赤ちゃんの発育不全「胎児発育不全」とは?原因や出生後の影響など

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

赤ちゃんの大きさには個人差がありますが、生まれたときの体重が2500g以上4000g未満であれば正常だとされます。

赤ちゃんの体重が2500gよりも軽くなる場合として、早く生まれてしまったケースもありますが、お腹の中にいた週数によって平均的とされる体重よりも、かなり軽い体重で生まれてしまうケースもあります。

この記事では、赤ちゃんの発育不全について、診断方法や原因、治療方法等について解説します。

赤ちゃんの発育不全とは

胎児発育不全(FGR)とは、胎児の推定体重が、妊娠週数による基準値と比較して一定以上小さいことです。

胎児発育不全は、すべての妊娠の7%程度で発生しており、出産の前後における赤ちゃんや母親に発生する合併症、および死亡のリスクを高めます。

ただし、体重が軽くても健康で、問題のない赤ちゃんも含まれるため、体重が軽い原因の見極めや、出生後の適切な対応が重要となります。

胎児発育不全の診断方法

胎児発育不全は、超音波で赤ちゃんの頭やお腹まわり、太ももの長さ等を検査することによって推定体重を算出し、同じ週数の赤ちゃんと比較することによって診断されます。

赤ちゃんの体重が、100人中の下から7番目以下に相当する−1.5SD未満であれば胎児発育不全とされます。

ただし、母親のお腹の中にいる赤ちゃんについては、超音波検査によって算出される体重は推定体重であり、誤差があります。

そのため、赤ちゃんの体重の変化や羊水の量などを確認し、総合的に診断されます。

診断は、早ければ妊娠18週程度で行われます。その後は、慎重に経過を観察しながら、原因を探ることになります。

胎児発育不全となる原因

胎児発育不全の原因は、大きく分けると以下のように分類できます。

  • 母体側の原因
  • 胎児側の原因
  • 胎盤・臍帯因子の原因

これらのうち、どれが原因であるかが明らかなケースもありますが、何が原因であるか分からないケースも少なくありません。

また、複数の原因があると考えられるケースもあります。

上記の分類について、次項よりそれぞれ解説します。

母体側の原因

胎児発育不全の原因のひとつに「母体側の要因」があります。これは、妊娠しているお母さんの健康状態や生活習慣が、赤ちゃんの成長に影響を与えるケースです。

胎児発育不全の母体側の原因として、主に以下のようなものが挙げられます。

  • やせ過ぎ
  • 高血圧
  • 妊娠高血圧症候群
  • 糖尿病
  • 膠原病
  • 喫煙・受動喫煙
  • 飲酒

近年では、「やせ過ぎの女性が増えていること」が社会的にも問題視されており、胎児発育不全のリスク要因として注目されています。

妊娠前からの健康管理が重要であり、適切な体重・栄養状態を保つことが赤ちゃんの健やかな成長につながります。

胎児側の原因

胎児発育不全の原因には、胎児自身に由来するものもあります。これは、赤ちゃんの体質や遺伝的な要因、感染症などが関係しているケースです。

胎児発育不全の胎児側の原因として、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 染色体異常(18トリソミー、13トリソミー等)
  • 母体からの感染(風疹、トキソプラズマ症、サイトメガロウイルス感染症等)
  • 胎児形態異常(先天性心疾患等)

胎盤・臍帯因子の原因

胎児発育不全の原因には、胎盤や臍帯(へその緒)に関する異常も含まれます。これらは、赤ちゃんに酸素や栄養を届ける「生命線」のような役割を果たしているため、機能に問題があると、胎児の成長に大きな影響を及ぼします。

胎児発育不全の胎盤・臍帯因子の原因として、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 胎盤機能不全
  • 臍帯過捻転
  • 一臍帯動脈

