監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
現代の医療が進歩していても、残念ながら出産後に赤ちゃんが亡くなってしまうケースはあります。
原因には、まだ詳しくわかっていない乳幼児突然死症候群や、思いがけない事故などが含まれます。
また、医療の対応に問題があった可能性があるケースも存在します。
このページでは、赤ちゃんの死亡率や主な原因、分娩時の処置が関係するリスクなどについて、わかりやすくご説明します。
目次
出産後の赤ちゃんの死亡率は、近年の医療技術の進歩により大きく低下しています。
2022年の統計によると、生後4週(28日)未満の新生児死亡率は約0.08%、1歳未満の乳児死亡率は約0.18%と報告されています。
これは非常に低い数字ではありますが、決してゼロではありません。
出産後に赤ちゃんが亡くなってしまう原因として、主に以下のようなものが挙げられます。
これらの原因について、次項より解説します。
先天性異常とは、赤ちゃんに生まれつき存在する身体の疾患のことです。主に染色体疾患や先天奇形、先天性代謝異常等が挙げられます。
主な原因として、以下の4種類が挙げられます。
お腹の中にいる赤ちゃんの状態を正確に把握するために、出生前検査を受けることができます。
事前に異常を把握することができれば、出産後に適切な処置を行える可能性が高まります。
なお、環境因子等を減らすために、喫煙やアルコールの摂取は控えるようにしましょう。
出生時の合併症として、主に新生児仮死や胎便吸引症候群等が挙げられます。
新生児仮死とは、生まれたばかりの赤ちゃんの呼吸や循環等に異常があるために危険な状態に陥る疾患です。
新生児仮死の原因として、赤ちゃんが母親のお腹の中にいるときから「安全とは言い切れない」状態である胎児機能不全に陥っているケースが多いです。
胎児機能不全の原因として、主に次のようなものが挙げられます。
また、胎便吸引症候群とは、母親のお腹の中にいる赤ちゃんが強いストレスを受けたときに排便し、羊水を汚染してしまい、汚染された羊水を吸い込んでしまうことによって、出産後の呼吸障害や肺炎等が引き起こされる疾患です。
胎便吸引症候群の原因として、主に次のようなものが挙げられます。
新生児が感染症に罹患してしまう場合があります。
お腹の中にいるときに母体から感染してしまうケースもありますが、出産時に産道を通ったときに感染するケースや、出産後に感染するケースもあります。
新生児は母親から免疫を受け継いでいますが、自身の免疫が未熟なため、感染症にかかりやすい状態です。
代表的な感染症として挙げられるのは、以下のようなものです。
乳幼児突然死症候群(SIDS)とは、元気に育っていた赤ちゃんが、前兆や病歴がないのに、突然死してしまう病気です。
赤ちゃんが突然死する原因はいまだに解明されていませんが、次のような方法によってリスクを抑えることができるとされています。
また、突然死を予防するために、以下のようなことに注意しましょう。
早産児とは、妊娠22週から37週未満で生まれた赤ちゃんのことを指します。また、低出生体重児とは、出生時の体重が2500グラム未満の赤ちゃんのことです。
早産によって赤ちゃんが低体重で生まれる可能性は高くなり、体が未熟な状態で誕生するため、臓器の発達が不十分なこともあります。
その結果、呼吸や循環などの機能に問題が起きやすく、合併症のリスクが高まることで、命に関わるケースもあります。
主な合併症として、次のようなものが挙げられます。
早産児や低出生体重児が生まれる原因として次のようなものが挙げられますが、喫煙については、特にリスクが高いと考えられているため注意しましょう。
赤ちゃんが低体重で生まれたときのことを知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
先天性心疾患とは、生まれたときから心臓や血管に異常があるために発生する疾患のことです。
赤ちゃんの100人に1人程度が罹患するとされています。
医学の進歩により、成人するまで生きることのできる方が多いものの、残念ながら亡くなってしまう赤ちゃんもいます。
先天性心疾患の原因は、いくつかの要因が重なって発症するケースが多く、遺伝子異常や妊娠中の喫煙、飲酒、投薬等の影響が指摘されています。
先天性心疾患を発見するために、医師は生まれたばかりの赤ちゃんの心音を確認します。
また、小学校や中学校の学校健診でも心音を確認して、異常の有無が確認されます。
先天性心疾患には、自然に治るものもありますが、複数回の手術が必要となるケースもあります。
