妊娠したけど結婚しないことを決めたら…養育費や慰謝料は請求できる?

未婚のまま妊娠すると、産む・産まないのどちらを選択しても、女性の精神的・肉体的・経済的負担は大きくなってしまいます。
妊娠したけど結婚する選択をしない、または、できない女性も多くいらっしゃると思いますが、その場合、養育費や慰謝料を請求することはできるのでしょうか。また請求できる場合はどのくらいの金額になるのでしょうか。
この記事では未婚のまま妊娠した場合について解説していきます。
目次
妊娠したけど結婚しない場合に養育費を請求できる?
子の父親である男性に養育費の支払い義務を生じさせるためには、男性が子供を認知する必要があります。この認知という手続きをしなければ、子供が産まれても養育費の請求ができません。
子供と父親である男性には血縁関係がありますが、未婚の場合は「法律的な親子関係」がありません。
なぜなら未婚で出産した場合、子供の母親が誰であるのかは明らかですが、父親が誰であるかは明らかではありません。
そのため、法律上の父子関係を証明するために認知することが必要になります。
父親に認知されると法律上の親子関係が成立しますので、父親は養育費の支払い義務を負い、子供には父親が亡くなった時の相続権が発生します。
認知は母親や子供にとって大事な手続きとなるでしょう。
では、子供の父親に認知してもらうにはどうしたら良いのでしょうか。
認知には「任意認知」と「強制認知」の2つの方法があります。それぞれについて次項で見ていきましょう。
任意認知とは
任意認知とは、父親である男性が自らの意思で子供との親子関係を認めて、法律上の親子関係を成立させることをいいます。
父親もしくは子供の本籍地または父親の所在地のいずれかの市区町村役場に認知届や父親の身分証明書などの必要書類を提出することで認知が完了します。
ただし、妊娠中に認知(胎児認知)する場合には母親の同意が、子供が成人してから認知する場合には子供の同意がそれぞれ必要となります。
子供の認知については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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強制認知とは
強制認知とは、父親である男性が任意認知をしてくれない場合に裁判所の手続きによって強制的に認知させる方法です。
まずは家庭裁判所に認知調停を申し立てます。強制認知と聞くと裁判で強制的に認知させることをイメージするかもしれませんが、原則として裁判前にまずは調停を行います。
調停では、調停委員を介して、双方が話し合います。
調停で相手が同意しない場合は「調停不成立」となり、裁判所に訴えを起こします。
裁判ではDNA鑑定などを行い、裁判所が父子関係の有無について判断を下します。
未婚で妊娠した場合の養育費の相場
養育費の金額は当事者同士が話し合い、合意できた金額となります。つまり、合意さえできれば、いくらでも構わないということです。
双方が養育費の金額で折り合いがつかず、調停や裁判になった場合には家庭裁判所が公表している養育費算定表をもとに養育費の額が決定されます。
養育費算定表では養育費を払う側、受け取る側の収入、子供の人数・年齢によって支払う金額が定められています。
また、養育費は未婚であっても既婚であっても金額に差はありません。
離婚の養育費については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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養育費を請求する方法
認知が成立したら以下の順に沿って養育費を請求しましょう。
- ①話し合い
-
まずは相手に「養育費を支払ってほしい」と打診してみましょう。相手が養育費の支払いに応じるようであれば支払い金額を決めます。
金額は双方が納得でき得ればいくらでも構いませんが、揉める場合は家庭裁判所が公表している「養育費算定表」を基準とすると良いでしょう。
話し合って金額に合意できたら合意書を作成しましょう。合意書を作成することで後から「言った・言わない」を避けることができます。
支払いを確保したい場合は強制執行認諾文言付き公正証書にすることをおすすめします。強制執行認諾文言付き公正証書にすると、相手が養育費を滞納した場合に裁判所に強制執行の申立てをすることで直ちに相手の財産を差し押さえることができます。
- ②調停
話し合っても相手が養育費を支払うことに同意しない場合や、金額で揉めている場合は家庭裁判所に「養育費請求調停」を申し立てましょう。
子供が認知されていれば、戸籍謄本によって親子関係を証明することができるため、離婚後の夫婦と同じように調停を起こし、養育費の取り決めをすることができます。
双方が調停の内容に合意できたら、家庭裁判所で調停証書が作成されます。調停調書にも強制執行力があり、相手が養育費を支払わない場合は裁判所に強制執行の申立てをすることで直ちに財産を差し押さえることが可能です。
- ➂審判
調停で双方が同意できない場合は審判に移行します。 審判では裁判官が養育費の金額を判断します。
養育費の支払いを命じる審判が確定すると審判書が作成され、財産の差し押さえなどの強制執行が可能となります。
相手が養育費を支払わない場合の対処法は?
