ニューズレター
2025.Oct vol.131
不動産業界:2025.10.vol.131掲載
私は、賃貸マンションのオーナーです。私が賃貸している物件の入居者から、隣地の樹木が越境しているとの苦情が入りました。隣地の所有者には樹木を切除するよう依頼しているのですが、一向に返事もなく、切除されません。次第に樹木は伸びており、放置すれば物件に傷がつくなどの被害がでることも考えられます。
この場合、私が勝手に樹木を切除してしまってもいいのでしょうか。また、切除するために、隣地に立ち入ってしまっても大丈夫でしょうか。
物件に侵入している樹木のうち、枝や根の部分については、オーナー自ら切除することができると判断される可能性が高いものと考えられます。
他方で、幹の部分については、オーナー自ら切除をすることができません。
また、枝の切除の際には、隣地所有者に対し事前に通知したうえで、隣地に立ち入ることができるものと考えられます。
民事上の紛争において、公的な手段を用いずに自力で権利の回復を図ること(自力救済)は、原則として違法であると考えられています。
そのため、土地所有者は、自ら所有する土地に隣地から何かが侵入しており、隣地所有者が任意に侵入物の除去に対応しない場合には、原則として、訴訟を提起するなどして、裁判所の手続にしたがって権利の回復を図る必要があります。
もっとも、民法上、以下のような条文が定められています。
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第233条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。
4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
このように、隣地の竹木の枝が土地に侵入しており、当該土地の所有者が竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に枝を切除しないときには、当該土地の所有者は、その枝を切り取ることができるとされています(民法233条3項1号)。
また、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、土地の所有者は自らその根を切り取ることができるとされています(民法233条4項)。これらは、自力救済が例外的に認められる場合といえます。
本件では、隣地所有者へ樹木を切除するよう依頼しており、催告は既に行っていると考えられます。そのため、越境している樹木のうち、枝や根の部分については、オーナー自ら切除できると考えられます。
他方で、隣地の樹木の幹が侵入している場合には、自力救済禁止の原則のとおり、自らこれを切除することは許されず、強制的に侵害を除去するためには、訴訟等の公的な手続によることが求められます。
また、隣地の枝を土地の所有者自身が切除できる場合には、隣地所有者に事前通知のうえ、前記の枝の切取りのために隣地を使用することができるとされています(民法209条1項3号、同3項)。
そのため、枝の切除に関しては、かかる事前通知を経て、隣地に立ち入って切除を行うことができるものと考えられます。