解雇
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#解雇

監修 | 弁護士 家永 勲 弁護士法人ALG&Associates 執行役員
契約社員については、非正規社員であることから「いつでも好きな時に解雇できる」と誤解する経営者の方も見受けられます。
しかし、実際には契約社員の解雇は法律で厳しく制限され、正社員の解雇よりも難しいのが現状です。
期間満了前に雇用を終了せざるを得ない、よほどの事情が求められます。
誤ったやり方で解雇すると、不当解雇として裁判トラブルになる可能性もあるため注意が必要です。
この記事では、契約社員の解雇が認められるケースや、解雇する際の注意点などについて解説します。
目次
契約社員を雇用期間途中で解雇することは原則できない
契約社員を雇用期間の途中で解雇することは原則として許されません。
ただし、やむを得ない事由がある場合は、期間途中の解雇が認められます(労契法17条)。
やむを得ない事由は、正社員の解雇以上に厳しく解釈されます。
契約期間を定めた以上、期間中の雇用は保障されるべきとの考えが根底にあるからです。
契約期間の満了を待たずに解雇せざるを得ない事由を指し、労働者側の重大な非行(犯罪や著しい勤務態度不良など)、病気やケガによる就労不能、経営難などが該当します。
他方、能力不足については、期間満了に伴い雇止めを行えば足りるとして、重大な能力不足でない限り「やむを得ない事由」とは認められにくいです。
能力不足の契約社員の解雇を検討している場合は、雇止めも検討すべきでしょう。
例外的に契約期間中の解雇が認められたケース
例外として、実際に裁判で契約期間中の解雇が認められたケースとして、以下が挙げられます。
- 体力が必要な業務の採用時に、年齢詐称をしていた
- 配置転換命令を拒否し、無断欠勤を続けていた
- 無断欠勤を隠したうえで副業も行い、給料を二重取りしていた
- 顧客や同僚に対し、威圧的または乱暴な態度で接し、繰り返し注意・指導しても改めなかった
このように、契約社員の期間途中での解雇が認められるのは、無断欠勤を続けていた上に勤務態度も悪いなど、懲戒解雇に当たるような相当悪質なケースに限られます。
契約社員の契約期間中の解雇が認められた判例
【令和元年(ワ)22998号 東京地方裁判所 令和2年3月27日判決】
(事案の内容)
介護グループホームYが、契約社員として雇用した社員Xを試用期間中に解雇した事案です。
Xは入居者に対し小学生のような言葉遣いや、大きな声で「オムツだよ」と言うなど配慮に欠ける発言をし、それを注意した同僚には、「いい加減にしろ、てめい」「おぼえていろよ」などの乱暴な発言を続けていました。
そのため、YはXの担当業務を介護から記録業務等へと変更しましたが、その後も同僚や上司にこぶしを振り上げる、手首を乱暴につかむなど威圧的な態度をとり、指導しても改めなかったため、YはXを解雇しました。これを不服としたXは解雇撤回を求めて提訴しました。
(裁判所の判断)
裁判所は以下を理由に、本件の契約社員の解雇を有効と判断しました。
- Xは会社からの再三の注意指導を無視し、入居者の羞恥心を喚起させる言動に及んだり、同僚にも乱暴な言動を続けたりしていた。
- Xには入居者の介護を行うことが予定されていたが、Xに入居者と直接接する介護業務を任せることは難しく、さらに同僚にも威圧的な言動を続けていたため、入居者とは直接接しない仕事を任せるのも困難であった。
- 本件解雇が適性を見極めるための試用期間中のものであったことからすれば、雇用契約が有期であったことを考慮しても、解雇にはやむを得ない事由が認められる。
(裁判例のポイント)
契約社員の解雇がやむを得ない事由ありとして認められた裁判例です。
職場内で暴力をふるったり、暴言を吐いたりする契約社員については、クビになって当然と考える方は多いでしょう。
しかし、会社側の改善指導が不足していたことや、暴力や暴言の原因が契約社員以外にもあったことを踏まえて、解雇が無効と判断された裁判例も存在します。
本件のように、契約社員を解雇するには、会社が注意指導や業務内容の変更など十分な改善措置を講じたうえで、それでも改善が見られないという「やむを得ない事由」が求められます。
即解雇に踏み切らず、企業努力として日々改善指導することが必要です。
契約社員の契約期間が満了となれば解雇できる?
