コラム

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更新日: 2025年7月4日

タイにおける賃金について

監修弁護士 川村 励 弁護士法人ALG&Associates バンコクオフィス 所長

タイへ進出し事業展開を行う場合、企業は雇用および労働関係の法律を遵守し、不公平な労働慣行を避けなければならず、それを怠ると過料の対象となります。

タイの労働法では、期限付きおよび無期限の雇用契約を口頭または書面で取り交わすことが可能です。タイでは雇用契約の作成は必須ではないものの、新たな労働者を雇用する場合には雇用契約を取り交わすことが推奨されています。

雇用契約により、使用者と労働者は将来発生しうる法的紛争から保護されます。しかし、雇用契約に別段の定めがない限り、タイの司法は使用者に有利な判断がなされがちです。

オンラインで生成された一般的な契約書のテンプレートを使用することは、外国人を雇用する場合には、当該国の要件を含んでいない可能性があり、危険性がより高まるため避けるべきです。

雇用契約に含むべき基本的事項は以下のとおりです。

  • 労働者の責任と役割
  • 福利厚生
  • 報酬
  • 雇用解除の要件

タイにおける賃金の定義

タイの労働者保護法では、賃金とは「使用者と労働者が雇用契約に基づいて通常の就業時間(時間、日、週、月、その他の期間等)に応じて、または労働者が労働日の通常の就業時間において遂行した労働の成果により計算して支払うことに合意した、労働の対価としての金銭であり、労働者は労働していないが本法において受け取る権利を有する、使用者が労働者に支払う休日分および休暇分の金銭を含む」と定義されています。

タイの賃金制度

タイでは、平均の最低賃金は都市や地域ごとに大きく異なり、職種、専門性、教育レベルによっても大きく異なります。例えば、低学歴の労働者の平均月収は8,852バーツである一方、学位を有する労働者の平均月収は48,550.22バーツです。

各県は、2023年の法定の最低賃金を日給328バーツから354バーツの間に設定しています。直近2年間、この水準は変化がなく、2022年との比較では、タイの最低賃金は15バーツから18バーツ上昇したに過ぎません。

県名 最低日給
(バーツ)
パタヤ、プーケット、ラヨーン 354
バンコク、ノンタブリー、ナコーンパトム、パトゥムターニー、サムットサコーン 353
チャチューンサオ 345
アユタヤ 343
チェンマイ、コーンケーン、クラビ、ロッブリー、サラブリー、ノーンカーイ、プラーチーンブリー、パンガー、ナコーンラーチャシーマー、トラート、スパンブリー、ソンクラー、スラターニー、ウボン 340
チャンタブリー、カラシン、ムックダーハーン、サコンナコーン、サムットソンクラーム、ナコーンナーヨック 338
アーントーン、カンチャナブリー、ブンカーン、チャイナート、ルーイ、ブリーラム、ナコーンパノム、パヤオ、スリン、ローイエット、パッタルン、ナコーンサワン、プラチュアップキリカン、プラチュアップキリカン、ピッサヌローク、サケーオ、ペッチャブリー、ウッタラディット、ヤソートーン 335
アムナートチャルーン、チェンライ、チュンポーン、チャイヤプーム, カンペーンペット、メーホンソーン、シーサケート、ノーンブアランプー、ランパーン、マハーサーラカーム、シンブリー、サトゥーン, プレー、スコータイ、ラーチャブリー、ターク、ナコーンシータマラート、シーサケート、ラノーン、ピチット、ウタイターニー 332
ナラーティワート、ナーン、パッターニー、ヤラー、ウドンターニー 328

賃金支払の原則

タイでは、賃金支払の原則が以下のとおり定められています。

全額払いの原則

使用者は、労働者に賃金、時間外労働手当、休日手当、休日の時間外労働手当を一括で支払わなくてはなりませんが、以下の項目を差し引くことができます。

  • 所得税
  • 労働組合費
  • 協同組合への支払い
  • 労働者保護法10条に基づく保証金の支払い、または、労働者の故意・重過失により使用者が被った損害の賠償
  • プロビデント・ファンドによる積立金

直接払いの原則

労働者保護法では、使用者は労働者に対して使用者の職場で直接賃金を支払うと規定します。しかしながら、使用者と労働者との合意により、職場以外での支払い、または直接の手渡し以外の方法による支払いも可能です。