胎児発育不全の治療方法

胎児発育不全を治療するためには、原因が明らかな場合には、その原因を取り除く処置を行います。

また、なるべく妊娠を継続して、赤ちゃんが大きくなるようにします。

胎児発育不全の原因が糖尿病等である場合には、血糖値が上がりすぎないようにする等の対応を行って、赤ちゃんへの悪影響を抑えるようにします。

また、生活習慣や食生活を改善して、赤ちゃんの成長を促します。

妊娠を継続して成長を図っているときに、赤ちゃんの状態が悪化してしまった場合には、分娩を促したり、帝王切開によって出産させたりします。

胎児発育不全の分娩方法

胎児発育不全と診断された場合、赤ちゃんの状態や妊娠週数などを総合的に判断して、自然分娩か帝王切開かが選ばれます。

赤ちゃんの体力が十分であれば自然分娩も可能ですが、負担が大きいと判断された場合には、帝王切開での出産となることがあります。

出産後は、赤ちゃんの状態に応じてNICU(新生児集中治療室)での管理が必要になることもあります。

発育不全で出産した赤ちゃんへの影響は?

胎児発育不全で生まれた赤ちゃんは、ただ身体が小さいだけでなく、臓器等も未熟な状態である割合が高く、様々な問題に見舞われるおそれがあります。

生じやすい問題として、低体温、低血糖、高ビリルビン血症等が挙げられます。

また、死産や産後早期の死亡も発生しやすく、正常な発育の赤ちゃんと比べると8倍程度になるといわれています。

さらに、精神的な発達の遅れ等により、障害を有する確率も高くなります。

胎児発育不全で医療過誤が疑われる場合

胎児発育不全と診断された場合、医療機関の判断や対応が適切でなかったことで、赤ちゃんに重大な影響が出るケースもあります。

たとえば、必要な検査や処置が行われなかった結果、赤ちゃんが低血糖や脳性麻痺などの状態になることが挙げられます。

こうした場合には、医療過誤が疑われ、損害賠償請求の対象となる可能性もあります。

胎児発育不全に関する医療過誤の裁判例

胎児発育不全の医療過誤の裁判例について、以下で解説します。


【事件番号 昭62(ワ)284号、金沢地方裁判所 平成4年6月19日判決】

本件は、胎児発育不全によって低出生体重児となった赤ちゃんがチアノーゼを起こし、その後、低血糖によると考えられる脳性麻痺によって労働能力のすべてを喪失した事案です。

被告医院側は、赤ちゃんが胎児発育不全であったことについて争いましたが、裁判所は次のように指摘して、胎児発育不全であったことを認めています。

  • 赤ちゃんは在胎40週であった可能性が十分に認められる
  • 赤ちゃんの出生体重は2480gであり、へその緒の結紮の方法により加算はしない

また、被告医院側は、赤ちゃんがミルクを飲めず、こぼしていたという母親等の証言を信用できないとしましたが、裁判所は主に次のように指摘して採用しませんでした。

  • 哺乳瓶内のミルク量の減少が記録されているが、こぼれた分を含めて記録していることになる
  • 赤ちゃんの出生後の体重減少には複数の見解があり、ミルクを十分に飲んでいたとは証明できない
  • 赤ちゃんが吸わなくても、哺乳瓶からミルクが流出することはあり得るし、赤ちゃんが吸ったミルクを飲みこめなかった可能性を否定できない

以上のことから、赤ちゃんは胎児発育不全であったため低血糖に罹患しやすく、哺乳力不良状態であったのに、血糖値検査を怠り経口授乳のみを行ったため、診療義務違反ないし過失が認められると裁判所は認定しました。

そして、低血糖の他に脳性麻痺の原因が考えられないこと等から、被告医院側の不作為と赤ちゃんの脳性麻痺との因果関係を認め、赤ちゃんの逸失利益や生涯の介護費用、慰謝料、弁護士費用等、合計およそ9860万円の請求を認容しました。

弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 医学博士 弁護士 金﨑 浩之
監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)
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