あまり聞きなれない「審判離婚」とは?利用されるケース・流れ・調停との違い

家庭裁判所で行う離婚手続きのひとつに、審判離婚があります。これまで離婚について調べていた方は、どこかでこの言葉を目にしたことがあるのではないでしょうか。
離婚の審判は、調停手続きの流れの延長で行われることがありますが、実際に行われるケースはほとんどありません。2023年の政府の統計によると、協議離婚や離婚調停などすべての離婚方法のうち、審判離婚によって離婚が成立した割合は、わずか約2%となっています。
本記事では審判離婚の概要に加え、審判離婚の手続きの流れや審判を行うメリット・デメリットなどについて解説していきます。
目次
審判離婚とは
審判離婚とは、離婚調停の中でほぼ全ての条件を決めることができたが、些細なことが原因で調停不成立となりそうな場合に、家庭裁判所の裁判官の職権で必要な決定を下して、離婚を成立させる手続きです。。
離婚調停が不成立になった場合、当事者は再度、裁判外で協議を行うか、離婚裁判を提起する選択肢があります。しかし、ほぼ合意に至っているにも関わらず、裁判を起こすとなると、費用や労力の面で当事者の負担が大きくなってしまいます。
こうした事態を避ける目的で、離婚調停が不成立となったものの、裁判所が「離婚を成立させるのが相当だ」と判断した場合に行われるのが調停に代わる審判です。この審判で離婚が成立すると審判離婚となります。
審判離婚が利用されるケース
審判離婚が利用されるのは、調停不成立となった事案のうち、裁判所に「離婚を成立させた方がいい」と判断されたケースで、具体的には次のようなケースです。
- 離婚することに争いはないが、離婚条件に関するわずかな意見の食い違いで調停不成立となった場合
- さまざまな事情から、子供の親権を早く定めた方がよい状況にある場合
- 病気などの理由からどちらかが調停成立時に出席できず、調停不成立となった場合
- どちらかが外国人で、国に戻る予定がある場合
※裁判所の判断による離婚しか認めていない国もあり、自国に戻った際に離婚が成立していないという事態が生じないようにするため
協議離婚・調停離婚・裁判離婚との違い

離婚方法には、審判離婚の他に協議離婚・調停離婚・
裁判離婚があります。
それぞれの概要や特徴を以下の表にまとめました。
協議離婚 | 当事者同士の話し合いによって成立する離婚。日本における離婚の約90%はこの方法が採られている。 |
---|---|
調停離婚 | 家庭裁判所の調停手続きを踏んで成立する離婚。 調停では当事者同士は直接顔を合わせることがなく、調停委員を介して話し合いが行われる。 |
審判離婚 | “調停に代わる審判”によって成立する離婚。 |
裁判離婚 | 裁判上の手続きにより成立する離婚。 裁判官が離婚の是非や離婚条件について判断を下して成立する「判決離婚」の他に、「和解離婚」や「認諾離婚」がある。裁判は調停が不成立となったり、審判に異議申立てがなされたりした場合にのみ申し立てることができる。 |
審判離婚以外の離婚方法についてより詳しく知りたい方は、以下のページも参照してください。
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離婚審判では「異議申立て」が可能
審判の内容に納得がいかない場合は、「異議申立て」をすることができます。。
審判には、裁判の確定判決と同じ法的効力がありますが、どちらか一方でも異議申立てをした場合、審判は無効になります。
審判離婚があまり利用されない理由のひとつとして、裁判官による決定を異議申立てによって簡単に無効にすることができる点が考えられます。
ただし、審判の内容は調停案から大きく変更されることはないため、実際に異議申立てが行われることはほとんどありません。
異議申立てを行う場合は、審判の告知を受けた日の翌日から2週間以内に、家庭裁判所に対して異議申立書と審判書の謄本を提出します。
その際、申立書に特に理由を記載する必要はありません。2週間の期限を過ぎると審判は効力を有することになるので、書類を郵送する際は十分気を付けましょう。
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審判離婚を行うメリット・デメリット
これまで説明した内容を踏まえて、離婚の審判を行うメリットとデメリットについて、以下にまとめました。