調停や審判の結果が出たにも関わらず、養育費を支払ってもらえない場合は以下の方法があります。
- 履行勧告
裁判所から養育費を支払わない相手に対して、養育費を支払うように勧告してもらう方法です。
調停調書・審判書などがあれば利用できます。 - 履行命令
家庭裁判所が養育費を支払わない相手に対し養育費の支払いを命じる制度です。
履行命令に正当なく従わない場合は10万円以下の過料に処されます。 - 強制執行
強制執行とは財産の差し押さえです。強制執行には執行力のある「債務名義」が必要となり、調停調書・審判書・強制執行認諾文言付き公正証書などが債務名義として使用できます。
債務名義と必要書類を添付し、相手方の住所を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。
養育費の強制執行については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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妊娠したけど結婚しない場合に慰謝料を請求できる?
未婚で妊娠した場合、相手の男性に慰謝料を支払ってほしいと思うかもしれませんが、妊娠を理由に慰謝料を請求するのは難しいでしょう。
双方合意での性行為によって妊娠した場合、妊娠した責任は双方にあると考えられ、精神的苦痛は認められにくいからです。
慰謝料請求が認められる可能性があるケースとは?
妊娠での慰謝料請求は難しいと解説しましたが中には慰謝料を請求できるケースもあります。
- 性交渉を強要されたケース
- 婚約を破棄されたケース
- 既婚者に騙されていたケース
- その他悪質なケース
それぞれについて見ていきましょう。
性交渉を強要されたケース
相手に暴行や脅迫などの手段により性交渉を強要されたのであれば強制性交等罪という刑法上の犯罪が成立し、5年以上の懲役刑とされる可能性があります。
このようなケースでは、相手に慰謝料を請求できます。慰謝料額も高額となるケースが多いでしょう。
しかし、相手が刑事罰を受けたからといって自動的に慰謝料が支払われるわけではありません。慰謝料の請求は別途行う必要があります。
性交渉を強要された相手に慰謝料を請求することが精神的に苦痛な場合には、おひとりで悩まずに弁護士にご相談ください。
婚約を破棄されたケース
婚約破棄で慰謝料を請求するには以下の要件を満たす必要があります。
【婚約が成立していた】
- 結婚指輪や婚約指輪を交換した
- 結婚式や新婚旅行の準備をしていた
- 双方の親に挨拶を済ませていた
など客観的に婚約成立を確認できる事情が必要です。口約束だけでは婚約成立が認められないことがあるので注意しましょう。
【婚約の解消について正当な理由がない】
慰謝料が発生するのは婚約破棄に正当な理由がない場合です。性格の不一致、親の反対、相手の不倫などは正当な理由がないと判断され、慰謝料を請求できる可能性が高まります。
また、以下の場合では慰謝料の金額が高額になりやすくなります。
- 婚約期間が長い
- 子供ができた(妊娠・中絶・出産した)
- 婚約破棄した側の対応が不誠実
- 婚約破棄された側の年齢が高い
婚約破棄については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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既婚者にだまされていたケース
結婚をほのめかされていたが、実は既婚者だったケースです。
男性が既婚者であることを隠し、だまして女性と性的関係を持つと貞操権の侵害に当たり、慰謝料を請求できる可能性が高まります。
しかしこの場合は相手が独身だと嘘をついていた証拠を集める必要があります。
メールやLINEで独身であることを送信していた場合は立派な証拠となりますので、保存しておきましょう。
その他悪質なケース
その他悪質なケースには以下のようなケースがあります。
- 妊娠後の対応が不誠実
- 避妊していると嘘をつかれた場合
妊娠は女性ひとりでできるものではありません。男性も妊娠に加担しているのですから、女性の精神的・肉体的苦痛を緩和してあげることが義務付けされています。
この義務を怠った場合には不法行為となり、慰謝料が発生する可能性があるでしょう。
中絶した場合でも慰謝料を請求できる?
中絶を理由とした慰謝料も、妊娠した場合と同様に、双方合意の上での性行為である場合は慰謝料の請求は難しいでしょう。
しかし、以下のようなケースでは中絶の慰謝料を請求できる可能性があります。
- 中絶するように脅迫・強要された
- 避妊していると嘘をつかれていた
- 妊娠発覚後の相手の対応が不誠実だった…妊娠したと告げた途端に男性が一切の対応をしない、音信不通になって逃げた など
中絶の慰謝料については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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中絶費用の請求について
中絶費用は最低限、半分は請求しましょう。妊娠は女性一人でできるものではありません。中絶費用は男女が行った性交渉の結果として発生します。
そのため、当事者である男女が平等に負担するのが公平といえるでしょう。
もっとも、男性に経済力がある場合は負担してもらっても良いでしょう。
以下の表は妊娠周期によって中絶にかかる費用です。妊娠週数が大きくなれば、費用もそれだけ上がってきてしまいます。
中絶するか出産するかは選べない選択かもしれませんが、なるべく早めに選択しましょう。
【妊娠中絶にかかる費用】
妊娠初期 (妊娠11週目程度まで) |
7万円~15万円程度 |
---|---|
妊娠中期 (妊娠12週目以降) |
20万円~50万円程度 |
未婚で妊娠した場合の慰謝料の相場
