前科が及ぼす影響-生活や仕事にどう影響するのか


裁判で有罪判決を受けて前科がついてしまうと、今後の就職や結婚等の私生活に悪い影響を及ぼすと容易に予想できるかと思います。
しかし、どのような前科がつくと、どのような悪影響が生じるのかがわからず、漠然とした不安を抱いている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、本稿では、前科がつくことによる仕事や私生活への影響について解説します。
目次
前科があることによる就職への影響と対処法
前科がついてしまうと、就職に影響はあるのでしょうか?
まずは、前科がつくことによる就職への影響等についてご紹介していきます。
前科持ちであることは就職に影響するのか
前科がつくことによって、就職等に影響することがあります。
例えば、法律によって国家資格の受験そのものが制限される等して、取得が制限されたり、取得していた国家資格が取り消されたりすること等があります。
他方、国家資格が不要な一般企業への就職を目指すとしても、面接等の際に、前科の良くないイメージが影響して、就職しにくくなることは容易に予想できます。
履歴書の賞罰欄は書かなくても問題ないか
就職しようとしている会社に対して、刑の言い渡しの効力が消えていない前科があることについて嘘を言ってしまうと、経歴詐称として懲戒解雇等の処分を受ける可能性があります。
たとえ面接ではごまかせたとしても、新聞記事やインターネットの情報等から前科が発覚するケース等があり、前科を隠し続けることは容易ではありません。
そのため、履歴書に賞罰欄がある場合、前科について記載した方がよいでしょう。
また、賞罰欄のない履歴書には前科を記載する必要はありませんが、就職した後で前科の件が発覚すると、懲戒免職等の点で問題が生じる可能性があるため、面接で質問された際には正直に答えた方がよいでしょう。
なお、刑の言い渡しの効力が消えた場合の前科については、履歴書に記載したり面接で伝えたりする必要がありません。
刑の言い渡しの効力が消えるのは、罰金刑であれば罰金を納めた日から5年、禁錮刑以上の刑であれば出所日の翌日から10年が経過した場合等です。
空白期間が長い場合の就活方法
近年では、受刑者への支援に取り組んでいる企業も増えてきています。
また、社員の経歴をあまり気にしない会社や業界、社員の経歴を一切問わない会社や業界もあるようです。
前科があることを隠し通すことを考えるよりも、就職を目指すときに不利になりにくい会社や業界を検討することも一つの方法としてあり得るでしょう。
また、前科がある人に対する行政によるサポートもあります。
例えば、コレワーク(矯正就労支援情報センター)では、就労支援相談窓口を設置したり、雇用者のニーズに合った受刑者を紹介するための雇用情報提供サービスを提供したりするなどの支援があります。
前科を企業が調べることはできるか
一般企業は、就職しようとする人の前科を、警察や市区町村等の公的機関から得ることはできません。
それは、前科が非常に重要な個人情報に該当するからです。
ただし、インターネット上で、犯罪等に関する実名報道がされていないかを検索すること等は可能であり、インターネットの検索結果で犯罪報道がわかる場合もあります。
なお、重大事件でなければ実名報道されないことも多く、全ての犯罪報道で実名報道されているものではありません。
このように、前科は非常に重要な個人情報であるため、実名報道されていない事件であれば、一般企業が調べることは難しいといえるでしょう。
前科があると就職が制限される職業
国家資格を必要とする職業は、前科があると就職に影響を及ぼすおそれがあります。
前科がつくと、国家資格を取得することが制限されることや、既に取得している国家資格を取り消されることがあります。
ただし、あらゆる前科が影響するわけではなく、罰金刑以上の刑が科せられると影響する資格や禁錮刑以上の刑が科せられると影響する資格があります。
また、国家公務員や地方公務員についても、前科がつくと就職が制限されたり懲戒免職になったりする可能性があります。
特に警察官や検察官、検察事務官といった国の治安を守る立場の公務員は、前科がついていると就職が難しくなる職業といわれています。
具体的な資格の取り扱いについては、以下で解説します。
罰金以上の前科で就職が制限される職業
医師や歯科医師、看護師、助産師等は、罰金刑を受けてしまうと免許を取得できない可能性があります。
必ず取得できないというわけではありませんが、犯罪の種類等によっては免許を取得できないリスクが高まります。
なお、気象予報士にとっての気象業務法のように、特定の法律に違反して罰金刑以上の刑を受けたときだけ制限を受ける資格もあるため、自身が取得したい資格がある場合には、その都度確認するべきでしょう。
禁錮以上の前科で就職が制限される職業
国家公務員や地方公務員は、禁錮以上の刑罰が科された場合、その刑の執行が終了するまで募集に応募することができません。
また、税理士、公認会計士、行政書士は、禁錮以上の刑に処せられた場合、その執行が終了または執行を受けることがなくなってから3年を経過するまではなれません。
そして、組織の内部で行われる手続きのため詳細は不明ですが、公務員の中でも特に警察官等の職業については、前科の有無について厳しく審査されるといわれています。