メリット
- 裁判官により、個々の状況や主張のつり合いを考慮された判断が下される。
- 結論が出るまで調停を続ける必要がなくなるため、迅速な問題解決が期待できる。
- 離婚裁判を回避できるため、余計な時間や費用をかけずに済むうえ、精神的な負担も軽減できる。
- 感情面での対立が原因で離婚の合意に至ることができない場合であっても、「裁判官が判断したことに従った」という体裁がとれるため、双方が納得しやすい。
- 審判が確定すると、裁判の確定判決と同じ効力が発生する。
デメリット
- 自分が審判内容に納得していても、相手が異議申立てをすれば審判は無効となる。
- 裁判官が審判を下すため、自分の主張通りの結果が得られない可能性がある。
審判離婚の手続きの流れ
審判離婚が成立するまでには、大きく分けて次の3つの段階があります。
- ①離婚調停を申し立てる
- ②裁判所による審判確定
- ③審判確定後、10日以内に離婚届を提出
それぞれの段階について、以下で確認していきましょう。
①離婚調停を申し立てる
審判離婚の前提となるのが「離婚調停の不成立」です。まずは離婚調停を申し立て、調停委員を介した話し合いを行う必要があります。
当事者が審判を希望するのであれば、その旨を調停員に伝えることはできますが、あくまでも審判に移行するか判断するのは裁判官です。
審判離婚の申立てをすることはできるの?
当事者自ら審判離婚を望んで申し立てることはできません。審判は離婚調停が不成立となってしまった場合に、裁判官の職権によって行われるものです。当事者は裁判所に対して審判離婚にしてほしいと意見することはできますが、申し立てる権利はありません。
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審判離婚にかかる費用
離婚の審判がなされる前には、離婚調停を申し立てる必要があります。そのため、審判離婚にかかる費用は、離婚調停にかかる費用と基本的に同じになり、1200円分の収入印紙と連絡用の郵便切手が必要です。
収入印紙 | 調停の申立て費用として、収入印紙1200円分が必要。 審判に移行する際に追加費用はかからない。 |
---|---|
郵便切手代 | 連絡用に必要となるが、詳細は家庭裁判所に問い合わせる。 審判に移行すると、調停申立て時に納めた分の切手では不足することが多いため、追加分を求められる。 |
弁護士に依頼した場合 | 相談料・着手金・成功報酬・日当・交通費などがかかる。 争点が離婚の可否のみの場合、相場は40万~70万円程度。その他の離婚条件の調整も必要になれば、さらに高額になる。 |
②裁判所による審判確定
審判では、裁判官が、それまでの離婚調停で当事者間に入っていた調停委員から意見を聞き、当事者双方の主張や、その他個別事情を踏まえたうえで、揉めている条件について決定を下します。
このとき、当事者間で条件のつり合いが取れているかについても十分に考慮されます。
審判が下されると、当事者双方にその内容が記載された「審判書」が送付されます。当事者が審判書を受け取った日の翌日から、異議申立てがなされることなく2週間が過ぎると審判が確定することになります。
③審判確定後、10日以内に離婚届を提出
審判が確定したら、自動的に戸籍にも離婚が成立したことが反映されるわけではありません。
そのため、当事者の一方(通常は調停の申立人)が、自分で役所に行って離婚の手続きをする必要があります。
審判が確定した日を含めて10日以内に、離婚届やその他の必要書類を役所の戸籍係に提出しましょう。
書類に不備・不足がなければ、戸籍には審判離婚の記載がなされて、手続き終了となります。
手続きに必要な書類
審判離婚の手続きで、役所に提出する必要がある書類を下表にまとめました。
なお、提出先は手続きをする人の本籍地または所在地の市区町村役場となります。
離婚届 | 相手方の署名・押印および証人欄の記載は不要。 |
---|---|
審判書謄本 | 審判書原本の内容をすべて写した書類。 審判をした家庭裁判所にて取得可能。1ページあたり収入印紙150円が必要。 |
審判確定証明書 | 審判が確定していることを証明する書類。 審判をした家庭裁判所にて取得可能。1通あたり収入印紙150円が必要。 |
戸籍謄本 | 本籍地以外の役所に届け出る場合のみ必要。 |
審判離婚が成立するまでの期間は?
