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監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
復職とは休職中の社員が職場に復帰することです。
昨今ではうつ病などメンタル不調を理由に休職する社員が増えており、復職への支援は急務です。
会社担当者や産業医などが連携し、職場環境の調整を行いつつ、社員が安心して働けるようサポートすることが重要です。
復職のタイミングを急ぎすぎたり、復職後のフォローが不十分であると、症状の悪化や離職を招き、会社側に重大な法的なリスクが生じる可能性があるため注意が必要です。
この記事では、休職者の復職の流れや、会社がすべき対応などについて解説します。
目次
休職者を復職させるまでの流れ
社員が安心して復職できるようにするには、会社として休職から復職までの流れや留意すべき点を把握しておくことが大切です。休職者を復職させるまでの一般的な手順は、以下のとおりです。
- 休職開始~休職中のケア
- 復職希望の申し出
- 復職に向けた面談
- 復職可否の判断
- 職場復帰支援プランの作成
- 復職の決定
以下で詳しく見ていきましょう。
①休職開始~休職中のケア
休職を希望する社員から管理監督者に診断書が提出されることにより、休業が開始します。
管理監督者は労務担当者に連絡し、本人に必要な事務手続きや職場復帰支援の手順について説明する必要があります。安心して療養に専念できるよう、以下の情報を伝えるのが良いでしょう。
- 休職可能な期間
- 休職中の給与や社会保険の取扱い
- 傷病手当金などの経済的保障
- 会社からの連絡時期や内容
- 不安や悩みの相談先
- 休職中の過ごし方
- 職場復帰支援サービスの案内など
休職中の適切なフォローがスムーズな復職につながります。休職中も休職者と定期的にコミュニケーションを取り、治療や通院の状況、日常生活が送れているか、不安や悩みはないか、手続き面での不明点などを確認します。
②復職希望の申し出
休職者から復職希望の申し出を受けた場合は、職場復帰できるかどうか見極める必要があります。単に復職したいとの希望だけを理由に、安易に復職させてはいけません。
会社は社員の健康に配慮すべき義務を負っています(労契法5条)。
まだ体調が回復していない状況で安易に復職させ、症状が悪化してしまった場合は、安全配慮義務違反として損害賠償責任を負う可能性があります。復職を希望する社員の状況を確認することは重要な作業ですのでご注意ください。
休職期間を過ぎても復職が難しい場合は、再度診断書を提出してもらい、延長の可否を判断します。
③復職可否の判断
休職者から復職希望の申し出を受けたら、復職可能という、主治医の診断書の提出を求めましょう。
健康状態だけでなく、復職後の働き方の注意点や必要な配慮について、主治医の意見を記載してもらいます。
主治医が復職可の診断を出しても、日常生活を送るうえで問題なしというレベルで、現場で働けるまでは回復していない可能性もあります。そのため、提出された診断書は産業医などに精査してもらい意見を求めることが重要です。
主治医や産業医の意見、本人の復職の意思や状況、職場環境などを踏まえて、職場復帰の可否を判断します。また、どのような業務内容や業務量が妥当か、勤務時間や勤務の方法、部署異動など、復職の際に求められる配慮についても検討する必要があります。
復職可否の判断基準
復職可否については、主治医の診断書や産業医による面談結果などをもとに、社員の状況や職場の受け入れ態勢などを踏まえて、総合的に判断することが大切です。
復職可否の判断基準の例として、以下が挙げられます。
- 復職に十分な意欲がある
- 1人で安全に通勤できる
- 決まった勤務日や時間に継続して働ける
- 仕事に必要な作業ができる
- 作業による疲れが翌日までに十分回復する
- 睡眠リズムが適切、昼間に眠気がない
- 業務遂行に必要な注意力・ 集中力が回復している
- 職場の受け入れ態勢が万全である
社員が完全には回復していない状態で復職を求めたとしても、一定期間の業務軽減や他の業務であれば復帰できる場合は応じるべきでしょう。復職を認めないと不当解雇として訴えられる危険性があるからです。
④復職に向けた面談
復職させる前に、本人との面談の機会を設けましょう。産業医が中心となり、労務担当者や上司なども交えて行います。