未婚で妊娠した場合の慰謝料相場はケースバイケースとなりますが、相手の男性から精神的苦痛を受けた場合に慰謝料を請求できます。
妊娠が分かってからの相手の対応が極めて不誠実なケースや性交渉を強要されたケースなどでは慰謝料の金額が増額される傾向にあります。
詳しい金額については以下の表をご参考ください。
【慰謝料の相場】
基本的な慰謝料相場 | 50~200万円程度 |
---|---|
相手の行為が悪質な場合や極めて不誠実なケース | ~300万円程度 |
性交渉を強要されたケース | ~1000万円程度 |
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慰謝料を請求する方法
慰謝料を請求する方法は以下のとおりです。
- ①話し合い
まずは相手方と話し合い、慰謝料を請求します。しかし、性交渉を強要された場合は相手方と顔を合わせたくない方もいらっしゃるでしょう。
また、不誠実な対応を取る相手方は慰謝料の話し合いに応じない可能性もあります。そのような場合には内容証明郵便を送付することも検討しましょう。
内容証明郵便はご自身でも送付することができますが、弁護士に依頼することをおすすめします。
弁護士であれば内容証明郵便を法的に適切な内容で送付することができますし、弁護士名義で送付するため、相手方にも心理的プレッシャーを与えることができるでしょう。
また、このタイミングで弁護士に依頼することで、話し合いを代行してもらうことができるため、スムーズに解決する可能性が高まります。
- ②調停
話し合いで合意できない場合は家庭裁判所に調停を申し立てましょう。調停は調停委員を介した話し合いです。調停委員を介すことによって冷静に話し合いができるでしょう。
また、調停手続きを弁護士に依頼することも可能です。その場合は調停期日に同席し、あなたの代わりに調停委員に主張することができます。
- ➂裁判
調停で話がまとまらず、調停不成立となった場合は裁判に移行します。裁判では裁判官が最終的な判決を下します。
裁判では慰謝料が認められるための証拠集めが大切です。裁判官は、客観的な証拠を踏まえて、慰謝料を認めるべきかどうかを判断するからです。
裁判では複雑な手続きがあり、裁判に慣れていない一般の方では難しいことがたくさんあります。
そのため、弁護士に依頼することで、難しい書類の手続きの代行や裁判に同席し、あなたの代わりに主張・立証してもらうことができ、心強い味方となるでしょう。
離婚の慰謝料については以下のリンクで詳しく解説しています。ご参考ください。
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よくある質問
「認知はできないが養育費は払う」と言われました。認知しないことで何か問題はありますか?
認知されていなくても、父親が養育費を支払うことに合意すれば、養育費を支払ってもらうことができます。
しかし、認知されていないと、子供と父親である男性の間に法律上の親子関係が成立しないため、法律上の養育費支払い義務が発生しません。
そのため、相手の男性が養育費を滞納した場合、口約束があっただけでは、養育費の支払いを求めて、裁判所に調停や裁判を申し立てることができません。
そこで、父親が子供の父親であることを認め、養育費の支払いに合意した場合には、合意内容を強制執行認諾文言付きの公正証書にしておきましょう。
公正証書があれば、父親が合意内容通りに支払いをしない場合には、裁判所に強制執行の申立てをすることで直ちに父親の給与などを差し押さえることができます。
別れた後に妊娠が発覚しました。慰謝料や養育費を請求することはできますか?
事案によっては破局後に妊娠が発覚した場合でも慰謝料を請求することができます。ただし、慰謝料の請求には時効があります。
慰謝料請求は相手の不法行為があったことを知ってから3年で消滅時効にかかります。
時効が迫っている場合は弁護士に相談しましょう。
また、養育費は父親の認知によって法的に請求できるようになります。認知しなくても父親が合意すれば養育費を支払ってもらうことはできますが、滞納されるおそれもあるため、認知してもらうことをおすすめします。
養育費は請求した時から支払い義務が生じるのが原則です。
ただし、父親が認知を拒否しているのであれば、認知訴訟を提起し、認知が確定するまで法的に養育費を請求できないことになります。
そのため、裁判で認知が確定した後すぐに手続きを行い、養育費を請求したような場合には、出生時までさかのぼって養育費の支払い義務を認めた裁判例もあります。一度弁護士に確認してみると良いでしょう。
養育費や慰謝料の請求でお困りなら、一人で悩まず弁護士にご相談ください。
未婚で妊娠した場合、妊娠の喜びだけでなく不安な気持ちもたくさんあると思います。未婚で妊娠した場合は相手方に認知してもらうことが大切です。
しかし、相手方の男性にすんなりと認知してもらえるとは限りません。認知をめぐって大きな争いとなることもあります。
未婚で妊娠した場合はおひとりで悩まず、私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
弁護士ならば、相手方と慰謝料、養育費、認知についてあなたに代わり交渉していくことが可能です。
弁護士をつけることで、相手方にあなたの本気度が伝わるでしょう。また話し合いがスムーズに進む可能性が高まります。
相手方が話し合いに応じず、調停や裁判に移行した場合でも弁護士はあなたの味方です。
調停や裁判では、あなたの代わりに主張・立証していくことができます。
未婚で妊娠した場合、多くの方がひとりで悩んでしまいますがお子様のためにも一歩踏み出してみませんか。
もう一人の身体ではないのですから、お悩みは私たちにご相談ください。
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保有資格 弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)