逮捕されるのはどんな時?逮捕の種類について


「逮捕」という言葉は知っていても、その種類や要件を熟知されている方は意外と少ないかもしれません。
日本では、不当に逮捕されないことが憲法で定められています。そのため、適法な手続きによらなければ逮捕されることはありません。
しかし、逮捕についてよく知らない状態では、おかしな手続きが行われていても、その事実に気づくことができません。
そこで、いざというときに自分の身を守るためにも、「逮捕」について知識を深めておきましょう。
ここでは、【逮捕の種類】について解説していきます。
目次
逮捕の種類
逮捕の種類には、通常逮捕・現行犯逮捕・緊急逮捕の3種類があります。
このうち、逮捕の際に令状が発行されていることが必要なのは「通常逮捕」であり、これが原則とされている逮捕の手続きです。
「現行犯逮捕」であれば令状は不要で、「緊急逮捕」の場合には事後的に令状が必要とされています。
これらの手続きには、様々な規定が設けられています。
逮捕には人権侵害のリスクがあるため、様々な手続きを定めることで、不当に逮捕される人が生じないようにすることを目的としています。
逮捕の種類を知っておくことは大事です
逮捕されてしまった場合には、どの種類の逮捕であったのかを把握しておくと、その手続きが正当であったか否かが判断しやすくなります。
例えば、通常逮捕であれば原則的に逮捕令状を示す必要があり、逮捕時に警察官等の手元になかったとしても、逮捕後に示す必要があります。
現行犯逮捕や緊急逮捕は、逮捕時に令状が発行されていないため、逮捕することが可能となる条件が定められており、その条件に当てはまらなければ違法な逮捕となります。
以上のように、逮捕の手続きを把握しておけば、不当な手続きによって逮捕が行われたことに気づける可能性があります。
通常逮捕
通常逮捕とは、警察官等が被疑者の元を訪れ、逮捕令状を示して逮捕する手続きです。
逮捕は人の自由を奪う行為であり、誤って行われた場合には深刻な人権侵害になりかねません。
そこで、事前に裁判所のチェックを受けて、逮捕することを許可してもらう必要があります。
なお、逮捕する警察官等の手元に逮捕令状がなかったとしても、すでに発行されており、「被疑事実の要旨」と「逮捕令状が発行された旨」を告げれば通常逮捕は可能です。
このような手続きを「逮捕状の緊急執行」といいます。
この場合には、逮捕後に、できる限り速やかに逮捕令状を示す必要があります。
通常逮捕の要件
通常逮捕を行うためには、逮捕の理由と必要性があることが要件とされています。
- 逮捕の理由がある=被疑者を疑うべき理由がある
- 逮捕の必要性がある=逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがある
さらに、30万円以下の罰金および拘留または科料に処せられる事件については、被疑者の住所が定まっていないか、正当な理由なく呼び出しに応じなかった場合にのみ逮捕されるという条件が追加されています。
逮捕状(逮捕令状)について
逮捕状(逮捕令状)とは、捜査機関が逮捕を行うことについて、裁判所が許可したことを証する令状であり、裁判官が発行します。
逮捕令状には、氏名や住所、年齢といった被疑者を特定するための情報や、罪名等の被疑事実を特定するための情報、逮捕状発布の年月日・連行する警察署等の情報が記載されています。
逮捕令状は、検察官や司法警察員(警察官)等が請求できます。
ただし、警察官が請求する場合には、請求できるのは警部以上の階級の者だけです。
なお、令和2年においては、“通常逮捕状”請求数のうち却下および取下げの件数が占める割合は【1.47%】、“緊急逮捕状”請求数のうち却下件数が占める割合は【0.46%】と、いずれにしてもかなり低い割合であることがおわかりいただけるでしょう。
通常逮捕の多い罪名
通常逮捕されるのは、現行犯逮捕されにくい犯罪であるとう特徴があります。
代表的な罪名としては、「横領罪」や「詐欺罪」といった、犯行時には発覚しにくいと考えられるものが多いです。
現行犯逮捕
現行犯逮捕とは、現に犯行を行っている者や、犯行を行い終わった者を逮捕する手続きです。
この場合には誤認逮捕のおそれがないため、逮捕令状は必要とされておらず、そのことは憲法にも定められています。
逮捕令状が不要であること以外にも、現行犯逮捕である場合のみ一般人による逮捕が可能であることが現行犯逮捕の特徴です。
ちなみに、現行犯逮捕の件数は、平成31年(令和元年)の犯罪統計によれば通常逮捕の件数に対して8割程度の件数になっており、それなりの頻度で行われているといえるでしょう。
準現行犯逮捕
準現行犯逮捕とは、犯行を行ってから間もないことが明らかに認められる者を逮捕する手続きです。
