
コラム
更新日: 2024年12月12日
タイでの紛争解決手続
監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長紛争当事者たちが、司法制度外で友好的に紛争を解決する手法として、裁判外紛争解決手続き(ADR)があります。ADRで広く使われる手法としては以下のものがあります。
交渉(negotiation)は、紛争当事者たちが第三者を介さず、また司法の場に持ち込まず、友好的に解決を図る手法です。交渉の主な目的は、紛争当事者たち全員が望ましい結果を得るまでに紛争解決のための合意に至ることです。
調停(mediation)は交渉と非常に似ていますが、第三者である調停人が介在する点で大きく異なります。
調停人は紛争当事者たちが合意に至る手助けをします。紛争当事者たちは調停人の選任や、調停人の資質や専門性を決定することが可能です。ただし、調停人の権限は限られており、具体的な判断を示すわけではなく、解決までの手助けをするに過ぎません。
仲裁(arbitration)は、上記の手法とは全く異なるものであり、仲裁人と呼ばれる第三者が紛争当事者たちから指名されます。
紛争当事者たちは仲裁人の選任や、仲裁人の資質や専門性を決定することが可能です。仲裁では、当事者たちは調停合意に拘束され、その合意の手続きに従うことになります。他の手法と違い、仲裁人による仲裁決定は当事者間で法的効力を有します。
タイにおける紛争解決手続
タイの仲裁手続は「仏暦2545年(2002年)仲裁法」(Arbitration Act B.E. 2545 (2002))に基づき行われます。仲裁法では、仲裁合意は、契約書の条項に含む、または紛争発生後に個別の合意書を作成することとされています。
両当事者は仲裁合意の中で、仲裁人の数、言語その他仲裁手続の規則を定めます。仲裁手続の期間に関する規定はなく、仲裁の各段階における審理日程は両当事者と仲裁人との間で決定されます。
通常、タイでの仲裁手続には3か月から1年を要します。仲裁にかかる費用は、仲裁合意や仲裁機関等により異なります。Thai Arbitration Instituteでは、紛争額が200万バーツ以下の紛争では、仲裁人の費用は30,000バーツです。
一方で紛争額が2,000万バーツから5,000万バーツの場合、仲裁人の費用は30,000バーツに紛争額の0.2%を足した金額になります。仲裁手続は非公開で行われ、仲裁判断は当事者間でのみ共有され、一般には公開されません。
タイにおける民事訴訟
民事訴訟では、原告が裁判所に訴状を提出します。裁判長は訴状の中身を確認し、訴状を受理・不受理を決定します。被告は訴状を受領し、その後15日以内に答弁書または反訴を提出します。15日以内に答弁書等の提出がない場合、被告は訴訟進行について権利放棄したものとみなされます。
原告は、被告の答弁書(反訴状を含む)を受領後15日以内に、反訴に対する答弁を行います。原告がこれを怠った場合、裁判所は訴えを却下することになります。
被告が答弁書を所定の期間内に提出した後に、公判前審問期日が設定され、論点および証拠の整理が行われます。公判前審問では、裁判長は訴状から論点を整理し、両当事者から陳述を聞き、証拠調べで必要となる証人の数を確定させます。この期間中、裁判長は両当事者に和解による紛争解決を促します。両当事者が和解に応じた場合、裁判長は和解合意書による決定を言い渡します。
証拠調べが終了した後、両当事者は、適切な証拠や裁判例を引用しつつ自らの主張を支える論拠を含む最終弁論を提出することが認めらます。それを受け、裁判長は法廷で判決を述べ、判決文が両当事者に送付されます。判決に不服な当事者は民事訴訟法に規定された期間内に控訴することができます。
裁判にかかる費用は、請求額により異なります。また、弁護士費用や郵送料、交通費、通翻訳にかかる費用等の雑費が加わります。
タイにおける仲裁手続
仲裁の申立を行う当事者(申立人)は、請求額に応じた書式の申立書と主張内容を述べた答弁書を仲裁廷に提出します。
仲裁廷は、仲裁法に基づき申立の内容を確認後、仲裁申立の受理を決定し、申立人に対して申立書の謄本等の文書を15日以内に他方の当事者(被申立人)に送付するよう命じます。申立者は、申立書を被申立人に送付する義務を有し、仲裁廷に対して送付方法を伝達する必要があります。
被申立人は、当該申立書と文書を受領後15日以内に答弁書を仲裁廷へ送付します。被申立人がこの期間内に答弁書を送付しなかった場合、被申立人の答弁不履行とみなされ、仲裁廷は仲裁人の選任手続きを開始します。
仲裁人が選任された場合、両当事者は利益相反等を理由として、指名の日から30日以内に仲裁人の選任の異議申立ができます。異議がなければ、仲裁人は仲裁手続を開始します。
また、仲裁廷は両当事者に仲裁手続にかかる手数料および費用の予納を命じます。いずれの当事者が予納を怠ると審問は開始されません。
予納を確認次第、仲裁人は仲裁手続の日程を決定します。第1回審問期日では、論点及び立証責任の整理が行われます。通常、仲裁にかかる不服を立証する義務を負うのは申立人です。また、両当事者は、仲裁合意で言語の規定がある場合でも、仲裁手続で使用する言語を選択することもできます。
仲裁人は、提示文書および請求金額が大きい場合は証拠調べに基づき、仲裁決定を下すことになります。また、第1回審問期日において、仲裁決定を言い渡す期日を決定します。
仲裁人による仲裁決定は両当事者を拘束し、両当事者はこれに従わければなりません。しかしながら、もし一方の当事者が決定に従わない場合、他方当事者は裁判所に執行申立を行うことができます。
訴訟と仲裁の違い
訴訟 | 仲裁 | |
---|---|---|
公開/非公開の原則 | 公開 | 非公開 |
費用 | 廉価 | 高額 |
国外強制執行 | 原則的に不可 | ニューヨーク条約等により可能 |
上訴の可能性 | 高い | 低い |
審理の速度 | 遅い | 速い |
なお、タイでは、Thai Board of Trade Arbitration Court (BOT)、Thai Arbitration Institute (TAI)およびThailand Arbitration Center (THAC)で仲裁を受けることができます。
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