呼吸障害とは、赤ちゃんの肺が未発達であること等により、呼吸の回数が異常に少なくなったり、多くなったりする状態です。
時間の経過によって自然に治ることが多いですが、鼻づまりなどによって呼吸が停止するおそれがあります。
無呼吸発作は、乳幼児突然死症候群の原因になると考えられているため注意する必要があります。
呼吸が苦しそうである場合や、顔が紫色になっている場合等では、異常が生じているおそれがあるので医師に相談しましょう。
赤ちゃんの呼吸が止まったままで生まれたときのことを知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
赤ちゃんの血液障害とは、赤ちゃんに起こりやすい血液の異常のことです。代表的な疾患として、以下のようなものが挙げられます。
赤ちゃんと母親の血液型が異なること等により、赤ちゃんの赤血球が破壊されて大量のビリルビンが発生し、赤ちゃんに黄疸を引き起こす疾患です。光線療法や交換輸血等によって治します。
ビタミンK欠乏症や播種性血管内凝固症候群等により、赤ちゃんの血液中の血小板が減少し、頭の中や臓器等で出血しやすくなる疾患です。ビタミンKの内服や、原因となっている感染症等の治療、輸血等によって治します。
赤ちゃんの死亡原因となる不慮の事故として、窒息による死亡や、交通事故による死亡等が挙げられます。
0歳の赤ちゃんの窒息死は、大半が家庭で発生しており、ベッドで亡くなるケースが多いです。
原因として、顔に物が被さること、頭などをベッドとマットレスの間に挟んでしまうこと、胃の内容物を誤嚥すること等が挙げられます。
不慮の事故を防止する方法として、なるべく目を離さないことや、子供用のベッドやマットレスを使用すること等が挙げられます。
分娩時には、医師や看護師等が適切な処置を行うため、赤ちゃんの死亡が引き起こされるリスクが高いわけではありません。
しかし、分娩時の処置が死亡原因になるケースも存在するため、医療過誤の可能性がゼロとは言い切れません。
赤ちゃんの死亡につながる医療過誤として、主に以下のようなものが挙げられます。
出産後の赤ちゃんの死亡について、医療過誤が認められた裁判例を以下でご紹介します。
【事件番号 平30(ワ)6307号、大阪地方裁判所 令和5年1月24日判決】
本件は、吸引分娩によって生まれた赤ちゃんが帽状腱膜下血腫によって死亡したことについて、主に以下のような点が争われた事案です。
なお、帽状腱膜下血腫とは、赤ちゃんの頭部に生じる出血のなかでも大量出血を起こすおそれのある疾患であり、吸引分娩等が原因となり、早期発見が大切だとされています。
裁判所は、赤ちゃんへの吸引分娩の適応について、鑑定の結果から分娩の遷延が予想される状態だと判断することがあり得たため適応はあったと認めました。
また、吸引分娩の方法について、児頭は十分に下がっており、吸引分娩の回数が5回を超えても直ちに不適切とは言い難いことから、吸引分娩の方法が不適切だったとは言えないとしました。
一方で、助産師が医師に対して、赤ちゃんの顔面チアノーゼや全身の皮膚色不良、うなり呼吸の異変などをきちんと報告していれば、帽状腱膜下血腫という病気を疑うことができた可能性があると裁判所は判断しました。
これらの異変が報告されていれば、赤ちゃんが亡くならずにすんだ可能性が高かったと認められました。
そして、助産師から医師への不適切な報告と、赤ちゃんの死亡との間に因果関係を認めて、逸失利益や死亡慰謝料、弁護士費用等、合計約5094万円の請求を認容しました。
【事件番号 平12(ワ)953号、神戸地裁尼崎支部 平成15年9月30日判決】
本件は、陣痛促進剤の投与後に胎児機能不全に陥り、帝王切開によって生まれた赤ちゃんが死亡したことについて、主に以下のような点が争われた事案です。
裁判所は、胎児機能不全の原因は陣痛促進剤の投与による過強陣痛であると認めました。
さらに、陣痛促進剤の投与には胎児機能不全や子宮破裂等のリスクを伴うため、1日の許容量の上限まで服用させた場合には、分娩監視装置の装着等によって経過を監視する義務があり、病院側には分娩監視義務を怠った過失があると指摘しました。
そして、胎児機能不全が発生しても、すぐに娩出すれば赤ちゃんを救命することは可能であったとして、分娩監視義務違反と赤ちゃんの死亡との間に因果関係を認めて、逸失利益や死亡慰謝料、弁護士費用等、合計およそ3674万円の請求を認容しました。
医療過誤のご相談受付
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