具体的には、犯人として追跡されている者、盗んだ物や犯行に用いたと思われる凶器等を所持している者、身体や衣服等に犯行を行った明らかな証拠がある者、警察官等から声をかけられて逃げ出した者といった4種類のパターンに当てはまる者が該当します。
これらに該当しない場合には、被疑者を逮捕するために(事後的なものも含めて)逮捕令状が必要となります。
準現行犯逮捕の場合でも私人逮捕は可能です。
ただし、現行犯逮捕とは異なり、犯行に及んでいる様子や犯行直後の様子を見ていないことから、慎重な対応が必要になります。
私人逮捕
私人逮捕は、現行犯逮捕(準現行犯逮捕を含む)の場合にのみ可能です。
そのため、対象が指名手配犯やテレビ・インターネット等で顔を見た人物であったとしても、私人逮捕を行うことはできないので注意してください。
なお、私人逮捕を行った場合には、すぐに警察官等に身柄を引き渡さなければなりません。
私人逮捕で注意すべきことは、誤認逮捕をしてしまった場合、一般人であっても損害賠償請求を受けるリスクがあることです。
また、犯人を取り押さえる際等に不必要な暴力を振るうと、誤認逮捕でなかったとしても私人逮捕を行った者が傷害罪等で訴えられるリスクがあります。
現行犯逮捕の要件
現行犯逮捕の場合であっても、通常逮捕の場合と同様に、逮捕する相手が犯人であると疑う理由や逮捕の必要性が要件とされています。
たとえ犯行を目撃したように思えても、見間違いかもしれないと考えるようであれば、被疑者を疑う明確な理由があるとはいえないでしょう。
また、逃亡や罪証隠滅のおそれがないのであれば、必要性がないため逮捕することはできません。
現行犯逮捕が多い罪名
万引きやスリ等の窃盗や痴漢行為等の強制わいせつ、他人の自動車を傷つける等の器物損壊といった犯罪は、犯行が行われているところを目にすることが可能であり、被害者自身が逮捕することも考えられるため、現行犯逮捕の割合が高くなると考えられます。
また、覚せい剤や大麻等の違法薬物を所持している場合にも、職務質問・所持品検査等から現行犯逮捕に至ることが考えられます。
被害者との示談で不起訴となる可能性があります
犯罪を行ってしまい、現行犯逮捕されてしまった場合であっても、焦らず弁護士へご依頼ください。
弁護士は、被疑者を逮捕する必要がないことや、勾留しないように求めることで、身柄の拘束を解くように働きかけることができます。
また、被害者が存在する犯罪であれば、早期に示談の成立に向けて動くことで不起訴処分を獲得できるように活動します。
逮捕後72時間以内の弁護活動が運命を左右します
刑事弁護に強い弁護士が迅速に対応いたします。
逮捕直後から勾留決定までは弁護士のみが面会・接見できます。ご家族でも面会できません。
緊急逮捕
緊急逮捕とは、一定の重大な犯罪を行った疑いが濃厚である者を、逮捕令状が発行されるまで待っていたら逃亡または証拠を隠滅されるおそれが強い状況において逮捕する手続きです。
例えば、通り魔事件があり、通報を受けて付近を捜索した警察官が不審者を発見し、職務質問をしたところ犯行を自供した場合等が考えられます。
この手続きも、現行犯逮捕と同様に逮捕令状が発行されていない状態で行われますが、後で逮捕令状が必要となることが特徴です。
緊急逮捕は、通常逮捕や現行犯逮捕と比較するとまれであり、逮捕令状の請求件数は通常逮捕の場合と比較して10分の1以下に留まります。
緊急逮捕の要件
緊急逮捕の要件は、刑事訴訟法210条において定められており、死刑や無期懲役、長期3年以上の懲役刑・禁固刑にあたる罪を犯したと疑うに足りる“十分な理由”があることが挙げられます。
この点、緊急逮捕をする際は、被疑者に対して理由を説明しなければなりません(刑事訴訟法210条)。
また、逮捕した側(警察官や検察官等)は、裁判所に対して早急に逮捕令状の発行を求めなければなりません。
発行を請求するまでに時間がたち過ぎた等の場合には、逮捕が違法だと判断されることもあります。
なお、逮捕令状が発行されなければ、被疑者はすぐに釈放されることになりますので、これらの仕組みをきちんと理解しておくことをおすすめします。
緊急逮捕の多い罪名
緊急逮捕を行うためには、少なくとも長期3年以上の懲役刑・禁固刑に該当する罪を犯したと疑える必要がありますが、この要件には、殺人や強盗はもちろん、傷害や窃盗、強制わいせつ、器物損壊等の有名な罪名の多くが該当します。
そのため、緊急逮捕が可能な犯罪は多く、特に「この罪が多い」と判断できる根拠はありません。
ただ、暴行罪や脅迫罪、公然わいせつ罪、失火罪等は、罪が軽いため緊急逮捕の対象にはなりません。
弁護士への依頼で執行猶予を付けられるよう働きかけます
犯罪を行って逮捕されてしまった場合に依頼を受けた弁護士は、まずは起訴されないように取り組みます。
しかし、仮に起訴されてしまった場合であっても、執行猶予を獲得して収監されることを避けるために活動します。