直接本人の様子を確認しヒアリングした上で、職場復帰できるかどうかの判断や必要な配慮の確認、復職後の職場環境の検討などを行います。
復職面談は再休職を防止するためにも重要な手続きです。
面談で確認すべき事項として、以下が挙げられます。
- 現在の体調や精神状態、通院状況
- 服薬中の薬の副作用や、病気による後遺症が業務や通勤に支障を与えないか
- 職場・業務内容への適応性
- 職場復帰への意欲
- 通勤の可否
- 勤務時間や雇用形態の希望
- 勤務で配慮してほしい内容
- 復職について不安や悩みはないか
- 生活のリズムに問題がないか、睡眠は十分とれているかなど
⑤職場復帰支援プランの作成
復職が可能であると判断した場合は、スムーズな職場復帰を支援するためのプランを作成します。
産業保健スタッフを中心に、上司、労務担当者、休職者が連携して作成します。
プランに定める内容は次のとおりです。
- 復職日
- 復職後の支援内容(業務内容・業務量の変更、残業の制限、治療上必要な配慮など)
- 労務管理上の対応(配置転換や勤務制度変更の要否など)
- 産業医による安全配慮義務や職場復帰支援に関する助言
- 管理監督者や産業保健スタッフ等によるフォロー
- 社員自身で取り組む内容(試し出勤や外部支援サービスの利用等)
支援プランは就業規則に抵触しないよう作成する必要があります。
就業規則の復職の規定に沿って、復職日や配慮すべき内容などを盛り込みましょう。
⑥復職の決定
これまでのステップを踏まえて、会社による最終的な復職の決定を行います。
復職決定までの流れは、以下のとおりです。
- 休職者の状態の最終確認
症状の再燃や再発の有無等について最終的な確認を行います。- 就業上の配慮などに関する意見書の作成
産業医等が就業に関する措置をとりまとめて、職場復帰に関する意見書等を作成します。- 会社による最終的な復職の決定
会社は最終的な復職の決定を行い、その旨と就業上の配慮の内容について社員に通知します。
管理監督者や産業保健スタッフ等は、職場復帰に関する意見書等の内容を確認しながら、各自責任を持って遂行するよう努めます。- その他
社員を通じて主治医にも就業上の配慮の内容等について情報提供します。
休職者の復職後に必要な対応
病状の再発や離職を防ぐには、管理監督者や産業保健スタッフ等による経過観察やフォローが必須です。
復職後に必要な対応は以下のとおりです。
- 病気の再発、新たな問題発生等の有無の確認
- 勤務状況と業務遂行能力の評価
- 職場復帰支援プランの実施状況の確認
- 治療状況の確認
- 職場復帰支援プランの評価と見直し
- 職場環境等の改善(作業環境・方法や、労働時間・労務管理などの改善)
- 管理監督者、同僚などへの配慮
復職後は、病気の再発や新たに問題が発生していないか、定期的にチェックしましょう。
問題が生じている場合は、業務内容や勤務時間の変更、負担が大きい仕事は周囲の社員がフォローするなど適切に対処しましょう。必要に応じて職場復帰支援プランの見直しを行うことも必要です。
休職者を復職させる際の注意点
プライバシーの保護
復職支援で注意すべきことが、休職者のプライバシー保護です。
会社は休職者の状況確認などのため、休職者のさまざまな情報を集めます。
しかし、健康情報はプライバシーに関わる情報であり、社内に漏えいすると、病気差別や病状の再発を招くリスクがあります。管理監督者や労務担当者は重要な個人情報を扱っていることを認識し、以下のプライバシー保護対策をとる必要があります。
- 取扱う健康情報などは必要最小限にする
- 収集する際は本人の同意を得る
- 情報を第三者に共有する際は本人の同意を得る
- 情報の取扱者とその権限を明確にする
- 情報は特定の部署で一元管理する
- 情報漏えい防止策を講じる
- 衛生委員会などの協議をもとに、健康情報などの取扱いルールを作成し関係者に周知する
メンタルヘルスへの配慮
うつ病などメンタル不調が原因で休職していた場合は、復職において特にきめ細かなメンタルヘルスへの配慮が求められます。
配慮の例として、以下が挙げられます。
- 上司や同僚が復職者の状況を必要な範囲で理解し、それに応じたコミュニケーションをとる
- 会社担当者、産業医、主治医が連携し、発生している問題への対応策を検討する