契約社員の解雇は雇用契約期間が終了したタイミングで契約を打ち切り、次の契約をしないことが一般的です。
このことは解雇ではなく、雇止めと呼ばれています。
契約で定めた期間は終了しているため、雇止め自体は適法です。
実際に雇止めをする場合は、雇用契約書で雇用契約期間が終わるタイミングがいつなのか確認する必要があります。
もっとも、雇止めはどのような状況でも無制限に認められるわけではありません。
雇止め法理という法律上のルールにより一定の制限が設けられています(労契法19条)。
以下で詳しく見てみましょう。
雇止め法理が適用される場合
雇止め法理とは、雇止めに一定の制限を課すルールです(労契法19条)。
契約社員であっても、更新が繰り返されて長期間働いているような場合は、実態として正社員と同じであり、社員も更新されるとの期待を抱くはずです。
そのため、正社員と同視できる契約社員については、解雇権濫用法理が類推適用され、正当な理由のない雇止めは無効と判断されます。
このルールが雇止め法理です。
具体的には、以下のいずれかに当てはまるときに、雇止めすることに合理的な理由と社会的相当性が認められなければ雇止めが無効となり、社員が求めれば契約が更新されます。
- 何度も有期労働契約の更新が繰り返されて雇用が長期に及ぶ場合
- 労働契約の満了時に契約更新されると期待する合理的な理由がある場合
契約社員への解雇予告・手当は必要?
契約社員を契約期間途中で解雇する場合は、30日前までに解雇予告を行うか、解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払う必要があります(労基法20条)。
また、雇止めについては、以下のいずれかに当たるときは、契約期間終了の30日前までに雇止めを予告する必要があります。
- 有期雇用契約を3回以上更新している場合
- 1年以上継続して雇用している場合
雇止めについては、30日前の予告ができない場合の手当の支払い義務はありませんが、トラブル防止のためにも、解雇予告手当相当の支払いを検討するのが望ましいでしょう。
契約社員を解雇以外に処分する方法
懲戒処分
契約社員の解雇が認められるには、高いハードルをクリアする必要があります。
解雇が無効となった場合のリスクを考えれば、雇止めを行うのが現実的ともいえます。
しかし、契約社員の問題行為により、職場の人間関係や業務に支障が生じている状況を放置するのも問題です。
そのため、契約社員が会社の規律や秩序を乱す行為を行った場合は、ペナルティとして懲戒処分を行うことも検討すべきでしょう。
ただし、懲戒処分は自由に行えるわけでなく、不適切な処分は権利濫用として無効となります(労契法15条)。
懲戒処分を行う際は、懲戒処分の根拠を就業規則に定めた上で、行為の態様や動機、会社が受けた損害の大きさ、社員の情状、過去の処分歴などに照らして相当な処分を行う必要があります。
懲戒処分を行う際の注意点について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
さらに詳しく懲戒処分を行う際の注意すべき3つのポイント退職勧奨
社員とのトラブルを避けたい場合は、期間途中の解雇や懲戒処分を行わずに、退職勧奨を行うという方法もあります。
退職勧奨とは、会社から社員に対して、会社を辞めるよう説得することをいいます。
解雇とは違って、退職するか否かの決定権は社員にあり、社員が退職に承諾したときは退職合意書を作成します。
合意のもとで退職してもらうため、トラブルを最小限に抑えられるメリットがあります。
ただし、退職勧奨も度が過ぎると、退職強要として違法となる可能性があります。
退職強要の例として、何度もしつこく勧奨したり、勧奨時に差別発言や威圧的な態度をとったり、退職に追い込むために苦痛な仕事を命じたりするなどの行為が挙げられます。
退職強要と判断されぬよう、注意して交渉を進めて下さい。
退職強要と判断されるケースについて知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
さらに詳しく退職強要とは?退職勧奨が違法となるケースや注意点契約社員の解雇を検討する際は労働問題に詳しい弁護士にご相談ください
契約社員を解雇する場合は、正社員を解雇する場合よりも、さらに高いハードルをクリアする必要があります。
深く考えずに解雇してしまうと、解雇無効として多額の支払いが命じられるなど、会社として大きな損害を受けるおそれがあります。
契約社員の解雇については、入念な準備が必要です。
まずは解雇を法的に有効に行えるのか、または契約期間の終了まで待って雇止めすべきなのかを見極めなければなりません。
さらに、雇止めを選択するとした場合でも、雇止めの有効性や、それまでにどのような指導や懲戒を行えば良いかについての判断も求められます。
自社だけでは判断が難しい場合は、労働問題に詳しい弁護士にぜひご相談ください。
この記事の監修

弁護士 家永 勲
弁護士法人ALG&Associates 執行役員
- 保有資格
- 弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:39024)
執行役員として法律事務所の経営に携わる一方で、東京法律事務所企業法務事業部において事業部長を務めて、多数の企業からの法務に関する相談、紛争対応、訴訟対応に従事しています。日常に生じる様々な労務に関する相談対応に加え、現行の人事制度の見直しに関わる法務対応、企業の組織再編時の労働条件の統一、法改正に向けた対応への助言など、企業経営に付随して生じる法的な課題の解決にも尽力しています。
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