逮捕された場合の流れ
被疑者が逮捕されると、48時間以内に検察官送致され、それから24時間以内に、検察官が勾留請求を行うか否かを決めます。
勾留請求が認められると、その期間は原則として10日間であり、勾留延長が認められれば、さらに10日間勾留されることになります。
逮捕されてしまった場合の対処について
逮捕されることに慣れている方はほとんどいないと言ってよいでしょう。
逮捕されてしまったら、可能な限り早い段階で弁護士に相談・依頼してください。
逮捕されてから勾留が決定されるまでの間は、家族であっても接見することができませんが、弁護士であれば可能です。
他者の助けがない状態では、逮捕されたことによる不安や動揺等から捜査機関の誘導に乗ってしまい、やってもいないことをやったと言ってしまったり、罪が重くなるような供述をしてしまったりするおそれがあります。
弁護士であれば、取調べの対応についてアドバイスできるだけでなく、逮捕されて精神的なダメージを受けている方の心を支えることも可能です。
接見・面会について
家族等の親しい人が逮捕されてしまった場合には、すぐに会いに行きたいと思うかもしれません。
しかし、逮捕されてから勾留が決定されるまでの間は、弁護士以外の者が接見することはできません。
逮捕されてから勾留が決定されるまでには、最大で72時間かかります。
また、勾留が決定されたとしても、接見禁止命令が出されていれば、弁護士以外の者が接見することはできません。
不起訴で釈放されたい場合
逮捕されてしまったとしても、まだ有罪が決まったわけではなく、刑罰が開始されたわけでもありません。
誤認逮捕であれば毅然としてそのことを主張し、本当に罪を犯したとしても、被害者との示談を成立させる等の方法で、不起訴処分を獲得するための活動を行うべきです。
しかし、これらの対応は1人では難しいため、なるべく早い段階で弁護士にご依頼ください。
逮捕の種類に関するよくある質問
以下で、逮捕の種類のそれぞれについて、よくある質問をご紹介します。
準現行犯逮捕は、どの程度距離や時間に間がある場合認められるのでしょうか?
準現行犯逮捕は、現行犯逮捕と似ていますが、目の前で犯行を行ったわけではない点に違いがあります。
そこで、被疑者が「事件に用いた凶器を所持している場合」や「返り血を浴びた服を着ている場合」に、犯行現場から距離が離れていたり、犯行時刻から時間が経過していたりしたケースにおいて、準現行犯逮捕が認められるのかが問題となります。
この点について、過去の事例から、距離については犯行現場から400メートル~500メートル程度離れていても、時間については3時間~4時間程度が経過していても適法とされる場合があります。
万引きで、後日通常逮捕されることはあり得ますか?
万引きの犯人は、現行犯逮捕されるイメージが強いかもしれません。
例えば、店の人間等が犯行現場を目撃しており、犯人が盗んだ商品を所持している状況であれば、現行犯逮捕しやすいと考えられます。
一方で、食品を万引きした犯人がそれを食べてしまうと、証拠が残りづらく、後日逮捕するのが難しくなるかもしれません。
しかし、近年では防犯カメラが普及し性能が向上しているだけでなく、犯人が盗品をネットオークションに出品する等して被害者に気づかれることもあるため、万引きであっても後日逮捕されるケースもあり得るでしょう。
緊急逮捕の場合、警察が家に上がり込むことはあるのでしょうか?
基本的に、緊急逮捕・通常逮捕・現行犯逮捕、いずれの場合でも、家宅捜索を行うことが認められています。
このため、緊急逮捕の場合に警察が家に入ることはあり得ます。
なお、逮捕時には、家宅捜索のみを行う場合とは異なり、捜索差押許可状は必要ありません。
再逮捕とはなんですか?
再逮捕とは、一般的に、すでに逮捕した被疑者について、別の被疑事実によって逮捕する手続きをいいます。
同一事件について再び逮捕することは原則的に禁じられていますので、認識ちがいにご注意ください。
例えば、違法薬物を“所持”していた容疑による逮捕後、その薬物を“使用”した容疑で逮捕するケースや、複数の詐欺を行っていた者について、1件の詐欺容疑で逮捕後、他の詐欺容疑で逮捕するケース等もあります。
弁護士への依頼が被疑者の命運を分けます
逮捕されてしまった場合には、一刻も早く弁護士にご依頼ください。
誤認逮捕であるケースでは、冤罪で起訴されてしまわないように、十分な打ち合わせ等が必要です。
また、本当に罪を犯してしまったケースであっても、警察官による誘導や供述調書の表現の誇張等により、不当に重い刑を受けることになってしまうおそれがあります。
逮捕の直後にでも弁護士に依頼していただくことで、それらの事態を防ぐことが可能であるだけでなく、早期の身柄解放や示談交渉等、さまざまな対応において有利となり得ますので、ぜひ弁護士にご依頼ください。