで培ってきたノウハウを活かして、より円滑かつ適切な弁護活動が行うことができます。そのため、痴漢で逮捕された・ご家族が逮捕されそうな場合には、ぜひお気軽に弁護士にご相談ください。