審判離婚が成立するまでの期間は、最低でも調停申立てから半年程度はかかるでしょう。
そもそも、離婚調停が1ヶ月~1ヶ月半に1回というペースで行われ、大体3回程度で調停成立・不成立の結論に至ります。つまり、調停だけでも平均して3~5ヶ月程度の期間を要します。
そこからさらに審判に移行することになるので、最低でも半年~1年は見積もっておいた方がよいでしょう。
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審判離婚に関するQ&A
審判離婚をした場合の離婚日はいつになりますか?
審判で離婚が成立した場合、正式な「離婚日」は審判が確定した日となります。
その日がいつなのかというと、裁判所による審判がなされ、その告知を受けた日の翌日から、当事者双方が異議申立てをせず2週間が経過した日を指します。
2週間が経って審判が確定した後は、離婚届を役所に提出することになりますが、協議離婚のように、離婚届が受理された日が離婚日となるわけではないので、注意しましょう。
審判で取り決められた約束が守られない場合はどうしたらいいですか?
審判で取り決めた内容が守られない場合には、裁判所に強制執行を申し立てることができます。これは、確定した審判には裁判の確定判決と同じ効力があるためです。
強制執行とは、裁判所の判決などで取り決めた金銭が支払われない場合に、相手の財産を差し押さえてその財産から未払い金を回収することで、「直接強制」と「間接強制」の2つの方法があります。
- 直接強制
慰謝料や養育費などが取り決めどおりに支払われない場合に利用される手続きで、相手の財産を差し押さえて、強制的に取り立てることができます。 - 間接強制
相手に間接強制金を支払わせることで、約束を守るよう心理的なプレッシャーをかける手続きです。
次のページでは、未払い養育費の強制執行について詳しく解説していますので、ぜひ参照なさってください。
未払い養育費を強制執行で回収したい!必要な条件は?
審判確定後、離婚届提出期限の10日を過ぎたらどうなりますか?
審判確定後、離婚届の提出期限を過ぎてしまっても、受理はされます。。
審判離婚の場合、審判が確定してから10日以内に離婚届を提出する必要があります。しかし、何らかの理由で期限内に離婚届を提出できず、提出期限を過ぎてしまっても、離婚届は受理されますので安心してください。
ただし、単に「忘れていた」など正当な理由なく提出期限を過ぎてしまった場合は、5万円以下の過料が科せられる場合もありますので、注意が必要です。離婚届は余裕を持って提出するようにしましょう。
審判離婚で分からないことがあれば、離婚問題に詳しい弁護士にご相談ください
審判離婚はマイナーな離婚方法であるため、手続きの流れの中で、どのような対処をとるのが適当なのか判断に迷うことも多いかと思います。
調停がなかなか合意に至らない場合、裁判官に審判を下してもらうことによるメリットは確かにあります。
ただ、告知された審判内容をそのまま確定させるか、異議申立てを行うかという決断は、2週間という短い期間に行わなければなりません。
審判離婚について分からないことがある場合は、早めに弁護士に相談してください。弁護士はあなたが不利にならないよう、法的なアドバイスをすることができます。
調停の段階からご相談いただいても構いませんし、審判に異議申立てをして裁判に進むつもりであれば、なおさら弁護士の力を借りて確実に対処することをお勧めします。
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保有資格 弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)