同一労働同一賃金の原則

仕事の内容や質が同じで、かつ仕事量も同じ場合、性別に関係なく、同一の賃金、時間外労働手当、休日手当、休日の時間外労働手当が支払わなければなりません。

毎月払いの原則

使用者は、月給制ではない労働者を除き、毎月1回以上、賃金を支払わなければなりません。

法定通貨による支払いの原則

労働者に支払われるべき賃金はタイバーツでなければなりません。ただし、使用者が労働者の同意を得た場合には、外貨で支払うことも可能です。

時間外労働等と割増手当

タイの労働者保護法には、所定労働時間外の労働に対して「賃金」を支払う義務はありませんが、以下の「手当」を支払う必要があります。

使用者は、フルタイム、パートタイムの労働者を問わず時間外労働をさせる場合には、通常の賃金の1.5倍から3倍の手当を支払わければなりません。

具体的には、平日の場合、使用者は労働者に対して、通常の賃金に加えて、時間外労働に当たる部分について、通常の1時間あたり賃金に対して1.5倍の手当を支払います。休日の場合には同様に3倍の手当を支払います。

例えば、所定労働時間が8時から17時で、1時間の休憩時間があり、土曜日と日曜日が休日で、時間外労働は上記の所定労働時間以外の労働であり、これらの場合に割増手当が発生するとします。このケースでは、以下のように計算されます。

  • 月曜日から金曜日までの8時から17時以外の労働: 1時間あたりの賃金に対して1.5倍の時間外労働手当を支払う。
  • 土曜日と日曜日の8時から17時までの労働: 1時間あたりの賃金に対して1.5倍の時間外労働手当を支払う。
  • 土曜日と日曜日の8時から17時以外の労働: 1時間あたりの賃金に対して3倍の時間外労働手当を支払う。

「1時間あたりの賃金」はこの場合、1日あたりの賃金を8で割った数字です。月単位で賃金を得る労働者の場合の「1日あたりの賃金」は、月単位の賃金を30で割った数字であり、月の日数が30日でない場合も同様です。

割増手当の免除

労働者保護法65条の規定により、使用者と労働者との間で別段の定めがある場合を除き、以下の労働者は時間外労働手当、休日手当および休日の時間外労働手当を受け取ることができません。

  • 使用者を代行し、雇用、報酬の付与、賃金引き下げ、あるいは雇用打ち切りのための権限を有する労働者
  • 使用者が労働者に対して商品販売の仲介料を支払う商品の移動販売労働または購入勧誘労働
  • 列車上の業務及び列車運行に対し便宜をもたらす業務であるところの一連の鉄道業務
  • 水門あるいは排水口の開閉業務
  • 水位及び水量計測業務
  • 消防あるいは公共の危険防止業務
  • 外勤業務及び勤務時間が明確に規定されない業務
  • 当該労働者の本来の業務ではないところの宿直業務
  • その他省令で規定された業務

割増手当の計算方法

時間外労働手当、休日手当および休日の時間外労働手当を計算する場合、月給制の労働者に対しては、月単位の賃金を30で割り、さらに労働日の所定労働時間で割った数字が1時間あたりの賃金とします。

賞与の支払い

タイには賞与の規定はありませんが、賞与の支払いは、各労働者のその年の利益に対する貢献度や、各社の業績に応じて行われています。

退職金制度

労働者は60歳で退職することができます。就業規則で退職年齢が60歳以下とされている場合には、その年齢で退職となります。もし退職年齢が60歳より上に設定されている場合、あるいは退職年齢の定めがない場合であっても、労働者は60歳を迎えた時点で退職できます。

退職の意思がある労働者は、60歳に達した後はいつでも、使用者にその旨を通知することができ、退職日はその通知日の30日後となります。使用者は、労働者保護法118 条の規定に従い、退職者に退職金(解雇補償金)を支払わければなりません。

タイにおける賃金および勤務管理

タイでは、タイ人及び外国人の従業員数が合計で10名を超えた場合、10名を超えた日から15日以内に就労規則の採用を宣言しなければならず、宣言日から7日以内に、就労規則の写しを管轄地域の労働保護局に提出しなければなりません。

就業規則には、労働者保護法108条の規定により、以下の項目が含まれる必要があります。

  • 労働日、通常の勤務時間と休憩時間
  • 週休日、祝日、年次有給休暇に関する規定
  • 超過勤務と休日の勤務に関する規則
  • 基本給、超過勤務手当、休日手当、休日超過勤務手当の支払日と支払い場所
  • その他の休暇に関する規定
  • 規律と罰則
  • 不満の申出先、方法
  • 雇用契約の解消、退職金、特別退職金

労働者に不利な労働条件の変更がなされる場合、使用者は労働者の同意を得なければならず、同意なき場合には、かかる条件は効力を発しません。

タイの労働法令違反に対する罰則

法令に反する賃金の支払い、賃金の未払い、あるいは法定の最低賃金未満の賃金の支払いが行われた場合、使用主は罰金、懲役またはその併科による刑事罰を受けることになり、かつ、労働者保護法9条の規定に従い、差額分に対し年15%の遅延利息を付した金額を労働者に支払わなければなりません。

使用主は、正当な理由なく故意に上記金額の支払いを拒むことができません。さらに、支払期日から7日を経過した日から7日間ごとに、上記の遅延利息に加え、年15%の遅延利息を追加して支払わなければなりません。

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