- 定期的に全社員を対象としたメンタルヘルス研修を行い、精神疾患への理解を深める
復職後のメンタルケアには、周囲の社員の理解と支援、無理のない段階的な復帰が不可欠です。
復職直後は業務負担を軽くし、徐々に体を慣らすという姿勢で対応しましょう。休職に至った原因を根掘り葉掘り聞くことは控えて、また共に働けて嬉しい気持ちを示すことが大切です。
メンタル不調の社員への対応については、以下のページをご覧ください。
さらに詳しくメンタルヘルス不調社員の対応ポイント就業規則の復職規定の整備
復職にまつわるトラブルを予防するためには、就業規則の整備も重要です。
休職や復職は法的に義務付けられた制度ではないため、就業規則で自由に定められます。
就業規則に盛り込む内容は次のとおりです。
- 会社が認める休職事由や休職期間
- 休職するために必要な手続き
- 休職期間中の給与や社会保険料の取扱い
- 休職期間中の報告義務、療養専念義務
- 復職の条件
- リハビリ勤務制度
- 休職期間の通算方法など
なお、休職期間満了後も職場復帰できない場合は、自然退職とする規定を設けることも可能です。
休職期間満了時の自然退職は就業規則に定めがあれば認められ、退職届や解雇通知は不要です。
もっとも、復職拒否が実質的に解雇と同視できる場合には、不当解雇と訴えられてトラブルになる可能性があるため、注意が必要です。
休職者の復職に関する裁判例
事件の概要
(平成26年(ワ)第24161号 東京地方裁判所 平成29年11月30日判決)
電力会社Yで働く技術系社員Xが、精神疾患(自閉症スペクトラム、気分障害など)を理由に休職していたところ、休職期間の満了により退職となったことに対し、休職期間満了時に復職が可能であったと主張して、職場復帰を求めて裁判を起こした事案です。
裁判所の判断
裁判所は以下を理由に、社員の復職の請求を棄却しました。
- 復職が認められるには、①休職前の業務が行える健康状態、②軽易作業であれば同業務を行える健康状態、③Xと同職種で同程度の経歴者が配置されている可能性がある他の業務について従事でき、Xも希望すること、いずれかを満たす必要がある。
- 主治医はXの休職期間中のリワークプログラムの評価(低い出席率など)や、プログラムを担当した精神科医と産業医が復職困難と判断した意見を踏まえていないため、主治医の復職可能との診断は考慮できない。
- Xが異動を希望する部署の業務は、24時間体制の監視業務や、他部署や社外とのやり取りが要求される業務であるため、Xには大きな精神的負担となり精神疾患の再発を招く可能性がある。
ポイント・解説
休職期間満了時において、産業医やプログラム担当医は復職不可と判断したものの、主治医は復職可能と判断した事案において、裁判所は産業医等の判断を重視し、復職は認められないと判断しています。
また、社員の回復の程度だけでなく、病気の特性も考慮して、配置転換は行えないとしている点もポイントです。
主治医は定期的な通院を通じて病状を確認していることから、主治医の意見を重視すべきとも思われます。ただし、社員から復職を懇願されて復職可能と判断してしまう可能性も否めません。
他方、産業医は会社の業務内容等を理解しているため、社員の症状だけでなく、業務との関係で勤務できるかどうかを判断できます。産業医の判断は十分に重視すべきでしょう。
休職者の復職について必要な対応などは弁護士にご相談ください
社員が休職に至った原因を会社側が把握せず、根本的な問題解決やフォローを行わないまま復職させると、病状が悪化して再休職することになりかねません。また、復職を認めなかった結果、不当解雇として訴えられるおそれもあります。
これらのリスクを回避するためにも、復職対応については、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人ALGには、企業側の労働問題を得意とする弁護士が多く在籍し、休職者の復職についてもノウハウの蓄積があります。これまでの実務経験を踏まえて、復職可否の判断や職場復帰支援の方法などについて的を射たアドバイスが可能です。ぜひご相談ください。
この記事の監修

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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