もっとも、ノンキャリアの警察官であれば、軽度の罪による前科があっても採用されるケースがあるようです。
前科がついてしまったことによる現在の仕事への影響
前科がつくことによって、懲戒免職処分などによって失職させられたり、現在保有している資格が取り消されたりすることがあります。
そのため、資格を用いる仕事をしている方は、前科がつかないように特に日々の言動に注意する必要があります。
前科がつくと取り消される資格について、以下で解説します。
前科持ちになると資格を取り消される職業
医師、歯科医師、看護師等は、罰金刑以上の刑を受けると、業務停止や免許を取り消されることがあります。
また、国家公務員、地方公務員は禁錮刑以上の刑を受けると失職し、弁護士、司法書士、行政書士、社会保険労務士、税理士、公認会計士、宅地建物取引士、建築士といった職業は禁錮刑以上の刑を受けると資格を取り消されたり、登録を抹消されたりします。
なお、資格を取り消されると、刑の言い渡しの効力が消滅するまで再取得できない資格もありますが、取り消された日から2年や3年、5年といった期間に限定して再取得を制限しているものもあります。
なお、取締役や監査役等のように、会社法等で定められた罪を犯すと、罰金刑であっても欠格事由となる立場もあります。
取締役等が、会社法等以外の法律で定められた罪を犯すと、禁錮刑や懲役刑を受けた場合にのみ欠格事由となります。
資格に影響されない仕事の場合
一般企業の社員であれば、前科がついたからといって必ず解雇されるわけではありません。
ただし、会社のお金を横領したケース等、仕事と関係のある前科であれば懲戒解雇は有効になる確率が高いといえます。
他方、私生活における痴漢行為等であっても、懲戒免職処分等を受ける可能性は否定できませんが、そういった処分を受けたとしても民事訴訟によって無効にできる可能性もあるでしょう。
ただし、仕事とは関係のない前科であっても、就業規則に前科がついた場合に停職処分や降格処分をすることがあるなどの記載があれば、そういった処分が有効になる可能性があります。
なお、事実上の影響として逮捕されたことや前科がついたことなどは、会社の内部で噂になることが多く、同僚など周囲から白い目で見られる可能性があります。
仕事への影響を最小限にするための方法
社会人が逮捕・勾留後、刑事裁判で有罪の判断がなされ、前科がつくと、最悪の場合には職を失うことになります。
それを未然に防ぐことが重要なのはもちろんですが、逮捕・勾留といった身体拘束が伴うものは、長期間にわたって出社できなくなる等仕事への影響は大きいため、身体を拘束されないようにすることが重要です。
犯罪の疑いをかけられて、仕事への影響が心配な場合には、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
逮捕後72時間以内の弁護活動が運命を左右します
刑事弁護に強い弁護士が迅速に対応いたします。
逮捕直後から勾留決定までは弁護士のみが面会・接見できます。ご家族でも面会できません。
前科は離婚の理由になる
自身に前科があることを隠して結婚すると、そのことを配偶者に知られてしまったら、離婚を切り出されてしまうかもしれません。
前科があることだけを根拠にした場合、一方的な離婚が必ず認められるわけではありません。
しかし、殺人等の重大犯罪の前科ならば「婚姻を継続し難い重大な事由」であると認定されてしまうおそれがあります。
そのため、結婚前には、なるべく前科がついた経緯等をよく話し合っておくべきでしょう。
前科があると海外旅行に影響が出るおそれがある
入国管理の厳しい国では、前科がある人に対して、パスポートに加えてビザを要求することがあります。
そのため、グループで海外に行くときに、前科のある1人だけがビザを要求される事態に陥るおそれがあります。
アメリカ、カナダ、オーストラリアは犯罪歴のある人に対して厳しい態度をとっています。
特に、アメリカは入国審査が厳しいことで知られています。前科がなく逮捕歴がある場合でも、ビザを申請して審査を受ける必要があります。
そのため、海外旅行に行く際には、ビザの取得が必要かどうか等、他に必要な手続きがないかを確認しておきましょう。
前科持ちが再犯すると罪が重くなる
前科は警察や検察のデータベースに登録されており、刑の言い渡しの効力が消えても一生残り続けます。
そのため、再び同じ種類の犯罪や似た犯罪を行ってしまうと、刑事裁判において、それらの前科が取り上げられ、裁判官の心証が悪くなってしまい、罪が重くなるおそれがあります。
前科が及ぼす影響は大きい
前科がついてしまうと、公務員だと処分を受けるリスクや、国家資格を使用する職業である場合、資格の取得が制限されたり、取り消されたりするなどのリスクがあります。
また、海外旅行や結婚等の私生活にも重大な影響を及ぼす可能性も高くなります。
このように、前科がつくリスクは、日本では到底無視できるものではなく、そもそも前科をつけないように行動をすることが必要不可欠です。
しかし、日本では、起訴されてしまうとほぼ確実に有罪判決を受けて前科がついてしまう実情があります。
そこで、そもそも起訴されないために、弁護士による逮捕前または起訴前の弁護活動が非常に重要となります。
そのため、警察に犯罪を疑われ始めた等の事情があれば、刑事弁護に精通した弁護士にご相談・ご依頼ください。